たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記 最終章 第3話:危ない女

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たくみの営業暴露日記 最終章 第3話:危ない女

挑発

翌日──加藤の心は晴れやか……になる事はなく、むしろ不安で一杯だった。先日、九重の優しい言葉に心震わせた加藤であったが、それが実は夢だったのかもしれないという不安、それにもし現実だったとして、それが原因で九重が加藤と同じ様に孤立化してしまうのではないか、という不安。

(どちらでもダメじゃん……いや、前者の方がまだマシか。……元に戻るだけだし。……俺なんかと一緒にいたら──)

という様に考えていた矢先──背中をバンと叩かれ、声を掛けてきた人物が。……九重である。

「おはよ、たくみ君。昨日は楽しかったね♪」

一瞬、営業所内がシーンとする。営業所の人全体が、加藤の方へと視線を向けている様で何ともバツが悪い。そんな空気を無視するかの様に、事もあろうに加藤の隣に座って身体を寄せ、あっけらかんと楽し気に喋り出す九重……加藤は気が気でなかった。

(……この営業所内の空気、まさか分からない……のか? ぅわ~、あそこの人達、こっち見てヒソヒソ話してるじゃん……ダメだって、営業所内で俺なんかと仲良さげに話しては。ホントに九重さんまで孤立するハメになるって……!)

加藤の心配をよそに、ますます加速する九重。時折、周りに何とも勝ち誇った様な視線を浴びせながら話し続ける彼女……明らかにまわりを挑発している様であった。

「──じゃ、今日もデートいこっか」(グイッ!)

「ちょ、ちょっと──」

まるで見せつけるかのように話し続けて30分後、九重はとんでもない捨て台詞と共に加藤と腕組みしながら営業所を後にした。

──そんなんだから、あなた達は男が寄って来ないんだよ、バーカ!

加藤は……生きた心地が全くしなかった。

宣戦布告……?

──昼間からやってるバー

「あ~、スッキリした~! これで明日から私もたくみ君と同じだね♪」

「い、いや……あそこまでしなくていいじゃん。意味分かんないよ……」

「昨日言ったじゃん。みんなとたくみ君なら、断然たくみ君を選ぶって。それを有言実行したまでじゃん」

「い、いや……もっと、こう……スマートにやれば──」

「喧嘩売った方が手っ取り早いじゃん。どうせ敵になるんだし。宣戦布告だよ」

「──?!」

「やるからには勝たないとね。精神的に追い詰めて潰してやるんだから!」

「な、何か方向性が明後日の方に向いている様な……」

「目には目を歯には歯を、だよ、たくみ君。やられたらやり返さなきゃ!」

「い、一応参考までに、やり返すって……どうやって?」

「簡単だよ。私達の仲の良さを見せつければいいだけだから。みんな嫉妬の嵐になるから」

「ま、全く意味分かんないんだけど……な、何で嫉妬するの?」

「ん? 知らないの? たくみ君を密かに狙ってる人、そこそこいるって事」

「──は? いる筈ないじゃん。俺、そこまでカッコよくないし、口下手だし遊び慣れてな──」

「将来有望の異様にデキる営業マンで女遊びしてなさそうで真面目そうでミステリアスって、モテる要素満載じゃん。私が知ってるだけでもたくみ君を狙ってる人、6人はいるよ」

