たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記 エピローグ #5 伊織とたくみ

#5 伊織とたくみたくみの営業暴露日記
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#5 伊織とたくみ

(続き)

「生ける伝説のジゴロと平成の妲己……異性を堕とす事に関して右に出る者がいないといえる2人が出会ってしまったら一体どんな化学反応が起きるのか……私は期待と不安で胸を膨らませていたわ……!」

「な、何ですかそれ……」

「あの勝野君をしてアイツだけは敵に回したくないと言わしめるたくみちゃんに抱いてたイメージは……口が達者で恐ろしく頭が切れて冷酷な男だったからね」

「ま、まぁ勝野さんの話を真に受けたらそうなるかもですね……実際一目見たらそれは違うって分かりましたよね?」

「今でも鮮明に覚えているわ……初めて営業所でたくみちゃんを見た時のインパクトは。異様な緊張感に包まれた人を寄せ付けないオーラ、恐ろしく鋭い目つき、そして全く感情が読み取れない表情……一目であのたくみちゃんだと分かったわ」

「確か3月でしたっけ? あの時は職場いじめされてましたからね……」

「夜の街でならした百戦錬磨の私ですら……たくみちゃんに簡単に近づく事が出来なかったわ」

「ま、まぁ……俺、表情作ってないと常に怒ってるみたいに見られますからね……第一印象の悪さなら誰にも負けない自信ありますよ、俺」

「そういう事じゃなくて……不用意に近づいたらあっという間に飲み込まれる私が容易に想像できたからね……」

「な、何でそうなるんですか……」

「ギャップは大きければ大きい程、有効だから。自らの武器を最大限に活かす為にあえて第一印象を最悪にするなんて、誰にでもできる事じゃないから」

「い、いや……単なる素なんですけどね……それにしても、もっと早く声かけてくれれば良かったのに。俺、あの時はホント会社で孤立してましたから」

「何言ってるのよ。たくみちゃん、全然営業所にいなかったじゃない。朝礼中にそそくさといつも出ていったと思ったら、定時過ぎでも絶対戻ってこないし。付け入る隙なんて微塵もなかったわよ」

「い、いや……朝は8時くらいにきてみんなの机拭きやゴミ出し、コーヒーメーカーのセッティングとか雑用やってましたので、その時話しかけてくれれば良かったじゃないですか」

「な、何よそれ……初耳なんだけど。何でたくみちゃんがそんな下っ端の仕事やってたのよ……」

「一応、あの営業所の伝統みたいなのがあって、一番入社歴の浅い男性職員が朝の雑用やるって決まりになってたんですよ。それで、延々と──」

「木村君がいたでしょ! たくみちゃんより後輩じゃなかったの?」

「い、いや……冷静に考えたら俺の後輩になるのですが、木村さん年上ですし……あ、意外にラッキーな出来事もあったんですよ? 隣の会社のOLと毎朝顔合わせたら何か仲良しになって流れで隣の会社の人達の飲み会に参加したり保険も入って貰ったりしましたし」

「流石、伝説のジゴロ……何て武勇伝を……営業所にいないと思ったら、朝っぱらから隣の会社のOLとよろしくやってたなんて……」

「い、いや……毎朝お茶くみやってたら誰でも同じ経験する筈ですって。ほら、なじみ活動の一環みたいなものじゃないですか……嫌われる言動しなければ仲良くなるに決まってるじゃないですか」

「……ま、いいわ。話を戻すけど、とにかく当時のたくみちゃんはびっくりするくらい会社にいなかったから! 下手するとたくみちゃんを一度も見ずに辞めていった子だっている筈だから!」

「ま、まぁ……俺も営業所の人達の3割も覚えてませんでしたから、あり得るでしょうね」

「そこまで無関心なのはたくみちゃんくらいだから! ってツッコミたいけど、話が進まないからスルーするわ。とにかく、3月中は声かける機会すらなかったのよ!」

「い、いや……4月とかでも声かけてくれれば──」

「美幸があんな事になった後、さらに輪をかけて人を寄せ付けないオーラ発してたじゃない! 朝礼すら殆どいなかったし! 勇気を出して喫茶福井に行ってもたくみちゃん全然いなかったし!」

