#13 満月に狂わされ……
※「あすかの真実」と内容が一部ダブります。
「……お兄ちゃん、ちょっとホテル寄っていこっか」
「──は? い、いや……さっき言ったのは冗談だって。美子ちゃんに手出したら、それこそ人間の屑になっちゃうって……」
「あ、そういう事はナシだけど……ちょっと長い話になると思うから」
「ん? 何か相談? 微妙に深刻そうだね。……いいよ、今日俺もあんな事、付き合って貰ったから。じゃ……そこのホテルでも入ろっか」
「……うん」
──ホテルの一室にて
「──で、話って何?」
「私と幸子しか知らない……あすかさんの真実の話。多分……お兄ちゃん、誤解している事、多いと思うから……」
自分のせいであすかさんを死に追いやったと思い込んでいるお兄ちゃんに私の知っているあすかさんの事を伝えた。不治の病という隠されたキーワードを当てはめるだけで、色々な過去が書き換えられているのであろう、私の一言一言に呼応するかの様にお兄ちゃんは瞳に大粒の涙を溜め、そして溢れる様に涙が頬を濡らしていった。
- 自分のせいで最愛の人が自殺した
- 自分の為に最愛の人が自殺した
どちらの方が救いようがあるだろう? お兄ちゃんはどう感じたであろう? 全てを話し終え、子供の様に恥ずかしげもなく号泣するお兄ちゃんを見ながら、私はお兄ちゃんにかける言葉をひたすら考えていた。
──これからは……私と一緒に生きよ? 私が一緒になってあげる? 私が代わりになってあげる? 私はお兄ちゃんより長生きするから?
……どんな言葉をかけても逆効果になってしまう気がして無言の時間だけが過ぎていった。
「お兄ちゃん、ごめんね……」
やっとの事で出てきた言葉を吐き出すと同時に涙が溢れてきた。自分の不甲斐なさ、そしてお兄ちゃんの気持ちが流れてきて……
お兄ちゃんの震える肩をそっと抱きしめてみる。私の腕からお兄ちゃんの激情が流れ込んできて、私を狂わせる。腕に少し力を入れ、お兄ちゃんを私の胸に誘導する。お兄ちゃんは私の胸に顔を埋め、さらに号泣する。私は自然とベッドに横たわり、お兄ちゃんに覆いかぶさられる格好になった。
私の胸の中で泣きじゃくるお兄ちゃんを強く抱きしめ続け……その後──
お兄ちゃんはその後の事をきっと覚えていないであろう。夢と現実の区別が分からなくなっている筈だから。お兄ちゃんの全てが私の中に満たされた時、満月が遠く離れていく気がした。
今日の出来事は満月のせいにしてしまえばいい……満月が出ているうちは、狂ってしまえばいい。本能のあるままに、欲望や感情をむき出しにして……狼になって……
変身が解ける前に寝かしてあげよう。獣になって犯した罪に気付かない様に……重荷に感じない様に……全ては夢の出来事だったと思う様に……
朝日と共に、2人はいつもの兄妹に戻るであろう。ただ、満月が出ている夜の間はこのままずっと──
コメント