オフショア講座(6)
バイアティカル・セトルメントについて
バイアティカル・セトルメントとは?
米国の代理店では、昨今、バイアティカル・セトルメント(Viatical Settlement)の取扱い高が増えて来ていると聞く。香港でも、米国経由で、一般の投資家向けに販売され始めた。
さて、日本ではどうだろうか。
まず、こう切り出すと、保険業界の方にも、「それ、なあに?」と怪訝な顔をされる。「ホスピス患者の終身保険買取りです」と、単刀直入に説明をすると、益々、目が点になってしまう。
日本では、医療倫理の問題からか、死の告知をすることさえ、侃侃諤諤の状況なので、余命を知った被保険者が、解約よりも良い条件で、終身保険を現金化し、治療や余生を楽しく送ることに充当するなど、思いもよらないらしい。
仕組は至って簡単である。
ここに、余命3年と言う告知を受けた末期医療患者がいたとしよう。
海外では、終身保険の支払期間は10年前後というのが一般的だから、40代を過ぎていれば、既に払い済みになっていることが多い。
A氏も、30万米ドルの死亡保険に対する保険料支払は、既に終了していた。払込総額は3万ドル。
すぐに現金化しようとして、保険会社に解約を申し出ると、返戻金は6万ドルにしかならない。
余命1年ならば、特約によっては死亡保険金の前払いも可能だが、3年となると、その手も使えない。
そこで、A氏は、代理店に連絡を取り、この保険の受取人になることと引き換えに、キャッシュで即20万ドルを払ってくれる「投資家」を探し、受取人を投資家に変更する手続きをする。
解約するより3倍強も多く現金が入り、療養費と家族へのささやかな別れのプレゼントも賄えた。
一方、投資家は、2万ドルの手数料を代理店に支払っても、合計22万ドルの投資が、3年後には相場環境と全く関わりなく、30万ドルに増える。
こうした取引は、原理的には300年以上も前から行われていたもので、何も新しくはない。
が、これを、3年満期の債券のように金融商品化してしまうところが、いかにも合理的で、今風である。
人道主義か悪魔の取引か
既にお気づきのように、割引き率は予め決まっているので、問題は、「償還時期」である。
通常の債券の償還は予め決定されているが、Viatical Settlementでは、被保険者の死=保険金の満額受取、つまり満期償還となる。それ故に、余命の判定には、第3者的な医療機関の審査もあり、非常に慎重である。
本家米国では、単なる私利私欲のためだけに存在する投資活動と比べ、今、資金を必要とする者に、救済の手を差し伸べる人道的な行為と位置付けられている。
通常の投資なら、知らないうちに環境破壊をする会社の成長を助けてしまうこともあるし、殺人兵器の製造に一役買ってしまうかも知れない。
それに比べれば、人間の最後の尊厳を実現できるよう、少しでも役に立てるのだから、これは博愛精神そのものである。キリスト教の文化が根強いからこそ、支持も高いのかも知れないが、精神文化の違いを見せつけられる思いがする。
ちなみに、日本人の反応は、償還される喜びは、人の死を喜ぶことにつながり、とても耐えられない、心の中のどこかに、予定日以前の償還を待ち望む気持ちが芽生えるのが恐い、という否定的な意見が大半であった。
中には、医療従事者として、痛いほど末期患者の経済状況や心理が分かり、是非、間接的に役に立てれば、と名乗り出てくれる方もいた。
反対に、確定利回りの究極の非相関系投資と割り切って、電卓をはじかれる方もいた。
ちなみに、これをもう少しマイルドにして、養老保険の買取りを、ファンドにしてしまったものが、オフショアで売られている。
養老保険だから、特に、末期医療患者からの買取りである必要もなく、気が楽である。こちらは、年率9%強と、若干利回りが低いが、流動性は高い。
残念ながら、日本の保険で同じような仕組はまず、不可能である。
理由は簡単。
保険会社の破綻リスクが海外に比べて極めて高いことに加え、終身や養老保険のお値段が高すぎて、そもそも話にならないのである。
今回は、こうした商品の是非は別にして、海外の代理店やファイナンシャル・プランナーの守備範囲の広さを実感して頂ければ幸いである。
補足
師匠の連載第6回です。
個人的にこのバイアティカルは感銘を受けまして、何とか取り扱えないだろうかと色々と試行錯誤した記憶あります。が・・・結果的に未だこの取引を成立させたことはありません。
仕組み的に素晴らしいのですが・・・現段階で扱いがあるのは米国のみ。かつ、米国でもかな~~りマイナーな取引であり、投資案件自体が限りなく少ない・・・後、信用がおけるかどうかの調査がクソ面倒・・・
かつてはバイアティカルもののファンドも出ていたりして「おぉ! これは絶対アリだよ!」と飛びつきそうになりましたが、冷静に「米国ですらマイナーで中々案件ないのに、なんでファンドにできるんだ?」という事に気付き、様子を見ていたら実はポンジースキームでした~というオチだったり。。
どうしても「死」をお金に~というのは世界共通で抵抗があるのか、中々この仕組みは広まらないですね。
ちなみに、養老保険売買に関してはTEPsという形で普通にファンドでありますね。個人的に好きな市場なのですが、同じくマイナーの部類を超えないですね。(恐らく英国でもマイナーな部類であろう。PBの人に聞いたら「何、そのTEPsというのは?」と真顔で言われたくらいですから・・・)
以上、珍しく補足らしい補足でした。
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