たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記 最終章 第11話:皮肉な成果

たくみの営業暴露日記
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第11話:皮肉な成果

時は9月。紆余曲折あって、結局当初の予定通りに退職を決意した加藤は顧客への挨拶回りを始めていた。
退社の意を伝えるのに回るのは、最初は一抹の不安を感じていた。自意識過剰ともいえるかもしれないが、加藤が辞める事に対し酷く悲しんだり、無責任だと怒る人が少なからずいるであろうと思っていたからである。が、その思いは限り無く杞憂に終わる事に。

「何? 加藤君、辞めるの? そりゃ良かった。もしも他社にいったとして、今入ってるのよりいい商品があったら是非教えてよ」

「おぉ、辞めるのかね? そりゃ良かった。実は今の保険、ちょっと家計が厳しくなってたから減額でもしようかと思ってたんだけど、加藤君に悪いかな、と思って中々言い出せなかったんだよ」

etc…

実に9割以上の加藤のお客は、加藤が辞める事をむしろ喜んでいた。

(……一体、喜ばれるって……そういうもの……なのか?)

全く他の業界への転職という事ならば展開は違ったのかもしれない。が、同じ業界に居残るという事により、意外な程歓迎を受けた加藤はある種の戸惑いすら受けていた。

加藤の挨拶回りは、契約を頂いた所のみにとどまらず、いわゆる「見込み」レベルである人の所まで同時進行でこなしていた。この「見込み」レベルの人への挨拶回りにて、全く想像しえなかった出来事が起こる。

「こんにちわ、○○生命の加藤です。今日は御挨拶にお伺いしました。実は……今年度一杯で今の会社を辞める事になりまして……」

「え? 加藤君、クビになるの?」

「あ、い、いや。クビになる訳ではないんですが、色々ありまして……他社へ行くか独立しようかと思いまして」

「あ、な~んだ、生保業界を辞める訳じゃないんだね。なら安心だ」

「──は?」

「いや、案外いつも加藤君が来るのを楽しみにしていたんだよ。で、仮に業界が変わるとなると、今みたいに来れなくなるかな、と思った訳だけど、同じ業界ならまた同じように来てくれそうだし」

「あ、も、もちろん来てもいいのならば、絶対来ますよ」

「ん? なんで加藤君が来るのを拒まなくちゃいけないのさ。是非来てよ」

「あ、ありがとうございます!」

意外な展開の話であった。

加藤自身はあくまでも生命保険会社のいち営業マンとして話をしているのみという認識で、会社という看板があるから出迎えてくれている、話を聞いてくれている、と考えていた。あくまでも自分の存在はおまけなんだ、と。が、どうやら加藤は自身が思うより、遥かに大きな存在、会社という枠を超えた存在として見られている、そう感じずにはいられなかった。

さらに加藤の全く想像しない話が続く。

「で、丁度良かった。ちょいと保険の話を聞きたいんだが……」

「え? お、俺……辞める人間です……が?」

「だからいいんじゃないか。客観的な意見、聞けるだろ、お客の立場としては、さ。どうしても会社に所属しているうちは、自社商品のいい事しか言えないだろうが、今の立場なら自由に言えるだろ?」

「……!」

意外な話ながらも、的を得ているなと思った加藤は、今までにないくらい丁寧に、素直に、客観的に保険の話をした。

「ほぉ、なる程なぁ。この商品だとこっちのが値段は安くて、こっちだと加藤君の今の会社のがいい訳……か。ん~、これだけ素直にメリット・デメリットを客観的に言われると、気持ちいいもんだなぁ。よし! ま、面倒だから今加藤君にお願いしちゃうよ!」

「……は?」

繰り返しになるが、加藤は今年度をもって退社を予定している。その挨拶をしに来て1時間少々、その加藤から契約する、というのだから加藤の驚きは大きかった。何よりも、デメリット(値段の高さ)を比較して提示したのにも関わらず、入るという心情が加藤は理解出来ず、思わず質問した。

「で、でも……お、俺は辞める人間ですし……しかも、デメリットもお伝えしました……よね。な、なのになんで入る……んです? しかも、俺が今まで説明しても全く入らなかったのに」

