第8話:win-win?
あれから5日後、未だ退院できず暇を持て余していた加藤は必然的に九重から与えられたノートPCと毎日格闘していた。
──取りあえず、毎日ノートPCのキーボードに触れる事。まずは普通に文字が打てる様にならなくちゃ話にならないからね。暇な時にでもキータッチの練習してね。そうだね~、このタイピングゲームをクリアできる事が最初の目標ね。
という九重の言いつけを守り、北斗の拳のタイピングゲームに日々精を出していた。
「──クソ! またコイツにやられた! これ、無理ゲーじゃん!」
「www ちょっと代わって。──ひでぶっ──……これくらい、片手でもクリアできるじゃん」
「──! ク、クソ……絶対九重に一泡吹かせてやる!」
「www 頑張って。もし1週間でこのゲームクリアできたら、1つだけ何でも言う事聞いてあげるから」
「あ……絶対無理だとバカにして……クソ! 絶対後悔させてやる! ぅぉぉおおおお!」
「wwwwww」
──2日後
「──や……った……ようやくクリア……したぞ!」
「ま、まさかホントにクリアするなんて……しかも2日で……?」
「そりゃ、こればっかり延々とやってたからね。って、まだ初心者用だから、後2つもあるのか……前途多難だなぁ……」
「……じゃ、約束通り……何でも1つ言う事、聞いてあげる」
「あ、別にいいって~、本気にしなくても」
「いや! 約束したから! 約束は絶対守るべしというのが私の信条だから!」
「そ、そう? ホントに何でもいいの? 俺、凄い事言っちゃうかもしれないよ?」
「い、いいわよ……何よ!」
「じゃぁ、さ……────」
「──?!」
──1週間後(退院後)
「うぅぅ……何でこんな事に……普通、あれだけの事でここまでして貰おうと思う?」
「www 俺、元々空気読めないから」
「結婚するまで毎晩飯作りに来いなんて……一体どういう神経してるのよ!」
「だから言ったじゃん、別に約束守らなくても構わないからって。聞いてあげるっていう事は叶えてあげるっていう意味じゃないともいえるし」
「そんなペテン師みたいな事、私のプライドが許さないから! それにしても……うぅぅ……私は何をやってるんだろう……」
「ま、いいじゃん、花嫁修業だと思えば。それに一緒に飯食って食費も浮いてラッキーじゃん」
「彼氏とロクに会えないじゃない! 今日だって断って来たんだから! このバカ!」
「別に結婚したら嫌でも毎日会う訳だから、ま、いいじゃん。それにちょっとくらい会わない方が会った時、燃えるでしょ? 半年……3ヶ月だけでいいから。俺が辞めるまで、お客さんへの挨拶回りが終わるまで、身体が持つように……って、流石に迷惑かけすぎか、ごめん。やっぱいい──」
「やるって言ってるでしょ! 何度も言わせないで! こうなったら徹底的にやるわよ! 明日から朝食も作るから!」
「い、いや……流石にそこまで望んでないから。わざわざここに来るの大変──」
「今日から奥の部屋使わせて貰うから!」
「……は?」
「部屋いっぱい空いてるから問題ないでしょ! 今日からここに泊まりこむから! ……私の部屋に勝手に入って来ないでよ!」
「お、お前……バカ? どこの世界にフィアンセがいるのに他の男の家に住み込むヤツがいるんだよ……もしバレたら──」
「そんな私を毎晩通わせておいて、良くそんな事言えるわね! こんな事バレたら一環の終わりなのは同じでしょ! いっその事、もう住み込んだ方がまだバレるリスク低いから! いちいち家に帰るのも面倒だし! 明日、合い鍵貰うからね!」
「わ、分かったよ……けど、俺に手を出さないで──」
「それは私の台詞でしょ! ったく、もうこの男は……(ブツブツブツ……)」
──夜
「──♪」
「お、お前……最初からココ、住み込む気だっただろ。何でパジャマ着てるんだよ!」
「ん~、気のせいだって。たまたまバッグに入ってただけだから~」
「洗面所に何故か見知らぬ歯ブラシあるし、シャンプーやリンスやトリートメントも、ドライヤーまで──」
「たまたまバッグに入ってただけだから~」
「クローゼットの中の服とか靴箱のヒールやブーツとか……いつの間にこんなに持ち込んでたんだよ!」
「ん~、怪奇現象でも起きたんじゃない? やー、ここからの夜景を見ながら飲むワインは格別だな~。あ、明日ワイングラスとワインセラー買いにいこうよ。それにスタンドライトがあった方がより雰囲気でるかな~。あ、どうせだったらカーテンも統一したいな~」
