第23話 嫌なお客
7月に保険を頂いた社長婦人から電話があった。……なんと、保険に入る人を紹介してくれるというのだ。
(ラッキー! 今月はついてるわ!)
早速お伺いし、紹介してもらった。その人はこの会社に時々来ていた業者の関係の人で30歳くらいの男性だった。早速その人に電話をし、近くの喫茶店で会うことになった。
実は会社以外で男性のお客様と会うのは初めてだったので緊張してドキドキしていた。
喫茶店では、彼の仕事について等世間話をしていた。そして、保険の話へ。社長婦人の紹介という事で確実にやって頂けるみたいだ。彼は保険慣れしているというかセールスレディ慣れをしている様だった。
※彼=正田(仮)
「僕、昔は某保険会社の子と仲良しでね、よく一緒に仕事中遊びにいったんだよ。よくコンパとかやってもらったし、ね」
「あ、そうですか……」
「今度、二人きりで飲みにいかない?」
「(うっヤバい)そう、ですね……」
よくこういう誘いはあるが、だいたいおじさんが多かった。若い人でこんな事を言われたのは初めてだったのが、なんか下心があるのがまる分かりって感じだった。
「……あっ、とりあえずこちらにサイン・印鑑お願いします」
「今日印鑑持ってきてないから、明日会社においでよ。持ってくるから」
翌日は土曜日。でも契約の為に背に腹は変えられない。約束をしてその日は早々と退散した。
(会社なら変な事されないよね。明日は休日返上、か……あ~あ、なんか憂鬱だなぁ……)
そして翌日、会社に向かった。
「こんにちわ……」(ん? なんかいやに静かで薄暗いなぁ)
「あ、こんにちわ~。今日はみんな休みで僕だけなんですよ」
「お休みの日なのに大変ですね」
「あっ、横座って下さい。僕出前とろうと思ってたんで、一緒にどうぞ」
(えっ、早く帰りたいのに……)
──30分後──
食事も終わり、やっと話が出来る。
「あの~、今日はんこ持ってきてくれましたか?」
「あぁ、持ってきたよ。ちょっと待って」
(ふぅ、ようやく終わる……)
その後、昨日手続きできなかった事が終わって帰ろうとした。
「今日はどうもありがとうございました」
……そういって席を立とうとしたその瞬間! なんと彼が急に私を抱きしめてきた。
「キャッ!?」
そしてさらに唇が迫ってきた。
「な、何するんですか! は、離して下さい!!」
離れようとしても力がとても強く離してくれない。
(ギュッ!!)
最後の抵抗で足を思いきり踏みつけた。力が一瞬弱まった瞬間、ぱっと離れ、一目散に逃げ出した。
──翌日。
早速たくみさんに相談した。そしたら彼、目をキラキラさせながらこういった。
「キスするんなら1億の保険じゃないとそんな権利ないね。年金ごときの契約では元とれんねぇ」
……まぁ、すごい極端な話だけど、説得力あった。手数料を考えたらお茶するのでも元が取れないくらいだ……
そして彼が出した結論は「そんな人から契約をもらわなくてもいいんじゃない? 断ったら?」だった。
私は納得したのですが、小橋リーダーが一言。
「契約を取り消すのは営業部にとってすごいマイナスになるしのり子にとっても損なのよ。上手くやりなさい」
……結局取り扱う事にした。
──が、誘いをことごとく断った私に対する彼の仕打ちは「解約」だった。たった2ヶ月で……この人、何が目的だったの?
……みなさんもこういう経験、ありませんか? 気をつけてくださいね。
コメント