「い、いや……ママさんに辛いだろうから暫く来るなって言われてましたし、それ以前にロクに風呂も入ってなければ着替えもなかったので会社にいくにいけない状態だったとも……」

「……は?」

「当時は酷かったですよ~。身体が色々拒否反応起こしちゃって、足は鉛がついたみたいに重かったですし、まるで外国語を喋るみたいに言葉もでなくなっちゃって……北さんのところに顔を出さなければ、きっと4月中に野垂れ死んでたと思いますよ」

「拒否反応までは理解できるとして、野垂れ死んでたって……そもそも、例のマンションに住む前はどこにいたのよ……」

「え? 美幸の家を追い出された後は、〇×ビルの屋上に住んでましたよ? あの時、お金全然持ってなかったですし、冗談抜きに毎日ゴミ箱漁って暮らしてましたよ……」

「な、何でお金ないのよ……アホみたいに稼いでたでしょ?」

「いや~、美幸の死後、数日程軽く放浪してたんですが、何か財布ごと何処かに落としちゃったみたいで……ま、しゃーないかな~って」

「まさかと思うけど……紛失届とか銀行に連絡とかは──」

「いや~、頭回りませんでしたね、当時。で、半年後にようやく思い出して銀行に連絡したはいいのですが、口座残高が129円になってましたよ」

「そ、それは悲惨だったわね……」

「その時の教訓で、何種類も口座保有する様になったんですよ。痛い目みる前に分散投資の重要性を見に沁みて理解できて、ある意味ラッキーでしたよ」

「……十分痛い目みたと思うけどね……」

「それにその経験があったからこそ、人並みの金銭感覚を覚えましたし」

「……前にも突っ込んだけど、全然人並みじゃなかったけどね……」

「何より、全財産をなくしたからこそ……もうしばらく生きなくちゃって会社に残る気になりましたので……」

「……美子ちゃん達への仕送りの件が、たくみちゃんをこの世に引き止めたんだ……」

「ま、ぶっちゃけ自己満足の世界ですけどね。こんなお金なんか送る暇あったら、一刻も早くあの世にいけって思ってる可能性高いですし……ただ、絶対大学に行かせてあげるって約束しましたので……少なくともお金が原因で大学にいけないって事だけはないように~……って」

「…………」

「ただ、ご存知の通り……意志と違って身体は全然ついてこなくて……2ヶ月も全く成績取れなくて……やっぱりもうダメだな~、美幸の元へ行こうかな~って思ってた時……九重に出会って助けられました。……俺はまだ終わってないから、私がどうにかしてあげるからって」

「…………」

「ま……それから華麗に復活して営業ができるようになったという美談になる事はなく、依然として飛び込みできないままでしたけどね。挙句の果てに、無理して飛び込みしたらぶっ倒れて……ドクターストップかかりましたよ。……これ以上営業やったら命の保証はできないって」

「……極度の心身の疲労、及びストレスが原因による異型狭心症……だったよね?」

「──?! な、何で知ってるんです?」

「そりゃ……たくみちゃんが倒れた時、救急車呼んで病院に連れ添ったの、私だから」

「──?!」

「本当は……たくみちゃんの異変は4月の段階で分かってたから……このままいったら、近い将来壊れちゃうって……」

「だ、だったら何で……」

「それがたくみちゃんの望みだって事も……気付いてたから。美幸と同じ道、辿りたいんだなって。……だったら、せめて私は骨を拾ってあげようかなって……それが私の残された使命なのかなって」

