設楽のり子の生保営業暴露日記

第二部 第2話 ジャイアン!

ジャイアン!設楽のり子の生保営業暴露日記
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第二部 第2話 ジャイアン!

ワンマン

 営業部長が変わってから、会社の雰囲気も少しずつ変わりつつある。彼もまだこちらの様子伺いをしているようなのだが、朝の朝礼の時間は確実に変わってしまった。

 前任の営業部長もそうなのだが、今度の営業部長もやたら朝礼の時間が長い。

9:00~:ラジオ体操

       出席確認 

9:15~10:00 

     営業部長の話

……である。こんな長い朝礼なんて絶対生保の会社だけですよね?

 今までは支部長まかせの朝礼だったので営業部長って遠い存在だったが、今回の営業部長はとにかく良く喋る。で、全ての事を自分でやらないと気がすまないのか、ホント、独壇場だ。あんなに元気だった支部長もいささか欲求不満んのようで朝礼の時間は眉間にしわをよせてどこか遠くを見つめていた。

……なんであんなに毎日あんなに長い間、喋ることができるのだろう。きっと奥さん相手に練習しているんじゃないかってみんな言っていた。朝って色々やりたいことがあるんだけど、この朝礼のおかげで今までのペースを変えざるえるを得ない人はたくさんいたようだ。

 小橋リーダーも例外ではなかったようだ。ある日の朝礼中の事である。

部長「おい、小橋リーダー、どこに行くんだ! 朝礼中だぞ!!」

小橋「お客さんのアポで、これから行ってくるんです」

部長「勝手は許さん! 朝礼が終わってからにしろ! アポ、取りなおせ!」

小橋「(かなりムッとして)とにかく約束ですので」(出て行こうとする)

部長「……後で俺のとこに来い!」

……これから、『俺の指示に従え』の営業部長vs『私がここの主人なの』と断言する小橋リーダーの戦いも始るのである。

ジャイアン!

 猿山の猿という感じで皆しばらくは、営業部長に関心があるようだ。私も女子高から女しかいない職場というように、男性にはあまり縁がなかったので、営業部長の行動にはかなり興味があった。とても行動力がある人らしく、一ヶ月も立たない内に会社の中で模様替えが行われた。

 もともと私達の営業所には二つ部屋があった。一つは営業職員の机がある通常業務の行われている部屋、もう一つは会議兼倉庫の部屋だ。とてもきれい好きな(?)営業部長は、休日に男性職員を使って倉庫部屋のロッカーをこちらの部屋に移動させていた。

 季節外れの大移動に、みんなのブーイングは起きたが、部屋が整頓されるのは監査以外こんな時しかないと渋々ロッカーの整理をさせられた。

 きれいになった倉庫を見た営業部長は、何を血迷ったのか、次の日には彼の私物のギターが置かれていた。

……いったい何をしようとするというのだ?

この荷物を見て、不思議に思った営業職員はたくさんいるのだが、営業部長の性格を把握していない私達はツッコみたくてもツッコめない。

 

 ある日の夜、あれは7:00過ぎだった。この時間帯はこくわずかの営業職員しか残っていない時間である。我らの小橋リーダーは、この日もTELアポに精を出していた。他のみんなはおしゃべりに集中していた。……営業部長は奥の部屋で何やらしている様だ。

 さぁて、もうそろそろ帰ろうかなと思い、部屋を出ようとした時、『設楽さんちょっと来て』と営業部長に呼び止められた。締め切りももうすぐなので、何か言われるのかと少し憂鬱になりながら部屋へ向かった。何故かそこの部屋にはたくみさんもいた。

※たくみさん=加藤

(えっ、いったい何?)

部長「おっ、そこに座って」

設楽「はぁ……(座る)」

部長「どうだ、加藤。このギターいいだろぅ。50万するんだぞ、これ」

加藤「へ、へぇ~、すごいですね」

部長「いい音するぞぉ。ちょいと聴かせてやる」

そう、たくみさんが音楽(エレクトーン)をやっている情報を聞き、彼を呼び寄せていたのだ。ステレオみたいなのにギターを繋ぎ、かなりの音量でギターを弾き始めた。

設楽「へぇ、部長上手いですねぇ」

部長「ふふん、そうだろ、もっと聴かせてやる」

(えっ!? もう帰ろうとしてたのに)

よく上手いかどうか分からなかったが、とりあえず誉めておこうと思いそう言ったのだが──営業部長はノッてしまった。音量をさらに上げて彼はギターを弾き続ける。

……30分、1時間……

終わる気配がない……

何かがふと頭をよぎった。
以前にもこういった人がいた様な……

あっ!

ドラえもんのジャイアン!!

 気がつくと、その部屋に何人か来ていた、いや呼び寄せられていた。誰も席を外さない、いや外せない。たくみさん、眉間にシワをよせている。他のみんなもそうだ。

 小橋リーダーは……あっ、自分の席で頭を抱えてる。眉間にシワをよせている。かなりキテいる様だ。

時刻は20時半──終わる気配が全くない。

たくみ「(小声で)お客さんのアポがあるっていって設楽さんだけでも逃げな」

!!!

神の声だった。

……私はその場から逃げることに成功した。で、帰り際に小橋リーダーが一言。

小橋「……お疲れさんな。……なんとかしたいね、アレ」

 後から聞いた話では、そのリサイタル(?)は22時まで続いた様だ。気をよくして彼はまた今後もリサイタルを開くことだろう。営業部長のワンマンぶりは今後も発揮される。

──そしてついに、小橋リーダーと営業部長がぶつかることになった。

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