「──?!」

「独身者の殆どがたくみ君を狙ってるくらいだよ、多分。たくみ君程、好条件な男なんてレアだからね」

「し、知らなかった……で、でも入社時、社内恋愛禁止──」

「勝野さん、今まで社内で5人と付き合ったみたいだよ。一緒に飲んだ時、そう言ってたから。そう言えば、ホテルに誘われた事も何度かあったかな、私も。当然断ったけどね」

「──?!」

「勝野さんの上司の、何っていう人だったかな……大森さん……って言ってたかな? その人、何人も同時に付き合って刺された事あるとか聞いたし」

「──?!」

「バレなきゃいいんだよ! 仮にバレても大森さんの様に数字で黙らせる自信が俺はあるからって決め顔しながら言ってたよ」

「い、意味分からん……」

「たくみ君は脅威だって言ってたよ? 夜の帝王の座を奪われるとしたらアイツしかいないって。会社辞めてホストとして大成できるのは、俺とアイツくらいなもんだ、とか」

「お、俺がホストって……な、何を──」

「ホストの手法を応用して保険を取る手法は悪魔的発想でアイツにしかできないって」

「い、意味分からん……」

「天然で無意識にあれだけやれるんだから、もし自分の才能に気付いて意図的にできるようになったら、歴史に名を残す伝説のホストになるって……何か悔しそうに話してたよ」

「お、俺……そんな訳分からん評価になってたんだ……し、知らなかった……」

「そんなモテモテのたくみ君と私が社内でイチャイチャしてたら……面白い事になると思わない?」

「……中々面白そうだけど、ごめん。俺──」

「あ、誤解しないで? 私、フィアンセいるし、そういう気は全然ないから。1年前に出会ってたら話は違ってたかもだけどね」

「──?!」

「あくまでもフリだから。男女の関係は望んでないから安心して。私はあくまでもたくみ君の親衛隊第一号って感じだから」

「親衛……隊?」

「今後、たくみ君がどんな人生歩んでいくのか、凄い興味あるんだよね。滅茶苦茶大成するか、凄い落ちぶれて野垂れ死ぬか、どっちかしかないから。人生を共にするにはリスキー過ぎるけど、傍で応援する分には凄い魅力的だな~ってね」

「な、何か喜んでいいのか悲しんでいいのか分かんないよ。俺、普通の生活に憧れ──」

「無理に決まってるじゃんw たくみ君程、波乱万丈って言葉が似合う人、そうそういないから。自分の特性はちゃんと理解しないと!」

「う、うぅぅ……俺、普通を望んじゃいけないんだ……波乱万丈の人生、これから歩むんだ……最悪、やっぱり野垂れ死ぬんだ……」

「何言ってるの? そんな人生歩もうと望んでも歩める人なんて中々いないんだから、誇るべき事だよ。私だって男だったらたくみ君みたいな波乱万丈の人生、歩んでみたいし。……結婚相手としてはリスキー過ぎるから私はスルーだけどね」

「うぅぅ……やっぱりボロクソ言われている気がするよ……何かどさくさに紛れて振られてるし、俺……」

「別にたくみ君、私とそういう関係望んでないから問題ないでしょ? さっきだって私を振ろうとしてたし。お互い様じゃない」

「……ま、そうだけどさ……何かショックだよ……俺も振りたかったよ、どうせなら」

「大丈夫! これからたくみ君はたくさんの女性を泣かす事になるから! 飽きる程振る事できるから! 私もしっかりサポートするから、期待してて!」

「…………」

九重あすかは──想像以上に危ない女で……バカだった。

昨日の涙を返して欲しい……本気で思った加藤であった。

が──彼女のおかげで、加藤の長きに渡る孤独の旅は終わりを告げようとしていた。

挿話?

この話は掲載しようか迷いましたが……取りあえず掲載。

まず九重について。

……今回が全てです。何か危ない言動が目立つ、危ないヤツでした。寿退社していくまで、みんなを挑発しまくってましたね、リアルに。まぁ……どこまで合っているのかどうか分からんですが、年頃の女性のしたたかさというか怖さというか……色々教えて貰いました。

何か、自分と共にいなくても勝手に孤立してただろ、お前! とか、お前、俺を使って遊んでただけだろ! 等と色々ツッコミ入れたい感もありますが……ま、結果的に孤独から解放される事になったのは事実なので……感謝なんでしょうね。

「たくみ君はモテるんだよ、知らなかった?」

その時は「何を言ってるんだ、コイツは。頭、狂ってるんじゃないのか?」と思ってましたが……結論から言うと、事実でした。ここらは物語で省くでしょうが、一体何人にアプローチされた事か……ま、独身の25歳で真面目そうで銭の匂いがプンプンしていたら、そりゃそうだろ……と今なら理解できますけどね。

よく「喰っちゃえばいいじゃん、より取り見取り、遊び放題じゃん」なんて言われたりもしましたが、結果的にそんな事は一切しませんでしたね。……興味なかったですし。

あ、もし男の人で女性にモテたい! 職は何でもいい! という事なら、国内生保に入る事、オススメします。間違いなく、モテますから。……当然、人並み以上の成績を納めるのは必須ですけどね。

って、何書いているんだか……

次回は……ちょ~っと悲しい成果の話。

久しぶりにまともな内容……かな?

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