たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記 第三部 挿話2:美子ちゃんの結婚式

美子ちゃんの門出たくみの営業暴露日記
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挿話2:美子ちゃんの結婚式

──パチパチパチ……

 荘厳なパイプオルガンの音と共に数十人が一斉に拍手で迎える先にはウエディングドレスに身をまとった美子ちゃんとタキシードに身をまとった加藤がいた。腕を組みながら祭壇へ向かってゆっくりバージンロードを歩きながら、加藤は一体何をしているんだ? と自問自答を繰り返していた。

 話は3日前に遡る。

──5年ぶりの訪問より約1年後

「お兄ちゃん、ちょっと相談があるんだけど……」

「ん? 珍しいね、美子ちゃんが俺に相談なんて。何?」

「実は……ね。出来ちゃったの」

「──は? 出来ちゃったって……子供?」

「うん……それでね……ちょっと言いにくいんだけど──」

「あ、いいよ。俺が彼氏の代わりになって中絶証明書にサインすればいいんでしょ? で、今から病院?」

「あ、いや……そういう事じゃなくって……結婚する事にしたの」

「ん? まさかの学生結婚? ちょっと大変かもしれないけどそれもいいんじゃない? おめでと! あ……という事は、新婚生活のお金の相談? いいよ、いくらでも」

「もう! 早とちりしないでよ!」

「ん? じゃ、何?」

「えっとね……出来たらでいいんだけど……教会での結婚式に出て欲しいの」

「ん? 俺、出席していいの? 喜んで参加するよ。って、友人席に座るのか~、おっさん1人いたらさぞかし浮くだろうな~」

「あ……親族の席なんだけどね」

「──え?」

「で……バージンロード、一緒に歩いて欲しいの……父親役として」

「──え?」

「ほら、うち父親もいないし、男は豪だけしかいないでしょ。教会の結婚式では父親と新婦が一緒に入場ってなってるから……」

「え、えっと……何か凄い重要な役の様な気がするけど……俺でいいの?」

「お兄ちゃんがいいの! ね、お願い!」

「わ、分かったよ……やるよ」

「キャー、ありがとー♡ 実はね、式、3日後なんだ。9時に家の近くのあの教会に来てね、絶対だよ」

「え? 3日後? ご、強引だね。もし俺が断ってたらどうしたのよ?」

「ん? 絶対断られないって思ってたから、もしもなんて考えてないよ」

「……そういう所、ホントお姉ちゃんを色濃く引き継いでるね」

「♪」

 時は現在に戻る。
 湧き上がる拍手の中で、何か好奇の視線が加藤に集まっている気がした。当然である、現在加藤は31歳、明らかに父親としては若すぎる年齢であるのだから。

(やっぱ俺が父親役って無理あるって……ほら、何か友人席が変な空気になってるじゃん……何かヒソヒソ話してる様子見えるし……)

 何やら見世物になった気がして恥ずかしさすら覚えながら、加藤は祭壇までの短い距離を無限に感じられる程の長い時間をかけ歩いていった。

 やがて祭壇の前に到着し、ここで新郎に美子ちゃんを任す事になり、加藤の役目は終わった。

(ふぅ……緊張した~……それにしても新郎としてではなく父親役で結婚式を経験する事になるとは……って、ここ、ホントに親族席じゃん! ぅわ~、何か後ろから視線を浴びている様で生きた心地しないなぁ……)

 何とも言えない場違い感や気まずさを感じながら、式は淡々と進行していった。讃美歌斉唱、牧師の朗読に祈祷、そして牧師の問いかけによる宣誓。咳払い一つ許されない様な厳かな空気が周りを包み込んでいた。このまま何事もなく式は閉幕を迎えるものだと思っていた時、恐らくマニュアルにないちょっとしたハプニングが起きた。

「あの……ちょっとだけ宣誓……変えていいですか?」

「え? どうぞ」

「本日、私たちはみんなの前で結婚の誓いを致します。今日という日を迎えられたのも──私達2人を支えてくれたみんなのおかげです」

 ここまではマニュアル通りの台詞であろう。

「ご存知の方もいるかと思いますが、私には産まれた時から父親がいません。未婚の子として、父親を知らないまま育てられてきました。そして私が15歳の時……母親が他界しました」

 いきなりの生い立ち告白に、会場がざわつく。当然であろう。

「今はここにいないお姉ちゃんは……身体が弱かった母に代わって私を、私達兄妹を……親代わりになって育ててくれました。出来の悪い私達を……見捨てる事なくしっかり……自分の人生を犠牲にしてまで……────ッ」

