たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記 第三部 挿話1:世界一のお兄ちゃん~5年後~

世界一のお兄ちゃん~5年後~たくみの営業暴露日記
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挿話1:世界一のお兄ちゃん~5年後~

5年ぶりに~美幸の姉~

あれから5年──加藤はキレイに壊れていた。この時、仮に医師に診断を受けたならばどの様な病名を付けられていたであろう? 統合失調症、睡眠時遊行症、鬱、記憶障害etc… 順調に心身とも壊れていた。

──もうこれ以上の仕送りは難しい……自我があるうちに最期に挨拶しなければ……まだ俺の事、恨んでるだろうな……

美幸の死後、実に5年ぶりに加藤はありったけの勇気を振り絞り、美幸の姉の家を訪れた。

──美幸の姉の家

「こ、こんにちは……」

「は~い、どなた──か、加藤さん?」

「す、すいません……長い間、顔を出せなくて……あ……や、やっぱり来ない方が……よ、良かったですね。か、帰ります──」

「そんな事いう筈ないでしょ! ずっと待ってたんですから……さ、入って、入って!」

「あ……お、お邪魔します」

「……良く来てくれましたね。……ありがとうございます」

「あ……い、いや……」

「お腹、空いてますよね? ちょっと待ってください。用意しますので」

「あ、ありがとうございます」

「────昨日の夜の余りのカレーで申し訳ないですけど、どうぞ」

「あ、いえ……頂きます。……! こ、これは……美幸……の?」

「あ、気付かれました? あの子がよく作ってたカレーのレシピ、残ってたから毎週作ってるんです」

「(ガツガツ)……────ッ」

「お口に……合いますか?」

「凄く……美味しいです。……美幸のカレー、ホント大好きでしたので……思い出しちゃって──ッ」

「……あの子も喜んでると思います。たくさん食べて下さいね」

「ありがとうございます。──ッ」

──食後

「まず……加藤さんにお礼を言わないと……本当にありがとうございました……あの子達の為に多額の仕送りを毎月して下さって」

「あ……い、いえ……た、ただ……あれで足りた……でしょうか? もし足りなかったら、この通帳をそのまま──」

「もう十分ですから。美子・幸子が大学卒業するまでいっても十分余る程になっていますから。(スッ)余ったこれは……お返ししますね」

「い、いえ! これは取っておいて下さい。美子ちゃんや幸子ちゃんが結婚する時にでも……それに豪君もいますし──」

「お気持ちだけ……頂いておきます。これ以上甘えては……逆に私達ダメになってしまいますので」

「…………」

「美子達も加藤さんに会いたがっていましたよ」

「い、いや……それはないでしょ。……俺、恨まれてますし。……大好きなお姉ちゃんを奪った死神だって……俺自身も……そう思いますし……」

「(ハァ……)やっぱり。前にも言いましたけど、加藤さんのせいではありませんから。美幸の運命だっただけですから……」

「け、けど──」

「最初のうちは……美子達は加藤さんの事、恨んでましたけど……今じゃ、あの時の事を謝りたい、謝りたいって言ってますよ」

「……」

「良かったら、美幸の家に寄ってみて下さい。今は美子と幸子は2人でそこに住んでいますので」

「わ……分かりました」

「ところで……加藤さん、今はまだおひとり?」

「は、はい……」

「いい人は?」

「…………」

「そろそろ、加藤さん自身、幸せになる道、お進み下さい。きっと……美幸もそう願っていると思いますので」

「……──ッ」

「たまには遊びに来て下さいね。……きっと、美幸も喜ぶと思いますので」

「……は……い」

5年ぶりに ~美子・幸子ちゃん~

──旧美幸の家

「こ、こんにちは……」

「は~い、どちら──か、加藤……さん?」

「美子ちゃん……久しぶり。……お姉さんに今こっちに住んでるって聞いたから顔出してみたけど……ご、ごめん……やっぱ俺の顔なんて見たくないよね……も、もう来ないか──」

