第二部 第14話 マイナス5.5件…
8月はみんなやる気をなくす月でもある。お盆もはいるし、なんていったって、重大月の次の月になるから。こういう月のみんなの過ごし方は、いっきにダラダラモード。先月成立できなかった契約を今月にまわす人、何も契約はないけどダラダラする人etc… みんな大抵は仕事をする気はまるでナシ。
……そんな月、私は頭を抱えていた。
──7月戦終了後の1週間後の出来事
内勤『設楽さん、ちょっといいかなぁ?』
設楽『は~い(パタパタ)』
内勤『今月の控除の契約の事なんだけど、知ってる?』
設楽『えっ、控除ですか? いや知りませんけど……』
内勤『実はかなりの控除件数なのよ。ちょっと見てくれる? 5.5件あるんだよね』
設楽『マイナス5.5件?! 嘘?』
内勤『今月は、これだけの数が未収金になっているから、今月以内に保険料の振込みがないと、契約落とすわよ』
内勤『……』
(何……で? 名前を見ても、覚えが全くない。私、こんなにいっぺんに落ちる契約とってないよね……ま、まさか……)
慌てて小橋リーダーに確認をとってみた。
──小橋リーダーの元へ
「あの……この契約って、どうなっているんでしょうか?」(内勤さんから貰った控除予定の契約の紙を見せる)
「あっ、これね。ごめんな~、これ保険料の払込ができないらしくて、契約が落ちるから。まあ、こんな月もあるから。のり子、マイナス件数の合計まだ少ないから、そう落ち込まないでがんばろうや、な!」
(マイナス件数、少ないって……5.5件は……みんなそんな感じ……なのかなぁ……)
今月のマイナス件数は締め切り後に分かるようになっているので、その月マイナス件数の多い営業職員はマイナス件数の埋め合わせから始まる。当然その月の給料も下がっていくが、マイナス件数によっては、今月は契約をとる事をやめて来月に入れこもうとする職員も出てくる。(同じ3件という契約を取るにしても、控除がある時に3件とるより控除がない月に3件とる方が給料がかなりよくなる為)
……しかしマイナス件数5・5件。一般の職員では、まずこんな件数が出る事はない。営業所全体の成績にも大きな影響を及ぼす為、営業部長等からも口やかましく聞かれるものである。
……案の定、営業部長の呼び出しもかかった。
「設楽さん。ちょっと……」
朝礼後、1番に呼び出された。
「今月のこのマイナス件数だけど、どうなってる? 本当にこれだけの契約が落ちるのか?」
「すっ、すみません。お客さまの御都合で、契約の続行が不可能で……」
「……とにかく、もう一度お客さんの所にって、確認してこい!!」
……確認といっても、会った事のないお客さん。小橋リーダーにもあぁ言われたし。……もしかして、はじめから落とす契約だったのでは? と不安がよぎった。初回の保険料を小橋リーダーが立て替えして、あとは払い込む気がなかったのかもしれない、と……
<設楽の回想>
確かあの契約は、昇進月に入れこんだ契約だよね。私が昇進すれば、小橋リーダーにもいくらか手当てがつくはずだし。……でもまさかはじめから落とす契約を人につけるわけないよね。だって、1年後のマイナス件数によって、私の給料も変わってくるんだから、そんな事ない筈……でも……
『私達なんか、今までつけてもらった契約全部2~3ヶ月で解約になったり減額になったりばっか。おかげで給料も下がりっぱなしで夜もバイトしてるんだから!』
ま、まさか、ね……そ、そんな事あるはずない……わよね……
……こんな事を考えながら、契約をとる事もなく、8月は終わっていった。
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