「ん? いやぁ、逆にデメリットというのも聞いて判断するのが一般的だと思うんだけどね。今までどこの営業もデメリットについては語らなかったから、契約は躊躇してたんだけど、これだけキパっと言ってくれる人からなら、入る価値は十分あるな、と。加藤君なら、全く他の業界にいったとしても、電話したら来てくれそうだしね」

何という事だろうか、契約が取れてしまった。それも今まで全くといっていい程、保険加入する気がなさそうであった所が。ここまで言われて契約を交わさない訳にもいかず、何か狐に包まれたかのような思いで、契約を交わした。
 
(……ま、まぁ……こういう所も、あるよ……な)

本来ならば喜ぶべきハプニングといえる訳ではあるが、辞めると決心した加藤は非常に複雑な心境のまま、歩みをとめる事なく1件1件挨拶回りをした。

「あぁ、加藤君かね……(1時間半後、同じような展開で)じゃ、入るよ」

「……は?」

1件だけの特殊な事例ではなく、1件、さらに1件と……同じような展開が続く事に。

辞めると決心、完全に利害関係抜きに説明をし、全く成果を期待せず、ただ「お客さんの為」という気持ちだけで行った行動により、加藤の成果は見る見る内に上昇していく事になったのである。

事実、この動きをするようになってからの方が遥かに今までよりも好成績をおさめる事になった。 非常に、本当に皮肉な事に、ここに来て……皮肉にも加藤の営業がもう一つ開花したのである。

9、10、11、12月。
淡々と、これまでに周ったお客さん・見込み客だった所へ挨拶した加藤が残した成果は、4ヶ月トータルで見たら皮肉にも去年をも超え、過去最高の成果をあげる事になっていた。

とある日、営業部長が声をかけてくる。

「おぅ、加藤。お前、最近、理想的な動きをしてるな。ようやく俺の言ってる事が分かったか。俺も敢えてキツくお前にあたった価値があるというものだよ、ははは」

(……何をほざくか、このオヤジめが! 今まで散々嫌がらせをしておいて、成果を上げれば手の平を返したようなこの態度、なんなんだよ、一体……!)
 

成果をコンスタンスに多く上げていると、ガラリと周りの評価が変わる……それが生保業界──いや、営業業界全般にいえる事なのかもしれない。元々低い成果を収めていない加藤は、今まで以上の成果をあげ続ける事によって、いつしか自分の地位を確固たるものとし始めているかのように端からは見えた。

が、加藤はここに来て一抹の不安を感じ始めていた。

(……このままで、俺は……辞められる……のか? 引き止められる……可能性だって出てしまう……のでは?)
 