「待って! ちょっと驚いただけだから。ずっと、ず~っと……待ってたんだから──ッ」(ギュッ)

「……美子……ちゃん?」

「ごめんね……あの時、凄い酷い事言っちゃって。……お兄ちゃんは全然悪くないのに……」

「け、けど……俺のせいで美幸は──」

「関係ないから! お兄ちゃんのせいじゃないから! お姉ちゃんはお兄ちゃんのおかげで幸せなまま逝けたから!」

「……俺の事……許して……くれるの? 恨んで……ないの? まだお兄ちゃんって……呼んでくれるの?」

「恨んでる筈……ないじゃない! ず~っと言いたかったんだから……ありがとうって」

「……え?」

「お姉ちゃんと一緒にいてくれて、ありがと。私達と一緒に暮らしてくれて、ありがと。……毎月あんなにお金送ってくれて……私達の為に……血も繋がってないのに……ありがと──ッ」

「……────ッ」

「……社会人になったら必ず一生かかっても返すから──」

「いいよ……もう十分返して貰ったから。俺こそ、ありがと……家族の一員にしてくれて……今でも美子ちゃん達は、俺の大切な……大好きな家族だから。ありがとの一言で……お釣りがくるよ」

「で、でも──」

「(フッ)こういう所、やっぱり姉妹だね。美幸にも同じ事、言われた事あるよ……そうだな……これからもここに、遊びに来させてよ。で、飯食わせてよ。……いい?」

「いいに……決まってるじゃん! バカ────ッ」(ギュ~ッ)

「ちょ、ちょっと美子ちゃん……そんなに抱きつかないで……ちょ、ちょっと反応しちゃうから」

「あ……もしかして興奮した? する? いいよ、お兄ちゃんなら。けど私、今彼氏いるからセフレにしかなれないけど、いい?」

「バカ! そういう所、全然変わってないじゃん!」

「wwwwww」

──幸子ちゃん帰宅(美子ちゃんと抱き合っている最中)

「ただい──あっ! ご、ごめん、お姉ちゃん。お取込み中だった? じゃ、じゃぁちょっと外出てるね」

「(パっと離れて)あ、幸子、ちょっと待って! 違うから! ……お兄ちゃんだから」

「……え?」

「あ……ゆ、幸子ちゃん……ひ、久しぶり。元気……だった?」

「ほ、本当に……お兄……さん?」

「あ……ちょっと俺、老けちゃった……かな? 幸子ちゃんは……キレイになったね」

「……────ッ」(ギューッ)

「……幸子ちゃんも……待ってて……くれたの?」

「────ッ」

「ありがとね……こんな俺を……────ッ」

「私……お姉ちゃんと一緒の大学に……入る事出来ました。一杯、一杯頑張りました……」

「……おめでと。凄いね……ホント。美幸も、きっと天国で喜んでるよ」

「もっと、も~っと勉強して……頑張って……大きな会社入って……お兄さんに……恩返ししますから」

「……ありがと。気持ちだけで……いいからね」

「大学が……こんなにお金かかるなんて……知りませんでした。お兄さんのおかげで……お姉ちゃんも私も……不自由なく……ごめんなさい──ッ」

「……ごめんなさい、じゃなくて、ありがと、でいいから」

「ありがと……ございました──ッ」

「どう致しまして。……役に立てて嬉しいよ。ところで、美幸と同じ大学って……一体どこなの?」

「……●×大学の医学部です」

「──は? み、美幸ってそんな所いってた……の? め、滅茶苦茶頭良かったんだ……ゆ、幸子ちゃん……あ、改めて凄いね。……って、医学部から大企業? 医者にはならないの?」

