第12話:ウェイトレス
──9月中旬頃、喫茶福井にて
「ん~……何かいい手ないかな~……」
「ん? どうしたの? 何か悩み事?」
「あ、いや……今、ここの奥、事務所として貸して貰ってるじゃないですか。で、お客さんの商談とかでちょくちょくここに人を連れて来てはいるんですが、もうちょっと貢献できないかな~と思いまして」
「あ、別にいいわよ~。これでも随分助かってるから」
「いや……普通に考えて、この場所で普通に賃貸で借りたら月20万じゃ済まないですよね。……せめて、月10万分くらい利益の上乗せしないと、と思いまして」
「別にいいわよ~。うちは半分道楽でやってるんだから」
「……! 閃いた! 1人ウェイトレス入れていいです?」
「い、いや……うち、バイト雇う程の余裕はないわよ……」
「大丈夫! 時給の倍以上は利益上がりますから。もしマイナスになる様だったら自分が負担しますので。ちょっと騙されたと思って、雇って下さい。自分、アテありますので」
「……そこまで言うんだったら、話に乗るわよ。ただ、マイナスになったらちょっとは負担してよね」
「任せて下さい!」
──腐れ縁のなじみ客の田中
「──あ、加藤君。どうしたの?」
「こないださぁ、週に2-3日くらいのバイト探してるって言ってたじゃん。丁度、そのアテが見つかったから、どうかな~って思って。時給2000円でどう?」
「え~、私に何やらせる気? 夜の仕事やコンパニオンはイヤだからね!」
「違うって。普通の喫茶店のウェイトレス。日中の仕事で時間に都合付く時だけでいいからどうかな~って」
「……時給高すぎない? あ、メイド喫茶かノーパン──」
「違うって! とにかく、一度来てよ。嫌だったら断っていいから」
──喫茶福井での面談後
「え、えっと……予想と違ってホントに普通のこじゃれた喫茶店で逆にビックリなんだけど……私、何すればいいの?」
「ん? 普通にウェイトレスの仕事だけしてればいいよ。……美幸さんのせいで、ちょ~っと忙しくなるかも、だけど」
「私のせいで忙しく? 意味分かんないんだけど……」
「いや~、こ~んな美人なウェイトレスがいるってなったらすぐに噂になって客でごった返すんじゃないかな~ってね」
「www 絶対来ないって~。私、そこまで美人じゃな──」
「俺が知ってるだけでも1年で4回程、雑誌に載ってたじゃん」
「いや~、雑誌なんて誰でも──」
「載らないって! ま、仮に目論見通りにいかなくても、最悪俺の話相手になってくれれば十分お釣り来るから。騙されたと思ってちょっと働いてみてよ」
「www まるで加藤君が私目当てみたいじゃん。……結婚する?」
「付き合ってもないじゃん!」
「wwwwww」
田中美幸──実はこの物語で過去2度登場している人物である。入社間もなくしての新人獲得の際、去年の役所まわりのボランティア活動。
保険の見込みという点では限りなく薄い人物ながら、加藤はなおもなじみ活動を継続していた。気が付けば出会ってから2年以上、いつしか「親しい友人」というくらいの仲になっていた。
──単に昼間のバイトを探していた田中と喫茶福井を結び付けただけ
この些細な出来事が、加藤の人生を大きく変える事になる。
挿話
自分の営業の仕方はかなり異質でした。通常、見込み客と見なすのは当たり前の話ですが「保険の契約の見込みがあるかどうか?」となりますが、自分の場合は「契約の見込みは度外視、自分が通って苦痛に思わない人」としていました。
その代表的なのが、この田中でした。何せ、生活保護受給者でしたし、当時。
そんな見込み激薄のところに何で2年以上通い続けたか? まぁ、ここ数話をお読みの方は予想できるでしょう。
「単純に田中が異様に美人だったから」
えぇ、そんなゲスな理由からですね笑
ただ、日高ちゃんはともかく、この田中に対しては「いや、今お前が死んだらヤバいだろ。保険は必須だって!」という思いも強く、半ば意地になって「こいつを絶対保険に入れてやる!」と常々考えてました。
で、思いついたのがコレ。
「通帳に残らない手銭のプラスオンがあれば、保険入れるやん!」と。
で、喫茶店で働かせればなじみ活動も手軽にできて一石二鳥じゃん! と。(当時の田中の家は車で1時間くらいの距離だったので、そこまで毎週いくのは案外大変だったという背景もある)
ふははは、滅茶苦茶ですね笑
次回以後の内容は・・・全く想定していなかった事であり、意図してやってた訳ではないです。内容だけみれば「異才中の異才、化け物」となるかもですが。(これをよく誤解され、色々言われたり恐れられたりしましたがね)
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