さらに時は流れて1月。
その思いとは裏腹に、今まで経験した事のない大きな契約が舞い込んで来る事になる。

無謀な決心

「たくみ君……まだ仕送りしてるの?」

「ん? 当たり前じゃん。何言ってるの?」

「ホント、よくやるよね。自分の人生、台無しにする気?」

「いや~、そんな事ないよ? 俺だっていい人がいたら付き合いたいし、機会があれば遊びたい──」

「とか言いながら、私が知ってるだけでも何人も断ってたじゃん。中には私からみても勿体ないと思う子まで」

「いや~、俺、甲斐性ないし、将来性もないから。あすかだって言ってたじゃん、波乱万丈の俺と一緒になるのはリスキー過ぎるって。……俺自身、そう思うし……」

「……あんな振り方しなくてもいいじゃん。あれじゃ、みんなに嫌われちゃうよ?」

「ま……嫌われた方が変に後に引かなくていいじゃん。下手に尾を引いたら……それこそ申し訳ないし……」

「仕事……ホントに辞める気なの? 後悔しないの?」

「ま……決めた事だから」

「……せめて外資系でもいって営業やればいいじゃん。誘われてたんでしょ? 勿体ないじゃん、こんなに成績取れてるのに」

「ロウソクが消える前の何とかってヤツに過ぎないって。お前も言ってたじゃん、俺、営業向きじゃないって。俺もそう思うし……身体の事もあるし」

「トレーナーなら出来てたじゃん。小橋さんに言ったらまだどうにか──」

「完全に燃え尽きるまでに、FPやらなきゃ。お前も勧めてくれたし……彼女がやりたがってた事だから、せめて俺が叶えてあげないとね」

「せめて代理店になるとかすればいいじゃん」

「それじゃ、彼女が言ってた完全中立の独立系FPにならないから」

「……上手くいく見込みあるの?」

「さぁ……独立系FPで成功している人、少なくとも俺は知らないし。いたとしても日本に数人いるかいないかじゃない? ま、やれるだけやってみるよ」

「そんなんじゃ……野垂れ死んじゃうよ? ホントに」

「ま、そうなる可能性のが高いだろうね。けど……やらなきゃ」

「たくみ君……ホント、バカだね」

「俺でもそう思うよ……プライベートも仕事も、もっとうまい事やればいいじゃんって。けど……俺、こういうヤツだから」

「だけど……ホントいい男だね」

「……ありがと。九重もいい女だよ」

「冗談じゃなくって! ……バカ!」

「本音だよ……だから、せめてお前だけでも、俺の生き様、近くで見ててよ。サクセスストーリーを見せる事はできないけど、それなりに楽しませられると思うから」

「……分かった。一生……近くでたくみ君の事、見ててあげるから。私だけでも……一生理解者でいてあげるから」

「……ありがと。そう言ってくれると思ってたよ」

「けど……今の、一歩間違えたらプロポーズそのものじゃん……何考えてるのよ……」

「そういうあすかだって……ノリノリでパーフェクトな回答してるじゃん……何考えてるんだよ……」

「wwwwww」

「wwwwww」

挿話

自分の人生そのもの……なのかもしれません。「意外な行動が、意外な成果を生む」。生保営業時代においても、「サボリ」がキッカケで大きな営業手法の変化へと繋がりました。そして、辞めると決心してから……皮肉にも大きく花開いた営業。

もしかしたら、自分だけの事ではなく、全般の人に当てはまる事になるのかも、しれませんね。ま、、一言でいう「開き直り」というヤツでしょう。

「○○生命ですと、予定利率が今外資より劣っているので、終身保険を考えられる場合には外資で考えた方がベターでしょう。医療保険系でしたら、正直終身医療を考えていない場合は、単体医療保険よりも共済で考えた方がオトクでしょう。一言でいうと、内容は特に変わりがなければ、それぞれ安い所を組み合せてやられるのが一番ベターになります」

一例ですが、実際に退社を決意した時の自分のトークです。えぇ、、どう考えても「んじゃ、そうするよ、ありがと、たくみ君!」となる筈…と思いますよね?

これが、、とある人の意見が未だに覚えていて、電子書籍にすら書いた内容ですが、

「例えばコーヒーが飲みたいとするじゃない。ただそれだけなら、500円もする喫茶店じゃなくてもドトールコーヒーなら180円で飲めるじゃない。自宅で飲めばさらに経済的だ。じゃ、なんでみんな180円コーヒーにいかないで、500円もする喫茶店にいく? それは、店の雰囲気とかもあるんだよ。ちょっと落ち着いた雰囲気にお金を払うとでもいえばいいのかな。契約も同じ。安い所なんぞ探せばあるのは知っている。が、多少高くても今、俺は君から入りたいんだよ。君だから、それくらいの価値はあるんだよ」

まぁ、この意見は特殊ではありますが、「まぁ、めんどくさいし、今まとめて入っちゃうよ」「たくみ君だから、まぁいいじゃん」というような形で、、一気に契約数が。。

この経験は電子書籍にも普通に語っている事で、ちょくちょく来る読者の方のメールにも「開き直りも重要ですぜ」なんて書いたりもしますが…どうやら誰も実践出来る勇気はない様子です。

もう、話した人には何度か話したような気しますが、「保険クリニック裏病棟」もある意味開き直りのページが発端です。保険クリニックたる純粋たるコンサルの本命HPがあまりにも堅かったので、シャレで「裏」と称して作成したページ…結果的には本命HPは人気が出なくて閉鎖、シャレで作成したHPが何故かピックされて、いつのまにか1000万アクセスオーバーのサイトに。

仮に「ふははは、狙ってやってるんだよ、俺は」なんて事なら、さぞかし自分は天才でしょうが……当然んな能力はもっておらず、、たまたま…の開き直り。。。

挿話……ではないような気してきましたので、ここらで止めます。

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