第二部 第17話 ザセツ
これから設楽のり子の奇跡の復活物語になる……というのはあくまでも本の中の事である。現実的に2ヶ月で8件という数字は、あまりにも大きすぎた。
──10月の成果、2件。久しぶりに「件数」が成績としてあがった月となった。
11月の1ヶ月で6件。決して不可能な件数とはいえない件数ではある。が、私は10月が終わった段階で気力は尽きていた。
(あれ以上頑張れない……! もうダメ。奇跡で出来たとしても、一番下の位では食べていけないし……)
誰かが助けてくれる仕事ではない。自分でのみ、気力を起こして頑張らなくてはならない。今回が奇跡で今の成績を維持出来たとしても、営業の仕事の場合は翌月よりまたゼロからのスタートの繰り返しとなる。
──急激にやる気が萎えた私がとれる選択肢は、「ドロップ」しかなかった。
<10月26日>
「営業部長、ちょっと……」
「ん、何だ? 今忙しいから簡潔にいってくれ」
「これ……」
「……分かった。後の引き継ぎとかちゃんとやっていけよ」
私が渡したもの──退職願いであった。何も言わずに受取った営業部長に対して、有り難さと何か言ってくれないのか、という寂しさの2つが重なり合い、非常に複雑な気持ちになった。
辞める事──この事によって態度がガラっと変わった人物がいた。小橋であった。
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