第18話:伊織さんと・・・?
小橋と決別した後、畑口との関係はどうなったか? というと……何事もなかったかの様に今まで通りであった。
……というか、小橋含め、畑口を制御できる人物は少なくとも営業所には誰もいなかった。
「畑口だけは、会社に入れてはいけなかった──」
誰でも基本的にウエルカムのこの業界において、ここまで言われる人物はきっと後にも先にも畑口くらいであろう。
では加藤は? というと……同じく扱いに困っている人物の一人であった。弱冠26歳ながら、小橋や川崎と同レベルに近い実績をあげている加藤は……誰にとっても手に余る厄介極まりない存在であった。
「取りあえず、厄介者同士くっつけておけ。何故か2人、妙に馬が合うみたいだし」
きっと、これが営業所内の共通認識であったであろう。そして、あばよくは2人の仲がより深まって畑口が寿退社でもしてくれれば、という思いもあったであろう。いつしか、2人はいつ結婚するのか? と営業所内の皆の間の話題の一つとなっていた程である。
が、現実は──ここまで読まれている読者の方はご存知の通り、2人は男女の仲にもなっていなければ、付き合ってすらいなかった。
──妙に馬は合うものの、いまいちよく分からない師弟関係
長らく続いてきて、その後も続くと思われたこの不思議な関係は──12月中旬のとある日に大きく変化しようとしていた。
急接近・・・?
──いつものカラオケ屋
「たくみちゃん、設楽のり子って九重ちゃんでしょ?」
「よ、よく分かりましたね。ある程度俺が校正かけて九重の癖を抜いたつもりだったのに」
「……やっぱりそうだったんだ。へぇ、九重ちゃんもいばらの道を選んだんだ」
「あ、またカマかけにひかかった……ま、いいや。いや、何かシャレで書いたのを掲載してくれって言われて掲載しているだけですよ。……九重を巻き込むつもりはさらさらないですよ、ホント」
「たくみちゃんと九重ちゃん、いいコンビじゃない。一緒になって一緒にやっていけばいいじゃない。そしたらどうにかなるかもしれないし」
「前にも言いましたが、九重とはそんな関係じゃないですよ。それに今のままじゃ……もう数段、飛躍しないと無理なのは分かってますから。その為には、1人にならないと……その覚悟はとうの昔に出来てますから」
「……毎晩一緒に寝てるくせに何言ってるのよ」
「──?! な、何で知ってるんですか? まさか俺が腕枕されてるのも?」
「ぅわ~、ホントにそんな事してたんだ……しかも男女入れ替わってのプレイなんて……ド変態もいいところじゃん」
「し、しまった……またカマかけ? 唐突過ぎてまた……。い、いや……やましいことはしてませんよ? ほ、ほら……人肌って寝やすいじゃないですか……まぁお互い抱き枕にしている様なものですって」
「また私の想像の斜め上を……そこまでしておきながら何もしないで何日も……なんて恐ろしい焦らしプレイを思いつくのかしら……流石、キラーキング……」
「そ、そんなんじゃないですって……最後の一線は超えないっていうのが2人の間での取り決めですし、それを守ってるだけですよ」
「……そこまでしないと身体、持たなかったの?」
「……え?」
「……症状、そんなに進んでるの?」
「な、何の……事……ですか?」
「……アレキシサイミアにアレキシソミア」
「──?! ……な、何で……知っ……て……?」
「……やっぱり。これで……たくみちゃんの最大の謎が解けたわ……」
「……え?」
「どうしてたくみちゃんがあえてキツいルートを進もうとしているか」
「そ、それは前に伊織さんが俺に言った様に、罰を受けたいから──」
「より強いストレスを受けて、症状を進行させようとしてるんでしょ? 本当の化物になる為に」
「…………!」
「……たくみちゃん、とんでもない事思いついたわね……症状を加速させてそれを利用しようとするなんて。だから、壊れながら逝くという表現だったんだ」
「…………」
「確かにそこまでやれば……スーパーマンになれるわよ。ただ……悪い事は言わないから、それだけは──」
