#6 留年
──九重あすかの死から約3ヶ月後(3月某日)
「美子ちゃん、ちょっと聞いていい?」
「ん? 何?」
「え~っと、美子ちゃんって確か今年で大学卒業だったよね。卒業旅行とかいかないの?」
「あ……わ、私……友達少ないから^^」
「あれ? そうだったっけ? ま、いいけど。ふと、どこに就職するの?」
「あ……い、いや……じ、実は……留年してたりして……ご、ごめんなさい!」
「あ、別に謝らなくてもいいよ~。1年くらい留年したところで別にどうって事ないし。何か単位の取り忘れでもあった?」
「あ……う、うん……」
「おっちょこちょいだな~、美子ちゃん。ま、美子ちゃんらしいっていえばその通りかもだけど」
「ほ、本当にごめんなさい……社会人になったら必ず返すから……」
「あ、その事、気にしてる? そんなの全然いいから。大学生活、存分に楽しんでよ」
「……ありがと」
──~お茶の間で幸子ちゃんと~
「そういえば、美子ちゃん、留年するんだってね。単位の取り忘れとか言ってたけど……美子ちゃん、相変わらずおっちょこちょいだよねw」
「……お姉ちゃんがそう言ったんですか?」
「ん? そう聞いたけど。ちょっと遊び過ぎちゃったから~って。ま、大学は楽しいから気持ちは分かるけどね。……美子ちゃん、ちゃんと卒業できるのかな~、社会人やれるのかな~、ちょっと心配だよ……」
「お兄さん……お姉ちゃんの事、何も分かってない……」
「……え?」
「お姉ちゃんが……どれだけ努力してきたか……知らないんですか?」
「ど、どういう事?」
「お姉ちゃん……ず~っと大学で成績優秀で……授業料免除を維持してきたんです」
「……は?」
「お兄さんになるべく迷惑かけないようにって……4年間ず~っと……〇×商事に就職も決まってたし……」
「……は? 〇×商事って、あの? す、凄いじゃん……な、なのに何で……」
「お兄さんの為に決まってるじゃないですか……あの時のお兄さん、放っておけないからって。……何よりも大事だからって……」
「…………!」
「お姉ちゃんは……そういう人ですから……分かってあげで下さい」
「……分かった……」
──~お茶の間で美子ちゃんと~
「美子ちゃん、俺のせいでごめん!」
「ちょ! お兄ちゃん、土下座はやめて! ど、どうしたの?」
「留年、俺のせいだって……せっかく〇×商事に決まってたのに……美子ちゃんの人生に汚点つけちゃって……」
「あ~、別にいいよ~。就職だって〇×商事にそこまでこだわりあった訳じゃないし、成績だって授賞式とかメダルとか興味なかったし」
「で、でも──」
「ホント、お兄ちゃん気にしないでいいから。私がそうしたかったからしただけだから。寄り道、道草、遠回り。のんびり行かなきゃ、長い人生……てね♪ それに、こういう時に言うのはごめんじゃないよ。ありがとって言わなきゃ」
「あ……そうか。……美子ちゃん、ホントありがとね」
「どう致しまして♪」
「美子ちゃん……旅行いこっか」
「……え?」
「あ、いや……変な意味じゃなくって、お詫び……いや、お礼という意味で、卒業旅行代わり……いや、卒業する訳じゃないからこの言い方もおかしいか……あ、それ以前に俺となんか旅行いったってつまらない──」
「ホントにいいの? 旅行、連れてってくれるの?」
「え? いいよ、どこでも美子ちゃんの行きたい所──」
「キャー、ありがとー、お兄ちゃん♡」(ギュ~ッ)
「ちょ、ちょっと美子ちゃん……そんなに抱きつかないで……ちょ、ちょっと反応しちゃうから」
「あ……もしかして興奮した? する? いいよ、お兄ちゃんなら。けど私、今──」
「彼氏いるからセフレにしかなれないけど、いい? でしょ? ……前と同じ流れじゃん……」
「wwwwww」
「あ……けど、よく考えたら男女2人で泊まりの旅行ってやっぱ不味いか……美子ちゃんの彼氏に悪いし」
「お兄ちゃん、古いよ~。私、男友達ともよく旅行いってたし、今の時代それが当たり前だよ~」
「そ、そうなんだ、今の時代ってのは……」
「ましてや、兄妹で旅行だから、変な風に思う人なんて誰もいないよ~」
「そ、そう? ……ならいいけど」
「♪ じゃ、早速準備しなくちゃ♡」
「──え? ま、まさか今から行く気?」
「当たり前じゃん。お兄ちゃんの気が変わるかもしれないし~。善は急げだよ。お兄ちゃん、別に予定何もないでしょ?」
「ま、確かに予定ないけど……どこ行く気よ?」
「ん~……日本三大温泉巡り♪」
「……意外に古風な所、好きなんだ……」
「何かいいじゃん。お兄ちゃん、帯回ししたくない? あ~れ~って。私、よいではないかってやってみたいの♪」
「……普通、役柄逆だって!」
「wwwwww」
「wwwwww」
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