たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記~最後の210日~第16話:あいかわらずなボクら

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第16話:あいかわらずなボクら

ナンパ……?

「加藤君、今日夜の街に繰り出そうか。……奢ってやるからさ」

 11月下旬のとある日、加藤は喫茶福井の常連である斎藤さんに連れられて、とある外人バーに来ていた。彼は加藤の事情を聞いて以後、何かと気にかけてくれ、月に1度はこんな感じで飲みに付き合ってくれていた。

 たわいのない談笑をしながら飲む事1時間、軽く酔いが回って気分がほぐれてきたところで、斎藤さんが切り出して来た。

「最近どうよ? 新しい女できた?」

斎藤さん──いい人には違いないが、唯一欠点があるとするならば、根っからの女好きの遊び人という所である。まぁ、20代の独身男性には珍しい事ではないかもしれないが、そのレベルは常識の範疇を遥かに超えていた。夢は全人種制覇をする事と熱く語っており、その為に英語をはじめ、実に7つの言語を現地人並にマスターしたのはきっと彼くらいであろう。(そして、その類まれなる言語能力はナンパ以外では全く活かされる事がなかったのもある意味彼らしい逸話である)

……という彼の説明はこの辺に、話へ戻る。

「い、いや……正直当面はいいかな~って。俺、甲斐性ないですし……結婚は──」

「な~に固い事言ってるの! 若いうちはパーッと遊ばなきゃ! 女の事は女で忘れるのが一番だって!」

……こういう人である。

「い、いや……そもそもそういう機会も中々なくって……俺、モテないですし」

「な~に言ってるの? 紗理奈ちゃんとあれから上手くやってるんでしょ? 俺、狙ってたのに」

「い、いや……あす──紗理奈さんとはそういう関係になってませんよ。た、たま~にお茶するくらいで」

「あ、やっぱり続いてたんだ。クソ! 俺がどれだけ誘っても外でのデート応じなかったのに。俺がどれだけ通ったと思ってるんだよ、あの店」

「す、すいません……」

「ま、いいや。取りあえずあそこで1人で飲んでる子、ナンパしてきてよ」

「──は? む、無理ですって! ナンパなんてした事ないですし!」

「大丈夫だって! こういう店に1人で来てるって事は声かけられるの待ってるんだって!」

「そうかもしれないですけど、俺じゃ無理ですって! キモがられるのがオチですって!」

「それでいいんだよ! 加藤君に言い寄られてキモがってるところに俺が颯爽と登場して助けたら……な?」

「お、俺……ピエロじゃないですか。斎藤さんの引き立て役みたいで……嫌ですよ、そんな──」

「何事も経験だって! こんな事若いうちにしかできないんだから! 今度は俺が引き立て役やってやるからさ! な!」

「わ、分かりましたよ……」

(まぁ……こっぴどく振られて話のネタにするのも一興か)

 普段ならこの様な誘いは何とか理由をつけて断っていたであろうが、少々キツイ酒を飲んで酔いがそこそこ回っていたが為か、失敗前提でナンパ(という名の引き立て役)をする事に了承した加藤。が、このふざけた行為が元で加藤の運命はまた大きく動く事となる。

「ね、ねーちゃん。こ、これからホテルいって一発やらない?」

「…………」

 キョトンとしている。当然であろう。あまりにも酷いこの第一声、斎藤さんの教えであった。これが今の時代の最先端の声掛けである、と。草食系男子が多い現在、この様な力強いアプローチは非常に有効である、と。

(ぅわ……滅茶滅茶引いてるじゃん。何言ってるんだ、コイツ? みたいな顔してるじゃん……な、何がワイルド系肉食男子が今の時代受ける、だよ……斎藤さんのアホ! ……さっさと謝って撤退しよう……)

と思い、斎藤の方をチラッと見るとニヤニヤしながら次の台詞を言えと指で指示が。……完全に俺で楽しんでやがる……クソッ! 覚えてろよ! あとで浴びる程飲んで会計時に真っ青にさせてやる……えぇい、どうにでもなれ! という心境の元、第二の矢を放つ加藤。

