#21 お兄ちゃん病
──10月初旬 ~寝室~
「……お兄ちゃん、行かないで……私はここにいるから……」
「またお姉ちゃん、うなされてる……ちょ! どこ触ってるのよ!」
「お兄ちゃん、気持ちいい? だ~い好き♡」
「……お姉ちゃん、結婚しなくて正解だったよ。そんな寝言……絶対ヨシキさん、怒り狂ってたよ」
「……zzz」
「幸せそうな寝顔しちゃって……どんな夢みてるのよ。……どうせお兄さんとの夢でしょ?」
「……zzz」
「ホント、お姉ちゃん、お兄さん中心に世界が回ってるんだから。ここまで来ると、病気だよ」
「……zzz」
「毎日お兄さんの分の食事作って、布団干して、掃除して……いつ帰って来てもいいようにって……」
「……zzz」
「いつの間にか大学休学して介護の勉強して、ヘルパーやって、栄養管理士の通信講座まで……」
「……zzz」
「全てお兄さんの為になるからって……ホントバカなんだから」
「……zzz」
「毎日朝早く神社行ってお祈りして、願掛けで断酒して、何故か写経や水行まで……見てて辛いよ」
「……zzz」
「もしお兄さんが帰ってこなかったら……なんて、全く考えてないよね。絶対帰ってくるって信じ切ってるよね」
「……zzz」
「世の中、絶対なんて事、ないんだよ? 天国にいるお姉ちゃんだって……どうにもならなかったでしょ?」
「……zzz」
「知ってるんだから……お姉ちゃん、毎日お風呂場でこっそり泣いてる事……ホントは不安で不安でしょうがないんだよね」
「……zzz」
「私にはちょっとくらい弱味見せてくれてもいいのに……お姉ちゃんっていっても1歳しか年違わないでしょ? なのに強がっちゃって何ともないフリして……バカ!」
「……zzz」
「お兄さんもお兄さんだよね。こんな単純でストレートなお姉ちゃんの気持ちに気付かないなんて……ま、ちょっと変だったかもだけど」
「……zzz」
「お兄さんだって……お姉ちゃんに惹かれてたでしょ? 凄い優しい目でお姉ちゃんを見てたの、知ってるんだから」
「……zzz」
「理想のお兄さんを演じなきゃって……気持ち押し殺してたよね」
「……zzz」
「2人……両想いだったじゃん。お似合いだったじゃん。兄妹のフリなんてする必要なかったじゃん」
「……zzz」
「早く帰って来てよ……お姉ちゃんを笑顔にしてあげてよ……幸せにしてあげてよ……私の為にも」
「…………」
「お姉ちゃん相手なら……諦められるから。私の恋を……終わらせてよ!」
「…………」
「そうしたら……お兄さん以上の、お姉ちゃんが嫉妬するくらい、いい男を捕まえてやるんだから!」
「…………」
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