第二部 第5話 ある日のデキゴト
ある日畑口さんからカラオケのお誘いがあり、いつもの場所に集まる事になった。前藤さんや班のメンバーも数人集まっていた。小橋リーダーの件らしい。
*畑口&前藤はチーム編成の時に供に小橋チームに配属された小橋リーダーの紹介で入ってきた人達。話が合い、よくお茶したりしていた。(私も小橋さんの紹介で入っています。かなり前にも名前を出した事がありますが、覚えてる人はいないと思いましたので紹介をいれておきました)
カラオケと食事をすませて約2時間、畑口さんが話しはじめた。(彼女はメンバーのリーダー格的存在)
「昨日営業部長と小橋リーダーの事で話をしてきたわよ。今までの事全部暴露してやったわよ!」
「どうだった?」
「この支部、雰囲気がよろしくないと言うか、おかしいって。小橋リーダーの事も、しばらくは様子を見て徐々に直していくって言ってたよ。……のり子ちゃん、この前の契約落ちたんでしょ? 普通、人にツケる契約だったら不備とか気をつけるのは当然だと思うよ。申込書も出てないんだったら初めから落ちる契約だった筈だよ」
「──?!」
とりあえず初めて聞く事だったので、驚いた。
(まさか、わざとおとす為の契約なんて……?)
この時点では私はよく理解していなかった。畑口さんが話し続ける。
「設楽さんはまだいいよ。私達なんか、今までつけてもらった契約全部2-3ヶ月で解約になったり減額になったりばっか。おかげで給料も下がりっぱなしで夜もバイトしてるんだから! 気休めに落ちる契約をつけるぐらいなら、そんな契約いらないわよ。継続手当てもなくなるし、解約ばかり続くとやる気もなくすし。この前なんか、絶対落ちると分かってる病気の人の面接士にいかされたんだよ。先生には苦笑いされるし、契約は案の定落ちるし。あの人の人間性を疑うよ!」
「?!?!?!?!?!?」
なんか知らない事ばかりで頭がパニック状態だった。
(ツケてもらって給料が下がる? 給料が少なくなって夜もバイトしてる? 継続手当て? 何それ? 診査で落ちると分かってる人の契約をあげた? なんで?)
「?」が頭をめぐり、訳が分からない状態の中、さらに彼女達は機関銃の様にしゃべり続けた。
「私達、前の会社から彼女と一緒だけど、入る時はいい事ばっかり言って嘘ばっかりで騙されっぱなし。2年間契約をとれなくても、固定給は16万あるとか、2年経つと50万になるとか。彼女のやり方ならそうなるかもしれないけど、まともなやり方をする私達にはそんな給料とても無理だよ。のり子ちゃん、彼女に利用されないように気をつけた方がいいよ。あの人、自分の名誉やプライドしか考えてないから。こんな班に、これから入ってくる新人さんが可哀そう。信じて裏切られて」
……ショックだった。小橋リーダーは確かにズボラな所があったり、マルチとか宗教とか訳のわからない事ばかりしていたが、保険の仕事に対してだけはマトモだと思っていた。
給料規定の事は正直いってよく分かっていなかった。解約や減額によって給料がマイナスになる事はだいたい何となく分かっていたが、継続率とか詳しい事はよく分かっていなかった。
その後、彼女たちに給料規定の事を詳しく聞き、ようやく話の意味が理解できたのは1時間後であった。
話が飲み込め、私はようやく話はじめた。
「そうだね……営業部長どうにかしてくれないかな。私達、ただマトモに仕事してマトモな契約をとりたいだけなのに。ほんと保険屋さんは、難しいわ」
「あっ、それと、専門部の人2~3人辞めるみたいだよ。前々から辞めるつもりだったんだけど、前任の営業部長が辞めさせてくれなかったんだって。今度の営業部長にいったら俺のやり方について来れないんだったら辞めてもいいって。私達も、小橋リーダーのやりかたについていけないから辞めたいっていったんだけど、支部全体の雰囲気を変えたいっていってたから、もう少し様子をみてみようと思って。これから、辞める人も多くなるかも知れないけど、小橋リーダーの今後を期待してもう少し頑張ってみようかな」
「そう……だね」
(……私のツケてもらった契約は大丈夫かしら? 来年はちゃんと給料あがるのだろうか、私は? 小橋リーダーは本当に酷い人なんだろうか?)
──知らなかった方が幸せだったかもしれない、現実を。この段階では私に今後襲ってくる悲劇は想像できなかったが……
色々な人から期待されている営業部長。彼がおこした行動は次の通りだった。
※専門部=入社2年以降の人達の事。ちなみにそれ以内の人は育成部と言う。
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