#11 身から出た錆
──いつものお茶の間
「お兄ちゃん、ちょっとお小遣い頂戴♡」
「え~、また~? 今度は何?」
「今日は彼氏と日帰り旅行デートだから。お土産買ってくるから。ね~、いいでしょ?」
「も~、しょうがないな~。……はい、これで足りる?」
「キャッ、ありがとー、お兄ちゃん♡」
「気を付けてね。あまり危ない場所とか行っちゃダメだからね」
「もぅ! 子供扱いしないでよ! 私、もうすぐ23歳になる大人なんだから!」
「はいはい……じゃ、お土産よろしくね。……あまり期待してないけど……」
「www じゃ、行ってきま~す」
「…………」(幸子ちゃん、傍観の図)
──後日、いつものお茶の間(美子と幸子)
「えっと……最近どうしたの?」
「ん? 何が?」
「あ、いや……お兄ちゃんとの関係。お姉ちゃん退院してから、何かおかしいんだけど……」
「ん? 別に普通だよ? 何がおかしいの?」
「あ、い、いや……今の方が普通で前が異常だったと言ったらその通りだけど……あんなラブラブだったじゃん……バカップルみたいというか何というか……」
「あぁ……あれはもうやめて、普通の兄妹になろうかなって。それがお兄ちゃんの望みみたいだから」
「……どういう事?」
「私達は普通の幸せを手にいれて欲しいんだって。普通に遊んで、普通に彼氏とデートして、普通に就職して……普通に結婚して子供作ってっていう……ね。若いうちにしかできない事、一杯して欲しいって。……私達が幸せになるのを見ていたいんだって」
「……何かお兄さん、親みたいな事言うね。……親いないから分かんないけど」
「それがお兄ちゃんの望みだったら、叶えてあげないと……ね。……ちゃんと演じなきゃ」
「……演じるもなにも、それが当たり前の様な……」
「そうかもしれないけど……大変だよ? 普通を演じるって。……だって、普通の兄妹ってご飯食べさせあったりキスしたり一緒に寝たりとかしちゃいけないんでしょ?」
「……多分ね。けど、お兄さん、シスコンになってるじゃん。大丈夫なの?」
「ん? 何が?」
「だって……お兄さん、1人じゃ寝れなくなってるでしょ? ……これから私がずっと一緒に寝続けるの?」
「──は? 何それ?」
「え? 前に言われた通り、お姉ちゃんが入院してからずっと一緒に寝てたけど……」
「ちょ! ダメじゃん! お兄ちゃん、ホントにシスコンになっちゃうじゃん! 何考えてるのよ、幸子!」
「……お姉ちゃんが言い出したんじゃん……今が攻め時だから叩き込めって。計画変わったんなら教えてよ……」
「まさか……それ以上の事はしてないでしょうね!」
「……まだプランBに移行しただけだよ……」
「──?! な、何……それ?」
「え? お姉ちゃんが入院する前に言ってたじゃん。プランAからEまで作って工程表まで作ってたじゃん」
「あ……そ、そういえば朧気にそんな記憶が……ね、念のためにプランBって……何だったっけ?」
「……高校の時の体操着をパジャマ替わりにして一緒に寝る、ジャージ着用禁止って……」
「え? さ、幸子……ホントにそれ、やったの?」
「やったわよ! じゃないと、お姉ちゃん凄い怒ると思ったから! そもそも、何で体操着なのよ! お兄さん、目が点になって思いっきり固まってたんだから!」
「あ……い、いや……お兄ちゃんのフェチ心をくすぐろうかな~って……男の人、そういうの好きそうだし」
「何を参考にしたらそんな発想になるのよ! 次のプランのスクール水着とか……全く意味が分かんないよ!」
「さ、参考までに……どういう口実で体操着で寝たの?」
「田中家のしきたりだからって強引に通したわよ! お兄さん、それで信じ切っちゃったから、お姉ちゃんも今日から体操着で寝なさいよ!」
「え~、22歳にもなって高校の時の体操着? イヤだよ~……それじゃただのアホの子みたいじゃん」
「そのアホの子の恰好をさせたの、お姉ちゃんでしょ! 今更お兄さんに嘘でしたなんて言えないから、お姉ちゃんも責任持って体操着で寝なさいよ!」
「わ、分かったよ……そう怒らないでよ、幸子。……ま、風呂から出て布団に入るまでの間の辛抱だからいいか……」
「何言ってるの? その恰好でお兄さんと一緒に寝ないと」
「……は?」
「お兄さん、もう1人で寝れない体質になっちゃってるから、責任持って一緒に寝てあげないとダメじゃん。私は今日から合宿あるから」
「うぅぅ……身から出た錆ってこういう時に使うことわざなんだね……」
「とにかく! お兄さんをシスコンにした責任は取る事! 分かった?」
「……シスコンはともかく、変な性癖植え付けたの、幸子じゃん(ボソッ)」
「何か言った?」
「い、いえ……何でもないです。全て私の責任です。……分かりました、やりますよ! 高校の時のサイズの小さな体操着姿でお兄ちゃんと一緒に寝ますよ! お兄ちゃんにアホな子って思われますよ! うぅぅ……一度道を踏み外したら元に戻れないのね……これが私の宿命なのね……」
「大丈夫! 3日もすれば慣れるから! 意外に寝心地良いよ、体操着。お兄さんも嫌いじゃなさそうだし」
「……それってどういう事?」
「体操着姿で一緒に寝れば分かるから。……いつもより元気だからw」
「──?! そ、それって、ま、まさか──」
「www じゃ、行ってくるね~。夜、お楽しみにね♪」
(幸子……恐るべし……流石、私の妹……)
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