「お前……絶対計画的だろ……俺を誘導しただろ……ここ狙ってただろ……」
「たまたまだって~。いくらここが都心で異様に立地が良くて会社から近い憧れの最上階の億ションでも、そこまで私、悪女じゃないから~。フィアンセいるし~」
「……お前、絶対将来痛い目会うぞ……バチあたるぞ……」
「神様もそんなに暇じゃないって~。バレなきゃ大丈夫でしょ~。私、健気な子を演じるの上手いし~」
「お前……絶対地獄落ちるよな……天国いけないよな……」
「www そんな宗教論なんて知らないわよ。じゃ、レイプされて産まれた子とか、どうなるの? 私みたいに」
「──?!」
「ロクに親に面倒みて貰えなくて、小学生の頃から空腹満たす為に万引きし続けて何とか生きてきた私は地獄に堕ちるんだ。だとしたら、神様も不公平だよね。私なんて……産まれた時から地獄行きが決まってる様なものじゃん」
「そ、そうだったんだ……ご、ごめん……」
「www 今、とっさに作った作り話に決まってるじゃない。ホント、騙されやすいよね、たくみ君は。そんなんじゃ、将来苦労するよ? 一緒に住んでいる間、私がしっかり教育してあげるから」
「……ありがと。って、何か話が逸れた気がするけど……何の話だったっけ?」
「ん? 私と一緒に住んでくれっていうたくみ君のお願いを私がしょうがなく叶えてあげるって話でしょ? 何言ってるの?」
「そ、そうだったっけ? な、何か違う様な気がするけど、ま、いいや。……今の俺にはお前が必要だし、お前もこの環境を手に入れたかった……要するにwin-winの関係という事でOK?」
「ちょっと分が悪い気するけど、それでいいよ。……家賃や光熱費は払わないからね」
「最初から期待してないよ」
「結婚するまでだからね。それ以後は知らないからね」
「それで構わないって。最初から言ってるじゃん」
「私に手を出さないでね」
「お前こ──いや、何でもない。了解」
「万が一の時は……責任取ってよね」
「ないと思うけど、了解。万が一の時は……ね」
「ヒモは嫌だからね! 私、絶対働かないからね!」
「……最悪の時は保険金の受取人、お前にするから。って、お前、俺で遊んでるだろ! なんだよこの会話!」
「wwwwww」
「ま……何でもいいや。……これからしばらく、よろしくな、九重」
「こちらこそ♪」
九重あすかは──想像以上にバカで……責任感が強く、狡猾で……いいヤツだった。
こんな形で始まった2人の絶対バレる訳にはいかない秘密の不思議な同居生活は、九重が結婚式を迎える前日まで続く事となる。
加藤は結果的に、この同居生活のおかげで退職までの間、奇跡的に倒れる事なく日々を送る事となった。
挿話?
最大の黒歴史その2……という所でしょうか。
いまいちよく分からない流れで、同棲……というかルームシェアというか、そんな感じで暮らしていました、退職前までの暫くの期間。
双方とも「墓場まで持っていく秘密」という認識で一致しているこの同居……双方ともクズな理由でした。
「取りあえず俺の体調管理しろや! 俺1人じゃ管理できないんだよ!」(加藤)
「都心の億ションの最上階の部屋、無料で住まわせろや! 飯作ってやるから、いいだろ!」(九重)
お互いの需要と供給が一致したというか何と言うか……書いていて、双方とも酷いな、、と。
「利用できるものは何でも利用しなきゃ。倫理で死んだり不幸になったらアホみたいだし」
……詐欺師とかが如何にも言いそうな事を……ね。どちらが言ったかは忘れましたが。
あまりにもクズな話なので、略そうかと思いましたが、ま……もう時効の話だと思うので。。
「あぁ、ルームシェアでしょ? 今の時代、別に珍しい事じゃないから普通だよ~」
とでも思って頂ければ幸いです、はい。
このまま本編へ移行しても差し支えはない感ありますが……あえて黒歴史をもう1つ書く予定。。(実はこの話抜きで書いていたのですが、、、創作は苦手で……オチというかラストが上手く書けず、しょうがなくこのリアルを書いたよ、というのが本音……)
いや、そもそも黒歴史を書かずに一気にラストまでいった方が良かった……か?
全て書き終えた後で、数話程削除するかも。。。
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