たくみの営業暴露日記 Epilogue Asuka #2 壊れた人
──翌日
「──ふぅ、電気・水道・ガスがようやく復旧したよ。ただ、真夏にクーラーないのは流石にきっついな~。よくあすか、エアコンなくて平気だったね。ウインドウ式のヤツなら俺でも取り付け出来るから、今から買ってくるよ。……一緒に来る?」
「…………」
「あ、外クソ暑いもんね。じゃ、家で待ってて。ついでに色々買い出ししてくるわ。何か欲しいもの……ま、テキトーに買ってくるわ」
「…………」
──4時間後
「ただいま~、ちょっと遅くなってごめん。色々買って来たから──あすか! 何やってるんだよ!」
「…………」
「あ~あ~、手首切っちゃって……痛いだろ、それ。……って、よく見たら手首、傷だらけじゃん! ……ったくもう……今から薬局行ってくるから! あ、カッターは没収な!」
「…………」
──30分後
「ただいま~。早速傷の手当てを──って、まさかのお漏らし? そ、そっか……トイレ間に合わなかったか。ごめん、そこまで気が回らなくて。あ、丁度いいや。これからお風呂入ろっか。その間に汚れた衣服、洗おっか」
「…………」
「え~、俺に脱がせって? ……しょうがないな~、ちょっと立って。ん? 座ったままのがいいの? ったく、わがままなんだから~。はい、足伸ばして~」
「…………」
「あ~あ~、布団まで沁みちゃったね。取りあえず応急処置でファブリーズして外干ししておこっか。ま、まぁ……多少匂い残っても別に俺は気にならないし」
「…………」
「あ、誤解しないで? 俺、そんな趣味がある訳じゃないから。……ちゃんと明日、コインランドリーで洗うから。で、予備の布団も買ってくるから。今日は我慢してね」
「…………」
「さて……服も脱いだことだし、お風呂入ろっか」
「…………」
「え~、俺がまた抱っこして連れてくの? しょうがないな~。──よいしょっと」
「…………」
──風呂場
「(ゴシゴシゴシゴシ……)」
「…………」
「あすか……どれだけ頭洗ってなかったのさ……かなり髪の毛も痛んでるじゃん」
「…………」
「あ~あ~、頭皮も傷だらけで、ちょっとハゲになってる所もあるじゃん。もしかして自分で髪を引っ張ったん?」
「…………」
「ま、いいや。これから毎日俺が……頭洗ってやるから。あ、明日、髪切りハサミも買ってこようかな。せめて枝毛だけでも切らないと、ね」
「…………」
「何? 変に髪切らないでって? 大丈夫、俺を信用してよ。変な風にしないから。……知ってるでしょ? 俺、意外に手先器用だって。……失敗したらごめんな」
「…………」
──シャー……
「あすか、湯加減どう? 熱くない?」
「…………(ビクッ)」
「あ、ご、ごめん! ちょっと熱かったね。──これならどう?」
「…………」
「大丈夫みたいだね、良かった~。──さてと、今度は身体洗おっか」
「…………」
「(ゴシゴシゴシゴシ……)」
「…………」
「あ~あ~、こんなに……ガリガリになっちゃって……痩せすぎだって……ダイエットもほどほどにしない……と……────ッ」
「…………」
「次……前ね。……ホント……痩せすぎだって。骨が浮き出てる……じゃん。……ひっかき傷や……何故か所々にタバコの根性焼きあるし……今時流行らないって……────ッ」
「…………」
「太腿も……こんなに細くなっちゃって。俺のふくらはぎくらいの……細さじゃん。あ……もしかして昔、あすかの脚、太いって言ってたの……気にしてた? ごめん……ちょっと太いくらいの方が……ホントは好きだから」
「…………」
「肌も……ボロボロじゃん。ダイエットの……し過ぎだって。今、体重40kg……ないでしょ? 俺は……体系なんて気にしないから……今日からもう……ダイエット……しなくていいから……」
「…………」
──シャー……
「さて、と。次は歯、磨こっか」
「…………」
「え~、歯も俺が磨くの? ま、いいけど。あすか、ちょっと口開けて。歯ブラシ、口に入れるよ?」