言葉を詰まらせ涙を流しながら話す美子ちゃんに、会場はさらにざわつく。

「私が16歳の時……婚約者のお兄ちゃんが家にやってきました。お姉ちゃんと2人……時には本当の親の様に、時には友達の様に……本当に幸せでした。そしてお姉ちゃんとお兄ちゃんが結婚する前日……お姉ちゃんは天国へと……旅立ちました────ッ」

衝撃発言に、会場は一気に静まり返る。

「全てに絶望して……明日が見えなくなった時……助けてくれたのは、お兄ちゃんでした。……5年間も……血が繋がっていないのに、本当の家族、それ以上に……あしながおじさんが霞んでしまうくらいに一杯手紙をくれて、一杯プレゼントをくれて、一杯……仕送りしてくれて……私達は、何一つ不自由なく……大学まで通う事ができました」

所々、鼻をすする音が聞こえてくる。……泣いているのであろう。

「お姉ちゃん、そしてお兄ちゃん……この2人なくして今の私は存在しません。私が胸を張って自慢できる……世界一のお姉ちゃん、そして世界一のお兄ちゃん……ありがとう……ございました! 私は……世界一幸せな家庭を築いていきます! これからもよろしくお願いします!」

 美子ちゃんの魂の叫びの様な宣誓が終わった。一瞬の静寂の後、小さな一つの拍手を皮切りにして割れんばかりの拍手、そして歓声が会場全体を包み込んだ。

 おてんばでおっちょこちょいで、よく喋って……それでいてちょっと闇を抱えていて遠慮がちで人の顔色を伺う癖があって……あんなに子供っぽくて危なっかしい少女は──いつの間にか光り輝く大人のシンデレラへと変貌していた。

──たくみ君、見てる? 美子、あんなに立派に……大きく成長したよ。

──……しっかり見てるよ。たくさんの友達に囲まれて……あんな立派な旦那さんも掴まれて……ホント良かった……

──たくみ君……ありがとね。美子や幸子の面倒、しっかり見てくれて。……ごめんね。私のせいで、人生犠牲にしちゃって。

──www 別にいいよ。これが俺の運命ってヤツでしょ、多分。ま、こんな場面をこんな特等席で見学できてるし、それでお釣りがくるよ。

──www たくみ君らしいね。……ま、来世も一緒になろうよ。

──え~、来世も? ……別にいいけど、今度は死なないでよ~。

──www 約束ね。あ、ほら、美子が呼んでるよ。行ってあげなきゃ。

──あ、ホントだ……じゃ、いくわ。……美幸、また来世で!

街外れの小さな古民家に住んでいた家族がいた。恵まれない環境の中、精一杯生きてきた家族がいた。そんな家族の半生の物語は……これ以上ないハッピーエンドで幕を閉じた。きっとこれからもたくさんの幸せを積み重ねていく事であろう。……世界一のお姉ちゃんに見守られながら、ずっと……

~外伝Fin~

挿話?

最後は滅茶苦茶盛ってキレイに締めてみました。……幻の美幸のくだりはおいといて、結婚式で親役やったのは本当だったりしますけどね。

何て言うんでしょうかね、子供を嫁に出す気持ちって言うヤツですかね? 妙に心にグッと来るものがありました。

……その親の心境を、実に31歳にて経験した人というのは、世の中広しといえども、数える程しかいないんじゃないかな~……と。(更に、この年で疑似的子育てを終わらせてしまったという人も……)

「い、いや……戸籍上は赤の他人でしょ? もしかして学費2人分出したの?」

こんなツッコミを入れる人、いるかもですね。ま、期間としては半年ですが一緒に家族として住んでましたし、ま、約束しましたし。……結果、異様に感謝してくれて、色々あってこんな風に結婚式に親役で出れた訳ですから、ある意味お釣り来ましたわな。お金では買えないもの、一杯貰いましたよ、ホント。

……以上が、外伝、というか自分の半生の集大成でした。

ちなみに、ここまで読んで誤解される人もいるかと思いますが、自分はこの壮絶な過去より独身を貫いている……訳ではなく現在普通に物語とは関係ない人と結婚して子供もいます。

……この話の後の事なので、まぁ略しますけどね。

 

さて、営業物語ですが、後1話外伝を掲載後、美幸死後から退職までを再開します。

裏ではせっせと仕送り等して何とも健気で人らしい事してましたが、表では「化物」というか「クズ」やってました。(まぁ、最大の黒歴史を書いた後なので、加藤が何故にそう動いていたのか、半分くらいは理解できる……かな?)

「──化け物になって、全てをぶっ潰してやる……!」

……という内容です。

こうご期待をば!

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