#5 ネットカフェで密会?
──10ヶ月後の9月中旬某日
■とあるネカフェのカップルシートの一席
「取りあえず人目に付かない場所という事で、ネカフェのカップルシートを選んでみましたが……場違い感半端ないですよね」
「私、初めてネットカフェという所に入りました。今の若者達はこういう所で逢引しているのですね。ちょっとイケナイ事しているみたいでドキドキしてきました♪」
「ま……ある意味イケナイ事しますけどね、これから……」
「(クスッ)そうですね。じゃ、早速やりましょうか♪ ──では、こちらが今回の報酬になります」
「あ、ありがとうございます。って、ホントにやるとは──シャレで報酬、手渡しで~といったらまさか佳代さんがノッてくるとは思いませんでしたよ」
「えぇ、冗談だとは理解していたのですが、実際にやってみたら面白いかな、という好奇心が勝ってしまいました。当たり前の話ですが、報酬の手渡しはたくみさんが初めてですよ? ……一度、やってみたかったんですよね。本当はスクランブル交差点のど真ん中か駅のホームが理想だったのですけどね、ドラマのワンシーンみたいに♪」
「い、いや……それは流石にリスクありすぎですよ。ネカフェ内がギリギリですって……ここでも十分、何か凄い悪い取引している気分になりますよ。マフィアか何かの取引みたいで……」
「(クスッ)そうですね。あ、せっかくですから、アタッシュケースの中を確認してみて下さい」
「はい──ぅお!(パタンッ) こ、これは……ホントにヤバイ取引している気分になりますね、中をみたら更に……」
「♪ その驚いた顔を見れただけで、わざわざ香港から来て報酬を手渡しにした甲斐がありました」
「い、いやぁ……緊張しますね。家に帰るまで、強盗に会わないかドキドキものですよ」
「(クスッ)大丈夫ですよ、誰もこのアタッシュケースにそんな大層なモノが入っているって分かりませんから。私なんて、これ持って空港から電車を乗り継いでココに来たのですよ♪」
「ま、仰る通りで。俺の場合、ここから駐車場までの間ですからね」
「──では、私はこれで失礼します。次の飛行機の便に乗りますので」
「……ホントにこの為だけにここまで来たんですね。何といっていいのやら……」
「十分価値ありましたよ♪ 現在の若者の文化にも触れる事出来ましたし、これだけの高揚感も味わえましたし、たくみさんの驚く顔もみれましたので♬」
「ま、まぁ……俺も非常に希少な経験出来ました。ありがとうございました、でいいのかな?」
「どう致しまして♪ では、またお願いしますね。今度は──スクランブル交差点のど真ん中で♬」
──5分後
──フゥ~~~~
(何かどっと疲れたよ。まさかネカフェで報酬を手渡しとは……しかもよりにもよってこんな額の時とは……ま、ここなら誰にも見られないから、問題ないか──)
「(コンコン)あのー、ちょっといいですか?」
「(ビクッ!)は、はい?」
「(ガラッ)やっぱり! たくみさんじゃないですか~。お久しぶりです、ユキです。分かりますよね♪ ここで……何をなさっていたんですか?」
「え? な、何もしてないよ……」
「またまた~、あ~んなキレイな女性とさっきまで一緒にいたじゃないですか~。彼女ですか? やりますね~」
「──って、ユ、ユキさん? な、何でここにいるの?」
「それはこっちの台詞ですよ~。何か聞いた事ある声だな~っと思ってそっと覗いてみたら、たくみさんがいるんですから」
「……」
「あ、大丈夫ですよ、ちょっとだけしか見てませんから♪ 2人のお楽しみなところはプライバシー侵害ですからね。ただ……ちょっと早くないです? あれじゃ彼女満足出来ないと思いますよ?」
「──は?」
「いや~、ちょっと言いにくいんですが、部屋に入ってから20分くらいですよね。入ってすぐイチャイチャしたとしても、ちょっと早いんじゃないかな~って。ちゃんと前戯してます? 女心的にもうちょっと──」