「…………」

「ただ……いざたくみちゃんが倒れた時……私でもびっくりするくらい腹が立ってね……私の存在を知る事なくあっちに逝くなんて何事か! 私との勝負は? 不戦勝は許さないって思いが沸々とね……気が付いたら一緒に救急車乗ってたわよ」

「そ、そういえば、ホコタテ対決する為に入社してきたって言ってましたね……それって結局何だったんです?」

「勝負の行方の先はどちらかが堕ちるって事よ……!」

「え、えっと……平たく言うと、俺が伊織さんを堕とすか、伊織さんが俺を堕とすか……ってな話ですか? そ、それって──」

「結果的に略奪……になるのかな? よくよく考えたら、古田ちゃんと入社動機似てるからね、私」

「うぅぅ……略奪って……さっきまでの美幸との熱い友情物語が台無しじゃないですか……」

「あ、大丈夫。あの子、ちょっと感性狂ってるから。生きてたら、きっと一緒の家に住む事になってた筈よ」

「い、いやいや……いくら何でもそれは──」

「けど、さっきの話を聞くと、新婚旅行、美幸は私を誘う予定だったんでしょ? なら、普通にあり得たんじゃない?」

「た、確かに……ないとは言い切れないですね……美幸ならホントにそうしちゃったかも……」

「で、同じ屋根の下で暮らしてたら……ね♡」

「うぅぅ……泥沼一直線じゃないですか……何て酷い……」

「大丈夫! あの子はそういうところは寛大だから。きっと仲良くたくみちゃんをシェアする事になってた筈よ!」

「うぅぅ……人をモノみたいに……俺、悲惨じゃん……」

「何言ってるの? 私と美幸の夢のローテーションだよ? それに加えて美子ちゃんや幸子ちゃんもだよ? 公認で美人四姉妹のローテが組めるなんて、男冥利に尽きるじゃない!」

「訳の分からん事、言わないで下さいよ……」

「で、話を戻すけど……たくみちゃんが倒れた時、九重ちゃん凄かったんだから」

「……え?」

「たくみちゃんは知らないだろうけど、九重ちゃんはびっくりするくらい周りに怒ってね……こうなったのはみんなのせいだ、もしもの時は私が絶対制裁を下すって」

「…………」

「その時、はっと気づいたのよ。私がたくみちゃんと九重ちゃん、2人の運命を大きく変えちゃったのかもって……私が動かなければ、今頃全く違う未来になってたのにって……だったら元に戻してあげないと……って……」

「……え?」

「だから、2人の為、愛のキューピット役をやってたのよ……」

「い、いや……九重は波乱万丈の俺の人生を傍からノーリスクでみたいからって名目で──」

「一緒に住む時点で腹くくってたに決まってるじゃない。きっと九重ちゃん、たくみちゃんが落ちぶれたら一生面倒見る気だった筈よ」

「ま、まさか~……アイツ程、計算高くてずる賢い女、そうそういないですって。何せ、婚活の為に会社に入って来た様なヤツですよ? 結婚は打算が全てだ! って言い切ってましたし……元々俺はリスキー過ぎるからスルーだって言い切ってましたし……少なくとも俺と一緒になる事はあり得ませんでしたよ」

「営業できなくなっちゃったから、自信なかったんでしょ?」

「…………」

「たくみちゃんは未だに誤解してると思うけど、たくみちゃんの真髄は飛び込みじゃなくて、頭のキレだから、実はどうとでもなったと思うけどね」

「い、いや……流石にそれはないですって。ほ、ほら……俺、押しも弱いですしトーク力もないですし、何せ営業センスないから営業に向いてないって散々九重に──」

「営業センスない人が、退職の挨拶回りだけで小橋さん以上の成果あげられないから」

「い、いや……きっと同じ事、誰でもできますって。下手に売り込まない方が信用得られ──」

「誰も無欲になんかなれないから! そんな事できるの、世の中広しといえどたくみちゃんくらいだから! 当時一緒にいた私がたくみちゃんの成果にどれだけドン引きしてたか分かる? いい加減、自分のしてきた事の特異さに気付きなさいよ!」

