たくみの営業暴露日記 Epilogue Asuka #1 ゴミ屋敷
──退職から4年後(7月)
「……ここか」
美子ちゃん・幸子ちゃんとの感動の再会を果たした3ヶ月後、加藤はありとあらゆる手段を用い九重の居場所を突き止めていた。築40年は経過しているであろう木製建ての古いボロアパートを見た瞬間、九重が数年間送ってきたであろう荒み切った生活が容易に想像された。
──ここの2階の角部屋……か。さて、あすかに会ったら何て言おう……
見つけるまでは軽い怒りも抱いていたものの、いざ会えるとなるとそんな思いは吹っ飛び、何とも言えない高揚感と不安感が全身を包み込む。
──あすか、俺がいきなり来てビックリするかな? 喜んでくれるかな? ……怒るかな?
九重の住む部屋の前に立ち、加藤の頭の中で様々な思いが交差する。
──よし、取りあえずいきなりドアを開けて驚かそう。その後は流れで……どうにかなるか!
そして意を決し、ドアノブに手をかけた。
「あすか、いる? 開けるよ」
ドア越しに声を掛けると同時にドアノブを廻し、勢いよくドアを開ける。が、想像と違って何の反応もない。ドアを開けて最初に目に飛び込んできた光景……足の踏み場もない程に散らばったごみや衣服の山、何とも言えない異臭──そしてゴミの中で如何にもヤバそうな雰囲気を醸し出している1人のみすぼらしい女性の姿。……その女性は……変わり果てた九重であった。
「あすか、久しぶり。……遅くなってごめん。俺、分かる?」
「…………」
「随分……やつれたね。そんなガリガリになっちゃって。髪もボサボサで化粧も滅茶苦茶で……せっかくのキレイな顔が台無しじゃん。服も何日替えてないのさ?」
「…………」
「あすか、意識ある? 視点があってなくてぼーっとしてるけど」
「…………」
「取りあえず電気付けよっか。こんな暗い部屋にいたらそれだけで気分滅入っちゃうし。──って、あれ? 電気つかないじゃん。……電気停められた?」
「…………」
「ま、いいや。電気なくても。俺も半年くらい似た様な生活送った事あるし、ないならないでどうとでもなるしね」
「…………」
「後、ガスは──停まってるか。水も──出ないね。料金支払い忘れてたんだ、あすか。おっちょこちょいだな~」
「…………」
「ま……いいや。ここらは明日どうにかするとして、今日は……掃除しよっかな。ホント、よくここまでゴミの山作ったな~。ここまで掃除しないでいられるのはある意味一種の才能だよ、ホント」
「…………」
「さてと……今から掃除道具やゴミ袋買ってくるわ。あ、何か欲しいものあったら買ってくるけど、リクエストある?」
「…………」
「ま、テキトーに買ってくるよ。じゃ、いってきま~す」
「…………」
──ごめん、あすか……間に合わなくて。こんなになっちゃって……俺が悪いね。けど、大丈夫。……どうにかするから。これからはずっと……一生一緒にいるから。……あすかだけの為に俺は生きるから……
悪い予感は的中してしまい、九重は既に……2人の暮らしは、この様に最悪な形で幕を開けた。
変わり果てた九重……
──6時間後
「──ふぅ……まだ完璧じゃないけど、ようやく最低限人が住める環境になったかな? あすかも座ったままで疲れたでしょ。布団も新しいの買って来たから、取りあえず横になろっか」
「…………」
「え~、俺に布団まで抱っこして運べって? 相変わらず人使い荒いな~、あすかは。──よいしょっと」
「…………」
「あすか……異様に軽いね。ダイエットし過ぎだって」
「…………」
「あ、そういえば水分摂らないと。ポカリ買ってきたから……飲む?」
「…………」
「え~、飲ませろって? しょうがないな~。──はい。あ~、もう! そんなにこぼしちゃって!」
「…………」
「あ、お腹もすいてるんじゃない? 取りあえずバナナ買って来たけど、食べよっか」
「…………」
「はいはい、食べさせますよ、お嬢様。──はい、あ~んして……あ~、もう! 口からこぼれてる!」
「…………」
「ホントは身体も拭いてあげたいけど、電気や水道とか復旧するの明日だから、今日はこのまま寝よっか。……俺も一緒に寝るよ」
「…………」
「じゃ、おやすみ、あすか」
「…………」
「(ギュッっと抱きしめ)ホント……会いたかった。待たせて……ホントごめん。もう……大丈夫だから」
「…………」
「────ッ」
「…………」
──夜中3時過ぎ
「(ブルブルブルブル……)」
「──? どうした、あすか?」
「イヤ……イヤーーーーー!!!!」
「(ギューッ)落ち着いて、大丈夫だから。怖くないから」
「私が……私がーーー、ぅわぁぁぁあああ!」
「(ギューッ)大丈夫だから……大丈夫だから……」
「ぃやぁぁぁぁああああーーーー!」
「(ギューッ)俺はここにいるから……どこにもいかないから……」
「gw$o&%$()%S)──」
「(ギューッ)────ッ」
九重の様子は……一言でいうと酷いありさまだった。何を喋っても無反応で一言も喋る事はなく、目は開いているものの、その瞳には何も映っていないかの様で……完全に自分の殻に閉じこもっていて半ば廃人の様であった。
九重が言葉を初めて発したのは……絶叫であった。一体どんな悪夢を見ているのだろうか、読解不能な言葉を発しながら叫ぶ九重に対しただただ抱きしめる事しか出来なかった。星一つ見る事が出来ない真夏の暗闇は全てを残酷に覆いつくしていた。
補足?
ちょっと予定を変えて、先にまさかのエピローグ2を書き切る事にしました。
「エピローグ1であんな終わり方して、続きが気になって仕方ないじゃない! どうしてくれるのよ!」
……という貴重な意見を何通か頂戴したので。ま、確かに新物語で書いていくと、エピローグ1の続きはどれだけ待たされるんだよ! となってしまいますからね……
さて、要望があったエピローグ2ですが・・・エピローグ1以上に意味不明でしょう、きっと。
えぇ、退職してから4年後・・・エピローグ1の実に2年後と、更に時間を飛ばしました。
本当はこの続きから書いて、今回に繋げようと思ったのですが・・・ここに辿り着くのが10回以上の連載になりそうだったので、敢えてバッサリ切りました。(九重のエピローグといいつつ、全然違う人が主人公みたいになってしまうが為)
──紆余曲折あって、全てを捨てて九重と一生を共にする事を決めた。が・・・
そんな話です。
実は既に最終話付近まで書いていたりするので、このエピローグの更新は異様に早いです。多分、数日か1週間で完結すると思います。(元々は新物語のエンド付近をちょっと編集しただけだったしする。えぇ、自分は元々終わりから書いていく人なので・・・)
ちなみに、前もって書いておきますが・・・これ、ろくな終わり方しません。今までで群を抜いて酷いかも。最中、きっと不快な思いもされるでしょう。読み終わった後、きっとどよよーんとした気持ちになって数日くらい気が滅入るでしょう笑
・・・それでも読みたいそこのあなた、心の準備を・・・!
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