たくみの営業暴露日記

第2話 新人指導(2)

たくみの営業暴露日記
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第2話 新人指導(2)

新人指導、そして……

「加藤君、この子の面倒みてあげてね♪」

 5月のGW明け、1人の男性を数ヶ月先輩──同期に近い職員に紹介された。 同期といっても40半ばの女性、この人が新入社員を連れて来たのである。

 生命保険会社は非常に不思議な求人をしており、就職マガジン等で求人をかける事は滅多になく、営業職員の紹介(誘い込み)での求人を主としている。理由は信用出来る人のみ雇いたいからとはなっているが、現実は──

「亀田です、よろしくお願いします」

 亀田という人物──明らかに自分より年上である事が分かる。実際、5歳年上であった。

(ふう……また、か……)
 
 4月から僅か1ヶ月程度の間に、実に3人目の男性職員である。山田と入れ替わるように入って来た人も、GW明けには既にいなくなっていた。仕事がキツいから、と。亀田も同様にすぐに辞めていく事になるのかな……等とふと想像した。
「取りあえず、飛び込みからしましょうか」

「え? 飛び込みなんてするなんて聞いていないです……」

「……飛び込みしないで、どうやって保険取るつもりだったのです?」

「いえ、研修では会社訪問して……いわゆるルート営業みたいなものと解釈していましたが……」

「……男性が会社訪問、昼間に女性職員と同じように飴配るつもりだったのです?」

「い、いえ……それは……ただ、飛び込み以外を考えていたので……」

「じゃぁ、どうやって営業するつもりです? テレアポでもするんです?」

「い、いえ……既契約者回り等して契約を取っていくとか……」

「……既契約の人達に転換ばかり持っていく、という訳?」

「……」

「既契約の人なんて数が限られている訳ですし、食べていく為には新規で契約取らなくてはいけない……というのは理解してますよね?」

「は、はぁ……」

「じゃぁ、飛び込みしていく以外ないじゃないですか」

「いえ、最初は色々勉強して知識得てからじゃないと不安で……」

「……だったら、その勉強期間中は保険は取らない訳? そこまで会社、待ってくれないよ」

「……」

「いきなり保険が取れる訳でもないから、勉強と飛び込み平行してやっていけばいいんじゃないです?」

「……そんな、大変じゃないですか……」

「……何言ってるんです? 楽して契約バンバン取れるとでも思っていたんですか? そんな甘い世界、どこにあります? 知ってたら教えて下さいよ、俺もそんな世界に行きたいですから」

「…………」

「とにかく! アンケート10枚取って来て下さい、それが当面の亀田さんの仕事です!」

「……いつまでに……」

「んなもん、1日でに決まってます! 取りあえず19:00までやってみて、それで帰って来て下さい!!」

(……俺はキツい事をいっているだろうか? ただ俺がやってきた事をそのまま伝えているだけなのに。何故に足を動かす事を躊躇うのだろうか、皆自分だけは特別な存在、センスの塊とでも思っているのだろうか、誰も大差ないのが現実なのに……)

 加藤はここ3人の男性新人を見ていて、何度この事を頭で思った事か。

 そして、この事はかなり長い間、加藤の頭の中で語られる事になる。

 19時……亀田が帰ってこない。30分経過、それでも帰ってこない。少々遅い事もあり、営業部長に報告する事にした。

「営業部長、亀田がまだ帰っていないのですが……」

「あ、亀田? あいつ辞めたよ」

「──え?」

「お前が出ていった後、すぐ俺の所に来て辞めさせてくれとか言ってたぞ、何か自分には無理だとかいってたが、お前何か言ったか?」

「いえ、ただアンケート取って来い、楽して契約取れると思うな、という事くらいしか言ってないですが……何考えてうち来たんですかねぇ?」

「……まぁ、求人に問題もあるかもな。皆平気で給料月50万ラクに取れるよ、みたいな事いって誘ってるからなぁ」

「……それじゃ詐欺じゃないですか……」

「ん? 別に契約沢山あげれば50万どころか100万いくだろ、お前みたいにな」

「……自分、楽なんてしてないですよ……」

「じゃ、お前、仕事苦しんでやってるか?」

「いえ……別に苦しくもないですが……」

「じゃぁいいじゃないか、お前みたいなヤツもいるんだから、嘘でもない訳だろ?」

「……ただ、それじゃ辞める人が多く、育たないんじゃないですか?」

「育つ人は勝手に育つ、ダメなヤツはダメ、それはやってみないと分からないんだよ。だから出来るだけ、どんな人でも採用してるんだよ。お前なんか、絶対続くとは思わなかったしな、ははは」

