#5 抜け殻の家
──九重あすかの死から約2ヶ月後
「美子ちゃん、幸子ちゃん……長い間居候させてくれてありがと。ただ、そろそろ帰るよ……」
「え? 別にこのままここに住めばいいじゃん。だって、お兄ちゃんの帰る場所って──」
「……アソコ、解約して清算しないと。ちょっと部屋も汚れてるから、キレイにしないといけないし……月末までの間、ゆっくり掃除でもするよ」
「あ、だったら私達も手伝ってあげるよ。一度どんな所に住んでたか見てみたかったし」
「いや、そこまでして貰ったら悪いよ。俺だけでどうにか──」
「今更遠慮しないで! 今日はあすかさんの家でみんなで鍋にしよ♪」
「で、でも──」
「いいから! ほら、お兄ちゃん、行くよ!」
「は、はい……」
■あすかと住んでいた家
「……ぅわぁ、何これ……ゴミまみれじゃん……」
「ぁ……ホントだ……酷いですね……」
「布団の所とお風呂場だけはまだマシだけど……どんな生活送ってたのよ……」
「……あすかを看るのが精一杯で……」
「とにかく! 今からみんなで手分けして掃除! 幸子は台所の方お願い。お兄ちゃんは散らばった衣服を仕分け! いらない服はゴミ袋! 分かった?」
「は、はい……」
──30分後
「お兄さん、包丁ってどこにあります? 後、キッチンバサミも」
「あ……一番上の棚に隠してあるよ」
「……あった。──?! な、何これ? ハサミにカッターに針に画びょうに……ホッチキス? な、なんでこんな所に?」
「あ……あすかがすぐ手首切ろうとしたり身体痛めつけようとしたから……鋭利なもの、全部そこに入れてた……」
「あれ? お兄ちゃん……紙おむつに前掛けに哺乳瓶? 赤ちゃん用歯ブラシ? 赤ちゃんいたの?」
「あ……あすか、トイレいけなくて……後、食事もうまくできなくて……全てあすか用のもの……」
「じゃ、育毛剤とかローションミルクとかも?」
「……ちょ~っと抜け毛もあったし、肌もちょ~っと荒れてたから……」
「な、何か想像以上に壮絶だったみたいだね……」
「……それでも、楽しかった……よ」
「……そっか」
──3時間後
「──ふぅ……殆どゴミだけだったから、意外に早く終わったね」
「……ありがと……────ッ」
「ど、どうしたの? お兄ちゃん」
「あ、ごめん……あんなゴミだらけでも……なくなったら寂しいなって……思い出が詰まってたから……抜け殻みたいだなって……」
「あ……ごめんね、気付けなくて……」
「……いいよ。いずれ捨てなくちゃいけなかったし……ありがとね」
「……あ! 鍋食べよ! 幸子、もう出来た?」
「あ、うん。今そっち持ってくね」
「あ~お腹空いた~。じゃ、食べよっか♪」
──食事中
「──でね、こんな事もあったんだよ~」
「お姉ちゃん、相変わらずだね。そんな事しちゃダメじゃん」
「だってしょうがないじゃん~。そういう幸子だって──」
「……────ッ」
「──?! お兄ちゃん? どうしたの? 具合悪い?」
「いや……会話があるっていいなって。暖かいなって。ここでこんな風にご飯食べたかったなって……────ッ」
「……私達がいつでも一緒にご飯食べてあげるから……ね」
「あり……がと────ッ」
「ほら~、そんな泣いてないで~。早く食べないとお肉なくなっちゃうよ」
「ちょ! お姉ちゃん! そんなに一気に肉取らないでよ」
「幸子が食べるの遅いのが悪いんでしょ! あ、お兄ちゃん、よそってあげるね♡」
「ちょ! 私の分がもうないじゃん! 信じられない~」
「wwwwww」
──食後
「──さてと……今日はここに泊まるか」
「──え?」
「だって、丁度お布団3つあるじゃん。これって、泊まれって言ってる様なものじゃん」
「い、いや……同じ部屋に寝るのはダメだって……一応俺も男だし……」
「別に普通だって~。1つの布団で寝る訳じゃないんだから~」
「ま、そうだけど……」
「決~まり! じゃ、お風呂入って寝よ♪」
「え? お風呂入るの?」
「当たり前じゃん。掃除でちょっと汗かいたし、お風呂入らなかったら不衛生じゃん」
「ま、そうだけど……着替えは?」
「ん? バスタオル巻いとけばいいじゃん」
「い、いや……それは流石に不味いって……」
「ん? 何が?」
「お、俺も男だから……ね?」
「あ、別にいいよ~、もししたかったらしても。……3Pでもする?」
「バ、バカ! そんな事したら、俺、人間のクズになっちゃうじゃん!」
「www 冗談だよ、何真に受けてるの、お兄ちゃん。……じゃ、お風呂入ってくるね」
「あ、あぁ……」
──就寝時
「……zzz」
「あ……幸子寝ちゃった。そういえば昨日徹夜で勉強してたからな~」
「……美子ちゃん、今日はありがとね」
「ん? 何が?」
「……正直、今日ここで1人で寝るのはキツかったから。……美子ちゃん達がいてくれて……助かったよ……」
「私……うるさくなかった? 幸子みたいに気が利かなくて……お兄ちゃんの迷惑になってないかな~って……」
「迷惑なんて……美子ちゃんの明るさに、凄い救われたよ。……気も紛れたし」
「そ、良かった♡」
「ホント……ありがとね。じゃ……おやすみ」
「──♡」
──1時間後
「……あすか……待って……何で……────ッ」
「……あ~あ、やっぱり。悪夢にうなされてる……こんなに泣いちゃって……」
「ごめん……俺が……────ッ」
「……しょうがないな~。また一緒に寝て抱きしめてあげるから……今日は特別に生肌サービスだよ~」
「……スー……スー……zzz」
「……お兄ちゃん、赤ちゃんみたい。こうやって抱きしめないと安心して寝れないなんて……もう私なしでは寝られないんじゃない?」
「……zzz」
「……そのうち、私なしじゃ生きれなくなっちゃうよ?」
「……zzz」
「いい年してそんなんじゃ……彼女できないよ? 一生結婚できないよ? それでもいいの?」
「……zzz」
「……お兄ちゃん……大~好き」
「……zzz」
「私とず~っと一緒に……ね」
「……zzz」
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