「プ、プールのあるホテルでさ、カクテル飲みながら一緒に魚になろうよ。ね、いいじゃん」

「…………」

 あいかわらずキョトンとしている。当然であろう。いくら酒の席とはいえ、ここまで酷い声掛けのオンパレードは中々ないであろう……これも斎藤さんの教えであった。これで掴みは完璧だ、と。ワイルドさの中にオシャレさをトッピングすればどんな女もいちころだ、と。加藤は……穴があったら入りたい心境になっていた。

(ぅわ……滅茶滅茶唖然としてるじゃん。当然じゃん、こんな台詞でついてくる女の人なんてこの世にいる筈ないって……絶対、あの人、俺で遊んでるだろ……ホント、俺は何をやってるんだ……)

 心の底からそう思い、一気に酔いが冷めてシラフに戻る加藤であった。早くその場を去りたい、その一心で渾身の謝罪をしようと思っていた矢先──

「……へぇ、プール付きのホテルがこの辺にあるんだ~。ちょっと興味あるな~。ね、それってどこにあるの?」

「──へ?」

「どれくらいの広さのプールなの? 泳げるの?」

「あ、い、いや……そ、その~……」

「あれ? もしかして~、そこまで考えてなかった?」

「は、はい……ナンパ自体初めてだったので……」

「www だよね~」

 何故か楽し気な雰囲気になってしまった2人の後ろに、空気を読まずに訪れる黒い影。そう、斎藤さんである。

──い、いけない! 今このタイミングで来ては! 今は引け……! 頼む、気付け、気付け、気付け────!

「おい! お前、何やってるんだ。彼女嫌がってるだろ!」

「ん? あなたこそ何? 別に嫌がってないけど。あ、ナンパならこの子で間に合ってるから他あたって。私、これからこの子と場所変えて飲みにいくから、邪魔しないでね。あ、会計よろしくね。じゃ~ね~」

「え……?」

茫然と立ち尽くす斎藤を残し、店を出て夜の街へと消えていく加藤と謎の女。

──加藤、まさかのビギナーズラックで初ナンパ成功……! 果たして加藤の運命は?

また……?

まさかのナンパ成功──謎の女に誘導される事、数分。加藤は地下にあるカウンターバーに連れてこられていた。

──地下のカウンターバー

「──という事だったんです。すいません!」

「やっぱりね~。そんな事だろうと思ったわよw」

「ご、ごめんなさい。……ところで、何で俺なんかの誘いに乗ったんですか?」

「……ちょっと好みだったから」

「──え?」

「何ていうのかなぁ、何とも不器用そうで人が良さそうな感じ? 良く分かんないけど、ビビビって来たの」

「──///」

「私は下條真紀。あなたの名前は?」

「か、加藤たくみです」

「たくみ……か、いい名前だね。こんな出会い方だけど、よろしくね」

「こ、こちらこそ、真紀さん」

「……頼まれなかったら、私に声かけなかった?」

「い、いえ……そ、そんな事は///」

「顔赤くしちゃって、たくみ、可愛い~」

「//////」

「年上の女は……イヤ?」

「い、いえ……そんな事ないです///」

「じゃ、私と付きあ──」

「はい! そこまで~! たくみ君、帰るわよ!」(グイッ!)

「えっ? ちょ、ちょっと!────」

──家に帰る道中

「たくみ君のバカ! 何ナンパ成功させてるのよ!」

「い、いや……お、俺が一番驚いてるよ……第一印象の悪さはあすかのお墨付きだったじゃん……なのに、ねぇ……そもそも何でお前がここにいるの? 今日、フィアンセとデートで遅くなるって言ってたじゃん……」

「エロ大魔王の斎藤さんと飲みにいくって聞いて黙ってられる筈ないじゃない! 速攻で切り上げてたくみ君をずっと見てたわよ! そしたら案の定……ホント信じられない! しかもその後、何故かいい雰囲気になってたし! あんな年増女のどこがいいのよ!」

