組織変更
1月…組織変更
1月になった。今年は一体どのような年になるのであろうか……期待と不安のまじる中、今年初めて出社。
いや、正確には営業所へは1月1日より来ていた。 勘違いしていた~という訳ではなく、とある営業の本にて「正月の挨拶回りは有効である」という事が書いてあり、それに感銘を受けて実に元旦よりお客様巡りを加藤はしていた。
ただ、あくまでもその本には「新年挨拶回り」という事を書いてあるだけであり、元旦より営業に回ると有効等とはどこにも書いてなく……いわば加藤の捉え方違いであったのではあるが。
この加藤の「大きな勘違い」による行動は、予想外にもかなり有効であり、1月、そして2月の成果に大きく影響を与える事となる。(どこにいっても「正月に訪問されたのは今まではじめてだ!」といわれ、意外にも歓迎された)
本当の仕事はじめは翌日からとなっていたが、加藤をはじめ男性職員は「新年の飾り付け」「組織変更」という名目にて呼び出されていた。
「さて、今日中にこのように机を移動して欲しい」
営業部長、実はこれまでで3度席変えをしていた。 1年(4月より)で、これで4度目の席変え……またか、という気持ちでいた。(席替えをするのは男性職員の仕事となる為)
席変え表を見て、「え?」と思わず声をあげてしまった。
(勝野の組織が……なくなっている。自分は……遊撃組織? なんじゃこれ??)
「あぁ、加藤知らなかったのか? 勝野は先月付けでリーダーを降りているんだよ。その関係もあって、今回席移動しようと思ってな」
加藤の時間が止まる。
(勝野リーダーが……リーダーではなくなった?? それは……自分のせい……なの……か??)
まるで自分の心の声が営業部長に聞こえたかのように、
「あ、勝野がリーダー辞めたのは決してお前のせいじゃないぞ。むしろお前は貢献した方だ」
と、答えた。
とはいっても11月の事、こないだの事……全く自分自身が原因ではないとはとても考えられない。
色々な事が頭をグルグル巡り、気がついたら席移動を終了していた。 その時、はたと思い出し、営業部長に聞いてみた。
「え、営業部長。自分、まだ育成部なのですが、これからの自分の指導は誰がしていくのですか?」
そう、自分は○○グループと誰かの下という形ではなく、遊撃部隊という不思議な名の元、他の人の名は記されていない。全くの意味不明な……グループであった、ここだけが。
「ん? お前? 誰が今のお前を指導出来ると思う?? 下手したらこの営業部でお前以上の成績出してる奴いないかもしれないだろ?」
……どうやら、自分の指導は、以後誰もいなくなる……らしい。。
「ま、今後は自由に動いてくれ、という事だよ、ははは。あ、メンバーは明日でも分かるだろうよ」
……どうやら、年が変わって、思いっきり自分のスタイルも変わる事になりそうだ。
遊撃隊
いよいよ、本当の仕事初めの日。皆、出社と共に「え~、また席変わったの??」とガヤガヤしている。
遊撃隊……誰一人座らない。
席は……6つ。
何かよく分からない状態で、ちょこんと席に座っているうちに、朝礼の時間がはじまった。
皆席移動によって、今までより狭いスペースにて座っている。 一方加藤は、というと、不自然な程大きなスペースの中に、1人だけ座っている。 なんとなく、バツの悪さを感じる程であった。
「え~、今日から新年になった訳だが────」
営業部長が朝礼をはじめる。加藤は? というと、営業部長から一番離れた場所の席で、ウトウトとしていた。 そこに少々強い力でバンと背中を叩かれた。
後ろを向くよりはやく、声が聞こえてきた。
「おい、若造。もっとシャキっとせんか!」
その一声は、営業部長の朝礼すら中断させる。
「あ、川崎所長、おはようございます!」
まるで上司に対するように、営業所で一番偉いはずの営業部長が、新人のように挨拶をする。
「ウム、おはよう! 私の席はどこかね?」
「あ、そこの加藤の向かい席になります」
「……バッカモン! 花の水が入ってないじゃないか!!」
「すいません! おい、加藤! 川崎所長の花瓶を……」
川崎所長。
営業所で、いや支社で、いや、全国有数の成績を納めている人である。 加藤も当然その存在を知ってはいたが、話をした記憶はない。
そもそも、営業所に顔を出す事は殆どなく、常に外に出ているらしい方なので。 いわばVIP待遇もいい所であり、営業所、いや支社の影のドンといわれている人である。
「おぉ、お前加藤というのか。明日から俺の机の掃除しておけよ!!」
朝礼を無視して、話し掛けてくる。が、川崎所長を止めるものは誰一人いない、というか誰にも止められないというのが正解か。
ふと不安が過る。川崎所長はしゃべり続ける。
「さて、ここで私から挨拶を。●☆※△~」
誰も止めるものはいない、営業部長も含めて。
かれこれ20分くらい経過したであろうか。 1人の男がソソクサと入って来た。
「コラッ勝野!! 俺よりも遅く来るとは何ごとか!! 随分と殿様だなぁ……」
「いえ、めっそうもない……朝たまたまアポが入っていまして……」
「バッカもん! で、契約は取れたのか!」
「はい、一応……」
「ウム、それなら良し。じゃぁ、私の挨拶はこれで終わります、皆も頑張りましょう」
──パチパチパチ…
拍手が一斉に起こる。どうやら、川崎所長が話をした後は拍手をしなくてはならないという取り決めでもあるようである。一方勝野は、というと、こちらの方に歩いてくる。
「よッ。今日からよろしくな」
「──え?」
勝野が、隣に座る。全く意味不明である。
「──という事で、川崎所長の言葉にて朝礼を終わりたいと思います」
何が何だか意味不明だが、朝礼が終了した。
「おぅ、勝野! 元気か!!」
「はい、元気にやっております」
「そうか、頑張れよ。俺は今から仕事にいってくる!」
「は、いってらっしゃいませ! おい、加藤、お前も……」
肘で脇腹を突かれ、慌てて礼をする。
遊撃隊。
勝野に説明を聞くと、出社・帰社の義務はなく、ただひたすら数字を追う部隊だそうだ。机も何故か2つ分を使用可能、数字さえあげれば何をしてもOKという非常に自由かつ厳しい待遇となる……ようだ。
「いや、な。まぁ色々あった訳だが、俺としては同じ立場で競争したいな、と思ってリーダーを降りたんだよ。取りあえず今月は~、10万賭けな!」
「──え??」
何はともわれ、今までとは違う環境になり、仕事は始まった。 勝野と共にまた仕事ができる。
加藤はそれだけがただただ、嬉しかった。
──が、その環境は2ヶ月しか継続しなかった。皮肉にも、それまでの加藤の実績によって。
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