第二部 第6話 イッチャッテル
ある日、久しぶりに小橋リーダーにいつもの喫茶店に呼ばれる事になった。
「のり子とお茶するなんて、久しぶりね。営業部長が、変わるのなんて初めての経験だと思うけど、仕事の方はどう?」
「ええ。ほんとワンマンな方ですよね。朝礼の時間も、おちおち寝れませんね。わかばの声かけや今日のクロージングの予定まで毎朝1人1人発表だもん。すごく縛られているって感じです」
「今までのパターンがくずれるでしょ。私でさえも、朝礼中、外に出ることができないんだから。本当なら私達営業職員のほうが立場が上なの。私達が契約をとらないと、あの方がお困りになるんだから。まあ、2~3年で変わるんだし、こんな方も中にはいるわね」
「そうですか……(だいぶ、絞られてるのかな……?)」
「それはそうと、私達リーダーが月末にリーダー会議があることを知ってる? その後の飲み会の席で営業部長がおっしゃったことで今日は話があるんだけど」
「はぁ……」
「私の班は職員が多いから、補佐を3人ほどつけろとの指示があったんだけど、のり子、やってみない?」
「えっ!? 私できません。他にも畑口さんや前藤さんとか先輩にやってもらったらどうですか?」
*畑口&前藤さんは私よりも数カ月前に入社している。
「一応話したんだけど、やる気はないらしいから。あの子達も後輩の指導でもして、少しは先輩としての自覚が出るとも思ったけど……あれはダメだ。仕事にやる気を感じられないし、契約をツケても当たり前だと思ってるし、仕舞いには文句ばかり。この際、2人の事は営業部長にお任せしようと思ってるの』
「??? 任せるってどういう意味ですか?」
「営業部長の班を作るという事よ。この班にいても他の子に悪い影響を与えるだけだから、思いきって切ろうと思うの」
「そ、それは酷いんじゃないですか?」
「私はこの班を運営している社長だから! 他の社員のことを考えると、あの子達ばかりに時間を費やす事も出来ないの! みんな給料のために働いているんだから。班を出たあの子達に私は何もしないし、口も聞かない。そうすれば私の有り難みが分かる筈だから! のり子については営業部長は何も言わなかったけど、のり子はどうする? 班をでたら、のり子にも何もしてあげないし、自分の力で何もかもしていかなくちゃいけないわよ。同行もしないし。専門部に上がれば嫌でも班を出なくちゃいけないんだから、もう少しここにいたらどう?』
……出た! 久しぶりの小橋節だ! 社長? 有り難み? 切る、切らない? う~ん……
まぁ少しは気持ちが分かるが、完全に自分の世界を作ってしまっている。こうなると手がつけられない。
「急にそんな事をいわれても、困ります。とりあえずいろいろ考えさせて下さい」
「そうね……一度考えて報告して。班は3つに分けてのり子の班はこんな感じよ。(紙を見せる) のり子が欲しい子や嫌な子がいるんだったら、いつでも変えてあげるからゆっくり考えて。これはのり子にとってもチャンスなんだよ。専門部のリーダーは、私が全部育てたんだから。のり子も先々は、専門部のリーダーにするつもりだし、給料が50万もらえるんだから賢くなりなさい。リーダーになりたくても、私の推薦がなければなれないんだから。……あなたは選ばれた人間なのよ!」
「……(もう分かったから、早く私を自由にして)」
何故か小橋リーダーは50万にこだわるみたいだ。
こないだ畑口さんに給料の事を聞いたので分かっている。はっきりいってムリ。こないだ計算して分かっている。
(選ばれた人間? はぁーーーー……別にどーでもいいよぉ。別にリーダーになりたいわけじゃないし)
……心の中では滅茶苦茶言いたい事があったが、ここは黙って聞いていた。
「返事はなるべく早めにお願い。のり子が万が一、リーダーやらないんだったら他の子選ばなくちゃいけないから」
(万が一? もう彼女の中では私がリーダーをやる事に決まっているみたい。何がどーなってこういう考えになったんだろう?)
嵐のような1日が過ぎた。全く想像も出来なかった事態が今まさに訪れようとしている。
「営業部長もワンマンだけど、小橋リーダーも負けてないよな。そういえば彼も彼女も、同じ血液型……我が道をいくB型だったよね」
と、ひとりお風呂でつぶやく設楽であった。
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