「…………」
「(ゴシゴシゴシ……)」
「オエッ…………」
「あ、ご、ごめん。ちょっと奥磨きすぎた? 人の歯磨くのって大変だね……って、あすか……右の奥の歯、何本かないじゃん、どうしたん?」
「…………」
「ま、まぁ……抜けちゃったものはしょうがないね。もうちょっと体調良くなったら、歯医者さんいって入歯作って貰おっか。それかインプラント?」
「…………」
「(ゴシゴシゴシ……)これで良しっと。じゃ、口をゆすごっか」
「…………」
「え~、これも俺がするの? ってどうしたらいいかな。……シャワーでゆすぐ? はい、口開けて~」
「ゴホッ! ゴホッ……」
「あ、ご、ごめん……流石に無理あったか。……しょうがないな~、最終手段の口移しで水、口に入れるよ。 ────」
「……(ゴクンッ)」
「そ、そう来たか……ま、まぁ歯磨きは今後どうするか考えよっか。──じゃ、キレイになったところで、湯舟に入ろっか。……はいはい、言われなくても俺が抱っこして入れてあげますよ~、お嬢様」
「…………」
──チャポン……
「──ふぅ、流石に2人だとクソ狭いね。……俺はこれはこれで好きだけど」
「…………」
「よくよく考えたら、あすかとこうやってお風呂入るの初めてだね。こうやって密着して入るお風呂も……悪くないね」
「…………」
「これから毎日一緒にお風呂入ろっか、あすか」
「…………」
「さ~て、これ以上入ってたらのぼせちゃうから……もう出よっか」
「…………」
──風呂から出た後
「ふぅ……流石に暑いね。あ、今からクーラー取り付けるから、取りあえず扇風機で身体冷やしておいて」
「…………」
「あ、水分摂っといた方がいいよ。──はい、麦茶冷やしてあるから。って、これも飲ませろって? ったくもう……────」(口移しで麦茶飲ませ×5回程)
「ゴクンッ……ゴクンッ……」
「ふぅ……じゃ、ちょっと待ってて」
「…………」
──30分後
「ふぅ、ようやく取り付け完了っと。スイッチ、オン! ……ぉお! 涼し~。は~、生き返る~」
「…………」
「あ、久しぶりのお風呂でちょっと疲れちゃったみたいだね。いいよ、このまま昼寝しちゃおっか。平日の真昼間からこうやって寝るのもオツだよね」
「…………」
「大丈夫、俺も一緒に寝るから。──はい、腕枕。俺もちょっと寝ちゃうかもしれないけど、何かあったら起こしてね」
「……zzz」
「……────────ッ」
涙が……止まらなかった。骨が浮き上がる程やせ細った身体、痛みに痛み切った髪の毛、掻きむしった頭皮の無数の跡、所々ある10円ハゲ、28歳とは思えない程ヤツれた肌、身体中にあるあざやひっかき傷、タバコを押し付けた跡、無数の手首を切った跡。そして──壊れ切ってしまった心。
加藤が知っているあすかの面影は……何一つ残っていなかった。
補足?
はい、引き続き「何だこれ・・・」の内容ですね。
詳しくはいずれ書くとして・・・色々学びましたよ。
- 歯磨きは綿棒が有効(赤ちゃん用歯ブラシ等色々試行錯誤したが、これが一番有効だった)
- 哺乳瓶は中々万能
- 割れるモノはNG。プラスチック製ないしは紙製
- フードプロセッサーは偉大
- 紙おむつは偉大
- コインランドリーで布団洗う時はコツが必要。綿がズレて再起不能になるものも。
etc…
小さな子供の世話や介護ってこんな感じなのかな~、大変だな~っと。
今思えば、専門家に頼れよ! とツッコミ入れたいくらいですが、、当事者は分からんものですからねぇ・・・きっとどうにかなる、良くなる筈、俺がどうにかしてやる、俺しかいないから、みたいな感じで・・・
もし自宅介護等で疲れている人、地域包括センターにいきましょう。何らかの手、教えてくれますから。1人で何でもやろうとすると、自分まで壊れちゃいますぜ。
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