「……将来的にはMBA取得して病院経営したいです」

「ま、また壮大な野望だね……こういう所はお姉ちゃん似なんだ……」

「……いえ、まだお姉ちゃんの足元にも及びません。お姉ちゃんは総理大臣狙ってましたので」

「あ、あれ……美幸は冗談だって言ってたけど」

「……お姉ちゃんが生きてたら、今頃国会議員にはなっていた筈ですから。私の目標なんて……小さいものです」

「じゅ、十分過ぎる程、壮大だと思うけどね……」

「……お兄さんは、今何のお仕事してるんですか?」

「あ……一応FPという仕事を。美幸がやろうとしてた事、俺が引き継いだ形になるのかな。だから……仕送りの半分以上は、美幸がした様なものだから、お姉ちゃんにも感謝しないとね」

「……────ッ」

──数時間後

「……やっぱりお兄ちゃん、ここにはもう来ちゃダメ」

「──え? あ……やっぱりそうだよね。……ごめん、社交辞令を真に受けちゃって……俺、昔から空気読めないから──」

「あ、勘違いしないで? お兄ちゃんが嫌いだからそう言ってる訳じゃないの。……好きだから、大好きだから……ちゃんと送り出さないと」

「……え?」

「お兄ちゃんも……そろそろ自分の幸せの為、動かなきゃ。ここに来たら、お兄ちゃんの事だからお姉ちゃんや私達の為を考えて……ずっと1人のままでしょ?」

「け、けど──」

「私達は……もう大丈夫だから。1人で……歩いていけるから。何てったって……私達は世界一のお姉ちゃんの妹達だから」

「…………」

「お兄ちゃんが幸せになる事が……私達の幸せだから。きっと、天国にいるお姉ちゃんもそう思ってる筈だから」

「……美子ちゃん……」

「お兄ちゃんを……待っている人の所に行ってあげて。……私達の事はもう気にしないでいいから」

「…………」

「今まで……ありがとう……ございました! たくみさんは……私達の……世界一の……お兄ちゃんです!」

「……────────ッ」

恨みはとうの昔に消えていたとは思っていなかった。ここまで感謝されていると思っていなかった。世界一のお兄ちゃん──こう言われる日が来るとは思っていなかった。ただただ嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて……

子供の様に泣きじゃくる加藤を優しくあやす2人──この光景をとびっきりの笑顔で美幸が見守っている様な気がした4月の暖かい満月の夜だった。

挿話?

はい、ちょ~っと感動する(?)話ですね。

非常識な話かもしれませんが、美幸の死後、出向くのに5年程時間がかかりました。まぁ……弱かったんでしょうね、自分。……ず~っと恨まれていると思ってましたし、自分なんかいったら迷惑だと思ってましたし。

で、健忘症の症状が激しく出て、他にもヤバイ症状が色々出て、もう終わりだな、死ぬな、これ……となり、最期に一目見ようと訪れたら……こんなでした。

当時、HPは異様に注目を浴びていて、取材やら色々受けたりしてある意味飛ぶ鳥を落とす勢いという表現が相応しい程の成果を挙げていましたが、内情はボロボロでした。30歳までの間に狭心症で2回程運ばれたり、栄養失調(この時代に)で数度ぶっ倒れて入院していたりetc…

治療? 何それオイシイの? と、道端で倒れて運ばれる以外は病院にいかず……

健康? そんなものどうでもいいから、1秒でも長くPCの前に座ってないと……

息抜き? 時間の無駄じゃん。1秒でも長く……

楽しい? そんな資格、俺にはないから。

etc…

まぁ、何とも破滅的な動きしてました。こんなんで、よく5年も持ったなぁ、と。。

それまで5年という区切りを持って動いてましたし、冗談抜きに死ぬ気でしたから、いざ感謝されて生きてよ、と言われて逆に酷く困惑したものです笑

次回、外伝シリーズ最終回(もしかしたらもう1話付け足すかも。なくてもいいような気もしますが、ま、いい話なので)。

一応、大円団で幕を閉じます。

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