#4 取材
──11月某日、いつものカフェ
「やはり年金問題は深刻で近々破綻すると?」
「えぇ、そうですね。この統計からみる限り、既に崩壊しているといって過言ではありません。数年以内に確定拠出型年金のススメという形で政府は──」
──パシャ! ピー、パシャ!
「すいません、ちょっとカメラに目を向けてもらっていいですか?」
「あ、はい──こうですか?」
「はい、そのままちょっとジェスチャー加えてみて下さい。……そうそう、それで自信に満ち溢れた様な表情で──もう少し顔の角度をそのまま上げてもらって──はい、そのまま~」
──パシャパシャパシャ……
──1時間後
「──ふぅ、これで終了です。お疲れ様でした。この内容は翌月発売の次号に掲載予定です。内容を事前に送りますので、もし訂正がありましたらご指摘お願いします」
「はい、分かりました。すいません、わざわざお越し頂いて。こちらから出向いても良かったのですが、ちょっと時間が取れなくて……」
「いえいえ、とんでもない! こちらこそわざわざお時間作って頂きありがとうございました。では、今後とよろしくお願いします」
──カメラマンと取材人が帰って1分後
「……えっと、な、何やってたんですか? 上杉さん」
「あ、ユキさん、ごめんね。ちょっと取材を受ける適切な場所、ここしか思いつかなくて。やっぱ迷惑だったよね、2時間もこんな事してたら……」
「あ、いや、それはいいんですけど……取材って──しかもあんな大がかりな……上杉さん、ホント何者なんですか?」
「ん? フリーの占い師って──」
「話聞こえてきましたけど、占いの内容なんて話してなかったじゃないですか! 年金問題とか投資問題とか金融問題とか! しがないFPって言ってましたけど、絶対違いますよね!」
「ん~、ま、いっか。はい、一応、これが本業の名刺ね」
「──?! えっと……IFAって何の組織ですか?」
「えっと、和訳をするなら独立系FAという感じかな。要するに、日本に留まらずに世界を股にかけてファイナンシャルアドバイスする人だよ、って意味」
「……全く分かりません!」
「え~っと。んじゃ国内FPの仕事の説明からね。FPとは────」
──30分後
「──という事。理解出来た?」
「えぇ、大まかには♪ それでIFAはFPとは違うんですよね。IFAの説明、今度はお願いします♪」
「正確にはIndependent Financial Adviserの略なんだけど──」
──45分後
「──という事。大まかには分かった?」
「大体は♪ ようやく加藤さん……いや、たくみさんの正体が見えてきた気がしました。ああいう取材受けるくらいですから、やはりそれなりにお稼ぎになっていそうですよね」
「いや~、ちょっと特殊な立場のFPだから、ごく稀に取材受けたりするけど、取材費殆ど貰えないし、ホント実際は厳しいよ。出来れば本業1本で食っていきたいけど、中々、ね……」
「大丈夫、たくみさん、きっと大成しますよ♪ 私が保証します♬」
「ありがと。ん~、ホントそうなったらいいんだけどね」
「今度……いつ来ます?」
「あ、暫く出稼ぎに出かけるから、半年は来れないかな……」
「あ、そうなんですか……もう少したくみさんの話を聞きたかったのですが。私も受験があるので今月でここ辞めるんですよ……」
「ま、縁があったらどこかで会えるよ。受験はこの街でするんでしょ?」
「はい、●●大学を受験予定です」
「じゃ、今度ユキさんに会う時は大学生だね。受験──頑張ってね」
「はい♪ また今度♬」
──この様な軽い繋がりの場合、共通の場所がなくなれば二度と巡り合わないのが普通である。が、2人は意外な場所・シチュエーションで偶然にも再会する事となる。
補足?
取材について少々。
ちょくちょく雑誌に載っていたりすると「ぅわ~、凄~い。お金、たくさん稼いでるでしょ?」等と言われる事、多々ありました。が、ぶっちゃけ取材費なんぞホント安いでっせ。数千円からせいぜい2-3万くらい。で、雑誌に掲載されたからといってその影響はホント微々たるもの。かつて10ページくらい某雑誌にドーンと載った事ありましたが、びっくりするくらい反響なかったです笑
えぇ、ぶっちゃけ取材受けるのはボランティアに近いです。ちなみに、某新聞社なんぞは1週間程取材受けて情報提供したにも関わらず、まさかの報酬ゼロでしたからね。
昔は雑誌に掲載されれば名が売れるぜ! な~んて思って、わざわざ東京まで出向いて取材受けていたものですが、、、「交通費で大赤字じゃん」と我に返り、ある時から地元に気合で呼び寄せるようになりました。(他の人はどうか知らんですが、自分はそこらの喫茶店で普通に取材受けてます笑)
ただ、流石に喫茶店でカメラマン付きでパシャパシャしていると、色んな意味で周りの視線が痛いので、なじみかつ人気の少ない喫茶店と限定してますけどね。(かつて、一度ターミナル駅付近の喫茶店でカメラマン付きで取材受けていたら、自分を何かの有名人と勘違いしたが為か、微妙に人だかりができた事ありました)
あ、ちなみにこんな事書いていますが、これはフィクション──いや、よくよく考えたらここまで(後数話くらい)はわざわざフィクションだよ~と書かなくてもいい内容でしたね。
ま……ユキとの馴れ初め(?)はこんな感じ、営業でいう「なじみ活動」そのままでした。
ぶっちゃけ、ここで関係が切れるものだと思ってました。連絡先は交換したものの、この時点では「ウエイトレスと客」という軽い関係に過ぎず、喫茶店という唯一の共通の場所がなくなれば接点は消えるものだ、と。普通、そういうものですよね?
と、まぁ……ここまでで本来は第一章という感じなのですが、短いのでそのまま続けます。
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