たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記 最終章 第7話:光

たくみの営業暴露日記
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第7話:光

時は6月末。言わずと知れた重大月。全員大会に第一報、慌ただしく動く営業所の中に加藤の姿はまたしてもなかった。

──実に入社以来5度目の入院。

理由は今までと少し違い、異型狭心症と診断されていた。極度の心身の疲労、及びストレスが原因だから、無理するな、疲れを感じたら休め、睡眠を良くとれ、というお決まりのお言葉。過去何度も聞いた医師の話は……加藤の残酷な未来を如実に表していた。

──やっぱり……症状が悪化してる。たったあれだけの飛び込みをしただけで、身体が悲鳴をあげるなんて……これじゃもう飛び込みできない──というか、営業できないじゃん……俺にはこれしかできないのに……仕送りしてあげなきゃいけないのに……約束守れないじゃん……何一つ……クソ!

倒れてから5日目、加藤はカテーテル治療はとうの昔に終わったにも関わらず、未だ退院できずにいた。いつもの様にベッドの中でマイナスな事ばかり考えていると、ドアノックと共にガチャっとドアを開けて入って来た人物が。九重であった。

「たくみ君、元気──じゃないみたいだね。治療、そんなに辛い?」

「いや……今は点滴くらいしかやってなくて寝てるだけだから治療はラクだけど……ね。自分自身の不甲斐なさに落ち込んじゃってね……」

「……やっぱりもう無理だって言われた?」

「これ以上続けたら命の保証はできない……だって。別に命が惜しい訳じゃないけど、あんな数件の飛び込みで倒れる様じゃ……ね。ハハハ、俺、終わったよ……」

「……」

「ごめん、九重。お前を楽しませるような未来見せられなくて。せっかくみんなを敵に回してまで俺と一緒にいてくれたのに、助けてくれたのに……ま、俺の事は今日限りで忘れて、フィアンセと──」

「まだたくみ君は終わってないから。私がどうにかしてあげるって言ったでしょ」

「いや……営業できない俺なんて──」

「何も飛び込みだけが営業じゃないじゃない。他の手段考えればいいだけじゃない。これからはネットの時代から。たくみ君の体験談とか、滅茶苦茶面白いから、上手くやればネット上で活躍できるよ」

「……!」

「それに、元々たくみ君、営業向いてないよ」

「は? 俺、営業は天職だと思ってたし、成果もそれなりにあげてるのに?」

「だって、全然数字追ってないじゃない。相手の事だけを考えて利益度外視で提案して、全然無理強いしてないし。トーク力もそこまでないし押しも弱いし。営業マンとして致命的だよ、それ」

「けど──」

「話は最後まで聞いて! 私は……たくみ君の仕事の仕方、好きだよ。営業マンや商売人としては失格かもしれないけど、FPとしては理想的だよ」

「……!」

「たくみ君は……FP向きだよ。FPになるべきだよ。きっと……たくみ君ならネット上で活躍するFPの先駆者になれるから」

「……────ッ」

「パソコンは……私が1から教えてあげるからね。私、こう見えても商業科いってたから、パソコンはそこそこ詳しいから」

「────ッ」

「私のお古のノートPCで悪いけど、これあげるから。まずはキータッチから覚えないとね。フリーのタイピングゲーム入れてあるから、まずこれクリアする事が目標だよ」

「────ッ」

「大丈夫、たくみ君はこのまま終わらないから。私が……どうにかしてあげるから」

「────ッ」

まるで美幸が乗り移ったかのような彼女の優しい一言一言が胸に突き刺さり、加藤はまるで子供の様に泣き続けた。人目も気にせず、流れる涙を拭く事もせず、延々と……

絶望から一筋の光を照らしてくれたのは、九重であり、そして美幸であった。

営業を諦めた夏の日は、FPへの初めの一歩を踏み出した日でもあった。

挿話?

はい、微妙にいい話ですね。

飛び込み営業との因果関係はどうだか分からないですが、冗談抜きにドクターストップかかりました。これ以上今の仕事してたら、命の保証はできないよ、と。この時、ホント「詰んだな……」と酷く落胆しました。

別に命が惜しかった訳ではなかったですが、数件飛び込んだ程度で狭心症になる様じゃ、話にならんよな、と。(特攻隊しようにも、敵地に行く前に墜落してしまうな、と、そんな心境)

やっぱあの時死ぬのが正解だったじゃん!等と異様に後ろ向きな事を考えていたら、九重が現れて~ゴニョゴニョ言われて心動かされて~っと。あまりにも出来過ぎな話の裏話は次回にでも。(ある意味蛇足に近いので、書かない方がキレイかもしれないですがね。。。)

この時から、ネット上でFP活動を~と構想しだしました。・・・といっても、全く計画性もなければアイデアもなく、ただ単に「やる気だけは誰よりもある(自称)」というだけでしたが。

同時に、退院後に「退職する為の挨拶回り」を始める訳ですが・・・皮肉にも「ロウソクが消える前の輝き」が如く・・・

実はここから終わりまでは既に書いたものがあるのですが(その予定だと、後4話)、読み返すとまるで連載終了決定の漫画の様に異様に駆け足になっているので、もう少し肉付け予定です。(と言いながら、ちょっと書き足す程度で4回で終わるかもですが)

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