#8 手のちから
「ネカフェの自動販売機、壊れててリアルゴールドなかったから隣のコンビニで買ってきたよ、はい」
「ありがとうございます♪ あ、ちょっと開けて貰っていいですか~」
「ん? いいけど……(プシュー) はい、どうぞ」
「ありがとうございま~す♪ (ゴク、ゴク…)っぷは~。やっぱ一日に一度はリアルゴールド飲まなくちゃ、ですね。は~身体に沁みる~」
「そんな好きなんだ……ま、なくなったら言って。また買ってくるから」
「ありがとうございます♪ ただ、勿体ないので蓋閉めて大事に飲みます♬」
「……あんなに散財するのに、訳の分からん所で倹約家だねぇ」
「せっかくジュンさんが買ってきて下さったんですから、ね♡」
「おぉ、さすが小悪魔。男心をナチュラルにくすぐるねぇ」
「いやだな~、そんなんじゃないですって♪」
──5分後
「(コツン、ダラ~~~)あ──……」(手がペットボトルに当たって倒れて中身がこぼれる図)
「あ~あ、全部こぼれちゃったね。蓋の閉め方が甘かったね……また買ってくるよ」
「ごめんなさい……実は私、ペットボトルの蓋、上手く出来ないんです。自分で開けられないですし……」
「──え?」
「握力があまりないんですよね……」
「いやー、ペットボトル開けられない程の握力のない子、初めてみたよ。参考までに、握力どれくらい?」
「え……っと、10kgあるかないか、だったかな? 今はもっとないかも……」
「──え? ちょ、ちょっと……変な意味じゃないけど、俺の手、握ってみて」
「??? はい(キュッ)」
「……いやいやいや、全力で握ってみて。ちょっとこちょばゆいし、これじゃ」
「……これが全力ですよ?」
「──?! ちょっ、冗談でしょ? これじゃまるで──あ! ……ごめん……」
「あ、イヤだなぁ~、そんな深刻な顔しないで下さいよ~。別にペットボトルの蓋を開けられないくらい、生活に支障ないですし。それに、メリットだってあるんですよ?」
「ほぉ……どんな?」
「ほら、オテテの仕事とか。私、握力が弱くなってから開眼したんです。ほら、強く握りすぎるとかえってダメじゃないですか、オテテって。どうやら私の力加減は絶妙みたいで、ハマる人、増えたんです♪」
「……確かに、オテテは力強く握られるより、弱めの方がベターだわね。ほら、フェザータッチが究極のテクって言うじゃん。それが自然に出来るなんて……さすが小悪魔」
「でしょ♪ 何でも捉え方次第によってはいい風になるんですよ♬ 日々、イメージトレーニングです^^」
「いやぁ、ホントそういう所は尊敬するよ、見習わなくちゃ」
「あ! ──ジュンさ~ん、私の手、どうでした~? ちょっと色々想像しませんでした~? いいですよ、家に帰ってから思い出して一人でお楽しみになっても♪」
「……バカ!」
「wwwwww」
「wwwwww」
■進行性の筋力低下・筋萎縮
筋ジストロフィーとは、進行性の筋力低下、筋萎縮(筋肉が痩せること)をさす。一度発症すると、年単位で徐々に悪化していく。筋力低下の軽症ではペットボトルの蓋が開けにくいなどの症状がみられ、進行するとボタンが留められない・箸が持てなくなる等の症状がみられる。より重症化した場合、全身の筋力が衰えることで車椅子が必要な状況や、寝たきりになることがある。また嚥下に必要な筋力が低下し、栄養摂取が困難になったり、誤嚥性肺炎を引き起こしたりすることがある。
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