「ち、違うって! ここで取引してたの! 人目に付いちゃいけない金額のやり取りだったから、ここが最適かなっ──」
「フフフッ、ひかかりましたね♪ 私はちゃ~んと聞く耳立てていましたから知ってましたよ♬」
「うっ……」
「それで、そのアタッシュケースに入っているのが……報酬なんですね。……見・せ・て・く・だ・さ・い♡」
「え……そ、それは──ダメだよ!」
「……叫びますよ! そうしたらどうなるか……分かりますよね? (スゥーー)」(ユキ、絶叫モード突入間近)
「ちょ、ちょっと! 中見せるから、叫ばないで。──ほら」
「ど~れ……──?! な、何ですか、このお金……一体いくらあるんですか?」
「え? 確かxxxx万だったと思うけど……」
「これ……何のお金ですか?」
「え? だから報酬、先月分──あ、じゃなくって年しゅ──」
「先月分? って事は、これがたくみさんの1ヶ月の稼ぎ?! え~~、何これ~!? 年収でも驚く額ですよ、これ!」
「ちょ、あまり大声出さないで……」
「あ、ごめんなさい。あまりに驚いてしまって、つい……って、何が ”俺は稼げないFPだよ” ですか! アホみたいにメチャクチャ稼いでいるじゃないですか!」
「あ、い、いや……た、たまたまに過ぎないから、先月なんて。普段はあまり稼いでないから……ね?」
「例の彼女、”またお願いしますね♪” って言ってたじゃないですか! わざわざ香港からこんなところに来るくらいたくみさんは重要な人物って事ですよね!」
「……全部盗み聞きしてるし……」
「今まで色んな人に会って、それなりに成功している人を見てきましたが、ここまでそれを隠す人、初めて見ました」
「いや、別に自慢する事でもないし……チヤホヤされる云々は興味ない、というか嫌いだし。目立ってもいい事もないし──恨み買うだけだから、日本じゃ」
「そんなんじゃモテませんよ? 少しくらいアピールしてもバチ当たらないと思いますよ?」
「……興味ないかな」
「またまた~、愛人の1人や2人くらい、囲ってるんじゃありません? それだけ稼いでいたら」
「ん~、ホント興味ないかな。そんな時間あるんだったら、まだ占いとか現場に出ていた方が有意義かな」
「今日はもう私、これから用事あるので話出来ませんが、今度じぃっくり色々話聞かせてもらいますよ! いいですね!」
「え……よく分からない展開なんだけど……」
「明後日の同じ時間、またここに来て下さい! ドリンクバー前! 分かりましたね!」
「あ、あぁ……」
補足?
このパートナーというか自分の師匠とは「利益が出たら折半」という契約を結んでいました。普段は普通に銀行振込なのですが、シャレで「一度手渡しで報酬貰ってみたい、それも額が大きい時に」と言ったら、何かピキュンとくるものがあったのか、ノってきてホントにしたという……
「駅のホームかスクランブル交差点でやりましょう!」
と訳分からん事を言う彼女を説得し、悩みに悩んで設定した場所がネカフェ内でした。ホテルのラウンジとかですと、誰かに見られてひったくりにあうかも~とか不安でしたし。誰にも見られない場所、なら、ネカフェ内かな、と。
「そうだよね~、重要な取引する時にネカフェは重宝するよね~」と、ある一定の理解は得られる・・・かな?
ん? ユキとの再会? ま、地元の会員証不要の大きな駅付近のネカフェといったら当時ここくらいだったので、そこまで珍しい話ではないですよね? ま……それを加味しても低確率といえばその通りなのでしょうが……
ここから……腐れ縁ともいえる長い長い付き合いになるとは夢にも思いませんでしたが、ね……
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