 1年続く人は5割、2年続く人は2割、3年続く人となると──データすら公開されていない。それが生命保険業界である。(各社多少の差はあるが、離職者は非常に多い)

 男性だろうと女性だろうと、この統計はほぼ変わる事なく、1年後には営業所の職員の顔ぶれが随分変わるものである。

 飛び込み自体、一見非常にセンスのいる仕事に思う人もいる。確かに飛び込みしての即契約への話となると、ドアノックからクロージングまでを叩き込む訳だからそれなりのテクニックを要するものではある。

 が、飛び込みでアンケートを取るだけなら話は別であり、正直普通の学生でもやれといわれたら出来るであろう。そこから何度も足を運んで、なじみが出来た所で相手から保険の話をさせていく──正直、テクニックも何も不要……ただただ足を動かすという、単純作業の繰り返しで大差なく誰にも出来るもの……

 これが1年のうちで足のみで生き延びて来た加藤の考えである。

……実際には飛び込みのマニュアルは少なくとも男性用としては存在しなかったものを、いわば加藤が実績にて作り上げたものを継承するが為の加藤のトレーナー抜てきであった。

 が……入り口のドアすらあける事なく、躓いているのが現実である。

(俺は……トレーナーに向いていないのかもしれない……)
 トレーナーになり1ヶ月、早くも加藤はそう思いはじめていた。まさか1年という短い期間でトレーナーを自ら辞退する事までは想像だに出来ない事ではあったが。

 5月が終わるまでに、亀田の後に2人入社、そして6月にその顔ぶれをみる事はなかった。

 
「おう、加藤、お前成績悪いなぁ。サボっとるのか? ん??」

少々得意顔で話し掛けて来たのは勝田であった。

(そりゃ成績出せる訳ないよ、新人で付きっきりなのに……)

思わず口に出していってしまう所、すんでの所で心の中にしまいこむ事が出来た。

「これじゃ、新人達に示しがつかんぞ! お前なんて、成績取ってナンボのもんだからな、ははは。あ、今月俺が勝ったから、5万な」

「──え??」

……そういえば毎月どちらが成績が上になるか競争だ、という事で勝田と賭けをしていたのだった。毎月、新人のお守をしなくてはならない加藤にとっては非常に、非常に大きなハンデになる。ただでさえ、勝田に成績で勝つのは難しいのに……

……実に4月からの1年12ヶ月のうち、10回勝田にまるで毎月の小遣いのように貢ぐ事になるのは……結果を見るまでもない。

(そういえば、俺がトレーナーという事は皆は知らない訳だから、成績も取らなくてはいけないんだよな……)

トレーナーと営業という仕事を共にやらなくてはならない事を知った加藤であった。

挿話

男性指導…
とうとう自分が現役の時、実らなかった事です。

えぇ、指導以前に「厳しいから」と…逃げていってしまう。。 今思えば自分が厳しかったのかも…とも思うのですが、、自分の中では「最低限動いてナンボ」というものがあると思ってます。

えぇ、そりゃすんごいセンスを持っている人なら殆ど動かなくても契約取れるのかもしれませんが、そういう人はごくわずかであり、大抵は皆凡人な訳であり。。
(当然、自分は凡人。だからこそ数をこなすしか手段はなかった)
(応用はあくまでも慣れてからになる筈)

なんていうんでしょうか、「ラクして儲かるはずないだろが!」と。
(現実社会がそうであるかと)
儲けを出すには、、

・動いて動きまくる
・頭使う

どっちかしかないんじゃないか、と。

案外…苦労をしたがらない人、多いのかもしれません。
(自分は特別だと思っている人とか…)

人によっては自分を奇人と呼びます。
営業センスがすんごいあった、とも。
が…少なくとも自分は、単なるいち凡人です。

これは…そう多くはないですが、直接自分に会われた人はよ~~く知っているでしょう(笑)

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コメント

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