「もう手遅れですよ。……既に死んだ彼女より症状は進行していますから」
「…………!」
「知ってました? 俺、身体の疲労とか不調とか自覚できないんですよ。だからしょっちゅう倒れて入院してたんです。こないだなんて、九重に足を引きずってるって言われて病院連れられて行ったら、足の小指が折れてたんですよ。そんな事にも気付けないなんて……欠陥人間もいい所ですよね」
「…………」
「今だから白状しますけど……普通の未来を考えなかったか? といったら……嘘になります。自分なりに、症状を治そうと色々やってみましたよ……けど、やっぱりダメでした」
「…………」
「もうこのレベルになると、改善は難しいみたいです。なるべくストレスを減らすのがいいみたいですけど、何がストレスかって分からないですし」
「…………」
「……どうせ治らないなら、長くないなら、いっその事それを利用した方がマシじゃないですか。症状を進行させれば、それだけ化物に近づけますし……早く壊れますし。……早く彼女の夢叶えて、早く逝ってあげないと……」
「……彼女望んでないから、絶対」
「──え?」
「彼女、そんな事をして貰う為にたくみちゃんを助けた訳じゃないから! たくみちゃんに同じ道辿って欲しいと思ってる筈ないじゃない! 彼女の気持ちも少しは考えなさいよ!」
「い、伊織さん……? い、いきなり何を……?」
「たくみちゃん、彼女がもし生きてたらどうしたかったの?」
「……平和に静かに暮らしたかったです」
「仕事は?」
「……誘われた外資で営業やるつもりでした……けど……きっと長くはできなかったと思いますので、他の道を探してたと思います」
「どんな道?」
「……身体になるべく負担をかけない様にネット上に活動の場を移して、FPとして……あ、あれ?」
「漸く気付いた? 彼女が独立系FPになりたいっていってたのは、そこまで考えてたって事でしょ? 全てたくみちゃんの為じゃない」
「…………!」
「彼女の事、少しでも思う気持ちが残ってるなら……たくみちゃんは化物になっちゃダメだから」
「け、けど! お、俺……そうでもしないと……ただでさえ人より要領悪いのに……劣ってるのに……」
「それを助けてくれる人が現れるのが、たくみちゃんの宿命でしょ? 言ってたじゃない、きっと強力な味方に出会えるって。……それは、もう現れてるから」
「……え?」
「言ったでしょ? 私が協力するって。強力な味方は……もうここにいるじゃない。私なら……不足ないでしょ?」
「……────ッ」
「な~んだ、たくみちゃん、まだ感情残ってるじゃん。……もうこれ以上辛い思いしなくていいからね。私が……たくみちゃんの症状、必ず治してあげるから」
「────ッ」
「たくみちゃんは……彼女の為に1日でも長生きしなくちゃ。幸せにならなくちゃ」
「────ッ」
「たくみちゃんは……いつも笑ってなきゃ。たくみちゃんが笑顔なら……彼女もきっと笑ってるから」
「────ッ」
「私が……たくみちゃんがいつも笑顔でいられる様な道を必ず作ってあげるから。……夢を叶えてあげるから……期待して待ってて」
「────ッ」
──こうして紆余曲折がありながら、この日を境に2人は仲を深めていく事となり──という展開ならばどれだけ良かったであろう……その後、2人にとってある意味忘れられないとても長い1日が始まる事となる。
(次回へ続く)
挿話?
敢えて2分割にして含みを持たせました。
実は既に続きの5話程は書いているのですが……この回はホントどうしようかと本気で悩みました。
──この出来事のみで終えて次話にいった方が何かとキレイ。一応、その後の話の繋がりも何とか破綻しないで繋がるし、一応はリアルだし……
きっと、次回の続きをみたら誰もが同じ事を思うでしょう。
ま……この回に関しては……次回改めてぐわっと……
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