「き、気のせいだって……テキトーに話合わせて抜け出すつもりだったから……」

「私がいなかったらどうしてたのよ!」

「……いるって信じてたから……あすかなら絶対俺の傍にいてくれるに違いないって。助けてくれるって……だから、もしもなんて考えてなかったよ」

「たくみ君……ありがと、こんな私をそんなに信用してくれて。……嬉しい♡」

「(ボソッ)……ホントに邪魔されるとは思わなかったよ、この暇人ストーカー女めが……!」

「……何か私の悪口言った?」

「な、何も言ってないよ?」

「そもそもね~、たくみ君が────!」

「そういうあすかだって────!」

……まさかのビギナーズラック発動でナンパ成功。もしかしたらこの後本当に付き合う事になってその後もあったかもしれない。……が、結果はコレである。

 軽い口喧嘩の後、悪びれる様子もなく俺の右腕に無邪気にしがみついてくる九重に軽い怒りを覚えながらも、嫉妬を喜び、結末に満足している加藤がいた。

──こんな毎日が永遠と続けばいいのに……時間が止まればいいのに……

 そんな思いは叶う筈もなく、時は凄い速さで11月を走り抜けようとしていた。

設楽のり子の暴露日記、誕生秘話

「──あすか、これ、何?」

「ん? ひょんな事から生保業界に足を踏み入れた子のノンフィクションストーリーだけど?」

「まさかと思うけど、この主人公ってお前? 何かキャラ違うじゃん……普通に仕事してるし」

「私だってまともにやってた時もあったわよ! 元々お淑やかなお嬢様タイプで通ってたから!」

「wwwwww」

「笑わないでよ、バカ!」

「あれ? あすか、地区飛び込みまでやってたんだ。へぇ、凄いじゃん」

「誰のせいでそうなったと思ってるのよ! たくみ君が飛び込みでアホみたいな実績残したから営業所全体が一時期飛び込み主体で頑張ろうみたいになったんじゃん!」

「ん? そんな事あったの? へぇ、知らなかったな~。って、俺、お前に同行した事あったっけ?」

「想像よ! 訪問販売のプロっていったらそんなイメージじゃない」

「……覗きドアからの視線の瞬間に挨拶って……そんな事やった事ないよ……何、この化け物。……それにしても、男の人が出てきたらどうしようって……誰よ、このか弱い女性はw」

「私の事、何だと思ってるのよ! 男の人、怖いに決まってるじゃない! 変質者だって何人も会ってるし」

「www それにしても、あすか、小橋さんのところにいたの? あれ? 畑口って……この時って伊織さん、もういたっけ?」

「う、うるさいわね! ちょっとくらいフィクション入れてもいいでしょ! 小橋さんのところにいたのは事実だし、同じ時期に入っていたらこういう風になってたかもしれないでしょ!」

「www 伊織さんと一緒に働きたかったんだ。お前、ホント伊織さん大好きだね。その気でもある?」

「へ、変な事言わないでよ! この変態!」

「www それにしても、小橋さん……酷い書かれようだね。あることないこと色々と……可哀そうに……」

「あ、これは事実だから。彼女の悪質なツケの話は有名だからね。ちなみに、私も伊織さんもツケが原因で最後は辞めるという結末ね」

「そ、そう……で、これ、どうするのよ?」

「ん? たくみ君のメルマガで集中連載するつもりで書いてるに決まってるじゃない」

「──え?」

「コンテンツはたくさんあった方がいいでしょ? 多分だけど、たくみ君のメルマガの読者の多くは生保レディの実態を知りたい筈だし。需要にあってるじゃん」

「確かにそうかもだけど、な、何で……?」

「前に言ったでしょ? 私はたくみ君の一番の応援者だって。これくらいは当然するに決まってるでしょ? 今更何言ってるの?」

「あ、ありがと……」

「どう致しまして。……じゃ、今日も一緒に寝よっか。……さ、おいで」

「……────」

「♪────」

────…………

挿話?

この話を掲載しようかどうか迷いましたが、取りあえずせっかく書いたので……

時期に微妙なズレはありますが、概ねリアルです。

斎藤さんは……こんな人でした。最初の出会いは喫茶福井でマンツーマンで英会話レッスン受けていて、何とも意識高い人だな~、俺も見習わなくちゃ、と本気で思っていたものです。……理由を聞いた時、俺の尊敬の念を返せ! と思ったのは言うまでもなく……

ま、極度の女好きという点を除いてはホントいい人でしたけどね。ホント、一体どれだけ色々なところに連れて行って貰っただろう……

ナンパに関しては……これが最初で最後でしたかね。えぇ、ホント酷い声かけで・・・未だによく覚えています。で、ビギナーズラックでまさかの成功……どうなるのかと思いきや……まるでギャグマンガの定番のオチの様な結末に。。。

で、その九重に関してですが……繰り返し、後にぐわ~っと書きます。

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