たくみの営業暴露日記

第10話 重大月最終日

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第10話 重大月最終日

(うぅ、今月は殆ど契約を取る仕事はしていないよなぁ……)

 加藤はかなりブルーになっていた。当然、本来のノルマは優にクリアしており、かつ一般的からみれば施策旅行等の条件(ノルマの2倍)はクリアしていたのではあるが、加藤に課せられた上からのノルマには程遠い数字となっていた。

(今日は……契約になりそうな所は──ないか。じゃぁ、飛び込みでもするか……)

 いつものように営業所を出ようとした時、営業部長から声がかかる。

「おい、加藤、ちょっと来い!」

(うわ……どうせ保険を詰めて来い! という事……ガミガミいわれるんだろうな……)

少々憂鬱な足取りで営業部長の前に座る。

「どうだ、調子は?」

「いえ……今月はかなり苦しくて、今日詰めれそうな所はないんです。だから飛び込みでもしてこようかと思いまして」

「そうか……まぁそういう月もあるよな」

「──え?」

かなり予想外の話しにビックリする。というのは、通常月ならばまだしも、今は重大月であり、倒れるまでどんな事でもして成績をあげろ! と叱咤が当たり前の月だからである。

(なんだ? 今までの成果を評価してくれている……のか?)

等と考えたりしたが、次の言葉で全く違うという事が判明する。

「ところで、加藤。お前、保険って入ってなかったよなぁ」

(うわぁ……自爆せい! という事……か?)

 自爆。
 一言でいえば自己契約の事である。自分で契約しても成績になるが為、成績が苦しい際に暗に自己契約せい! という事は、この当時は日常茶飯事に見られる光景であった。幸い(?)加藤はそれなりに契約をとっていたが為、自爆の誘いは受けた事がなかったが、人によっては自己の契約を1億以上かけている……なんて人も存在した。

 加藤にも意地があり、これを断固拒否をする構えを見せる。

「いえ! 保険に加入する時は自分の意志で入りますので! 成績だって自爆しなくちゃいけないくらい悪い数字だったとは思ってません!」

珍しく強気な自分の口調に少々戸惑いを一瞬見せたが、すぐに余裕のある笑いを浮かべながらゆっくり話し出した。

「いや、お前に自爆せいなんて思ってないんだよ。実は、な。うちの営業所のノルマというものがあってな、後1億程足りないんだよ。まぁ今日詰る数字があるから、実質5000万くらい足りないと俺は踏んでいるんだ。で、この額ならどうにかしてノルマをクリアしておきたいと思っていて、な。お前がこの営業所で一番年齢が若かったから、ちょっとお願いしようと思ってな」

いまいち話しが分からなく、ポカーンとしている加藤ではあったが、営業部長は話しを続ける。

「単刀直入にいうとな、名前貸してくれ。お前名義で5000万の保険作って、その保険料は内緒で支部経費から落とすから、さ。まぁ、お前はタダで保険に入れる訳だし、お前に不利な事は何もないんだよ。な、頼むよ。2年で解約するけどな」

 加藤の頭の中の危険信号がピカピカ光り、何かきな臭い匂いを感じ、断わろうとしたが、珍しく頭を下げる営業部長の頼みを無下に断わる訳にはいかず、二つ返事でOKの答えを出した。

「おぉ、悪いな。これでノルマが達成されたよ。お前も今日は比較的ヒマなんだろ? これからメシ食いにいくか!」

 まるで、保証人になったかのような何ともいえない気分ではいたが、まぁ支部資金で落ちるなら問題はないか、という風に捉え、少々リッチな昼食を食べにいった。

──この出来事が、今後起こり得る悲劇になる事を知る術は当時の加藤にはなかった。

挿話

自爆。
自らの意志で自爆はしなかった…という事は自分の中での誇りです。が、このように「営業所自らの自爆」を逆らう程の力は加藤にはありませんでした。(まだ2年でしたし、この時)

保険料にしてみれば、特約ナシの丸裸契約(死亡保障で掛捨て重視の形)だったので年14万程度と大きくはなかった訳ですが、、自らの意志ではないですからねぇ。。

悲劇は…第3部にて。

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コメント

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