「す、すいません……」

「……そんな自己評価が異様に低いたくみちゃんに少しでも自信を、と思ってね。……だから、たくみちゃんの才能を開花させる為に色々してたのよ」

「えっと、それのどこが愛のキューピット役の話なんです……? あ、あまりそんな気しなかったですが……」

「しょうがないでしょ! 当時のたくみちゃん、モテ期到来してたから、私が足止めしないといけなかったのよ!」

「い、いや……そんな事なかった──」

「さっき聞いた隣の会社の子、そして古田ちゃんに例の花屋の日高ちゃん、後は第一の子にドコモショップの子もだっけ? 一体何人の子といい関係になりそうになってたのよ!」

「……前の3人はともかく、物語で略した子までよく知ってますね……結果的に誰ともいい関係になりませんでしたけどね……まるで誰かに妨害されたかの様に、いつも……ね」

「気のせいよ! 決してたくみちゃんの為に敢えて彼女達を試したなんて事してないから!」

「……やっぱり伊織さん、裏でゴニョゴニョやってたんだ……だからあんな不自然すぎる別れが多かったんだ……ま、今更どうでもいいですけどね」

「私はあくまでたくみちゃんと九重ちゃんの愛のキューピットだったから♡」

「な、なるほど……って、九重は誤解してましたよ? 俺と伊織さん、しょっちゅう日中一緒にいましたし……」

「ちょっとくらい障害があった方が……愛は育まれるでしょ♡」

「……全然ちょっとじゃなかった様な……クリスマスイブに泊まりでスキーいったりとか──」

「それこそ、雨降って地固まったでしょ! 誰がみても私のやり方はパーフェクトだった筈だわ!」

「……結果的に伊織さんの例のアイコラ写真の為に九重は怒り狂って出ていって、俺もどん底に堕とされましたけどね……」

「…………」

「あ、勘違いしないで下さいよ? 俺は伊織さんを恨んだ事なんて一度もありませんから。むしろ、その逆ですから」

「……え?」

「……どんな理由であれ伊織さんが俺と一緒にいてくれた日々は……今でも俺の宝物です。本当に楽しかったですし……救われましたから。伊織さんに出会えて、本当に良かったです。……本当にありがとうございました!」

「……私も同じよ。たくみちゃんと過ごした日々は……私にとっても……九重ちゃんや美幸に悪いけど、たくみちゃんとの未来を想像した事も……ね」

「……え?」

「ただ、それは絶対叶わない夢だって自覚してたから」

「……え?」

「二度もたくみちゃんに悲しい思いさせちゃいけないから……ね」

「……え?」

「だったら、元気なうちにとことん嫌われて去らなきゃ……ってね」

「な、何を……言って……?」

「こういうところ、私とたくみちゃん、そっくりだな~って思うよ」

「──?!」

「たくみちゃんなら、もう分かってるでしょ? ……私の病気の事」

「──?!」

(続く)

挿話?

更新頻度が遅くて申し訳ありません。

書いていて思ったのは……やはり2年後から書いたのは無理があったんじゃないかな、と。(ただ、畑口の話はこの章でどうしても完結させたかったので……)

また、全て会話で物語を進行させるのはかくも困難を極めるのか……と笑(しかも、しょっちゅう話が飛ぶし……ま、リアルをなるべく再現したら、こんなイメージ)

今回に関しては特に補足する部分もないです。最後が全てですかね。

これから2年後、正確には1年半後くらいに、自分は下記の冒頭の症状に陥ります。

このエピローグの2年後の段階では殆ど無症状でしたが、そこから半年後くらいから一気に……その大半の理由は……そして、何故にシンデレラストーリーに乗らなかったか、次回か次々回で分かるでしょう。

勘のいい読者の方なら「あ……」と気づくでしょうが、えぇ、多分それが正解です。

もう少しお付き合い下さいませ。

 

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