第11話:彼岸花
「……彼岸花、ホント、キレイ……」
目を輝かせながら矢勝川の真っ赤なじゅうたんを歩く日高百合は……この世のものでない程、恐ろしく美しかった。周りの景色は完全に消え去り、加藤の瞳には彼女の事しか映る事を許さなかった。時折、加藤の方を向き笑顔で何かを話しかけてきたが、生返事をする事が精一杯──それ程、強烈に魅入っていた。
1.5Kmにも及ぶ彼岸花群の中を歩く事、1時間。気が付いたら公園のベンチに2人座っていた。
「……加藤さん、こういうの嫌いでした?」
「──え?」
「さっきからずっと生返事ばかりで……全然話してくれないですし……私といてつまらないですか?」
「いや……あまりにも圧巻で、言葉に詰まってただけだよ。……思わず見惚れてたよ」
「……なら良かった。この風景、是非加藤さんに見て貰いたかったんです」
「──え?」
「加藤さん、彼岸花と非常に似てますから」
「──?!」
「彼岸花って、不吉なイメージを持つ人も多いですけど、実際はこ~んなにキレイなんです。誤解してる人は、この風景を見ていないからですよね」
「……確かにね」
「死や不幸の悪いレッテルを貼られても、めげる事なく力強く真っ赤に咲き誇って人々を魅了する……凄いなぁって」
「……そうだね」
「彼岸花は……加藤さんそのものですよ」
「──え?」
「彼岸花は……私が一番好きな花ですから」
「そ、それって……どういう──」
「知りません! 自分で調べて考えて下さい! じゃ、そろそろ戻りましょうか」
「そ、そうだね」
「……今度は私ばかり見てないで、少しは景色見て下さいね」
「──! バ、バレてたんだ……い、いや~、日高ちゃん、ビックリするくらいキレイだったから思わず……帰りはちょっとは景色見る努力してみるよ。……あまり自信ないけど」
「wwwwww」
……この様なデートを何度も重ね、2人の距離は徐々に縮めながら季節は晩秋へと向かっていった。
幸福と不幸の狭間で……
加藤は絶世の美女、日高百合との距離が縮まる度に……苦しんでいた。幸せを感じる度に──あの子達の罵声が頭を駆け巡る。
──何、幸せになろうとしてるのよ! お姉ちゃんをあんな目にあわせた癖して!
──あなたに幸せになる権利なんかある筈ないじゃない! 死神!
──お姉ちゃんだけで飽き足らず、あの子まで犠牲にしようとしてるんだ……疫病神!
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい───)
聞こえる筈のない、幻の声が聴こえる様になったのは──この頃からだった。
これ以上距離を縮めてはいけない……と何度も決心するものの、数日たてば禁断症状が現れた薬中者の様に彼女の元に行ってしまい、心が溶かされていく……それに比例するかの様に大きくなる幻聴……
幸福と不幸の狭間で、最初に勝ったのは……狂気であった。
──日高ちゃんとは……もう離れよう……きっと、不幸にしてしまうから……
心惹かれて……
(……相変わらず、とんでもなくキレイだ……ただ、今日で最後か……)
11月初旬、加藤は日高と夜のイルミネーションを見に来ていた。何とも幻想的な夜景に心を躍らせながら見ている日高は、それ以上に光り輝いていた。
(後30分……いや、1時間……しっかり彼女を目に焼き付けておこう……)
ごった返す人混みの中、流れに逆らう様に少し歩を緩めながら歩く加藤に合わせてゆっくり歩いてくれる日高……いつしか2人の間に沈黙の時間が訪れ──そして、夢の時間が終わりを告げようとしていた。
──帰り道
「今日もありがとうございました。……ホント、キレイでしたね」
「……そうだね……って、いつもの如く日高ちゃんばかり見てたけどね」
「www 今日は特に酷かったですよね。視線が痛かったですよ」
「……ごめん。日高ちゃんを……目に焼き付けておこうと思って……」
「www そんな事しなくても大丈夫ですよ。私は絶対いなくなりませんから」
「……え?」
「加藤さんがどんな道に進んでも……私は構いませんから。加藤さんの隣で……癒してあげますから」
「……けど……俺──」
「私がいれば、加藤さんは元気になりますから。それに……私、派手な生活じゃなくても全然構いませんよ?」
「……でも──」
「大丈夫ですよ……どれだけ加藤さんが傷ついても、私が全部癒してあげますから。加藤さんを笑顔にしてみせますから。……それが私の生き甲斐ですから」
「……そ、それって……どういう──」
「────♡」
「──?! え、えっと……今の……は?」
「少しは元気、でましたか?」
「そ、そりゃ……もちろん。え? まさか……ホントに?」
「www 今度のデートで教えます♪ じゃ、いきましょ」
「は、はい!」
絶世の美女、日高百合の前に加藤の決心は脆くも崩れ去り──まるっきり逆の方へ大きく振れていた。
──今度……告白してみよう。もしいい返事が貰えたら……危険な賭けはやめて平穏に暮らしていこう……会社に残って……一生……
少し肌寒い晩秋の夜、繋がれた右手の温もりが加藤の心を優しく包み込んでいた。
挿話?
もう、前回と今回だけ読んだら「何だよ、これは・・・」ですよね。
そこらの少女漫画真っ青のクソ甘い恋愛ストーリーになっていますが・・・下記の時期とモロ被っている事で少しは狂気を感じるでしょうか。
10月……例のあんなメルマガを発行しつつ、契約は11件程取れていました。そして、11月戦の第一週(10月末頃)時、狂気の計画を企てた裏で契約も7件程取れ・・・日高ちゃんとの仲も進行し・・・と、何とも一貫性のないカオスな状態に陥っていました。
「幸せを感じると、聞こえる筈のない恨み節が聴こえてくる」
10月くらいからですかね、いわゆる幻聴症状が現れたのは。自責の念が強かったのか何かは知らんですが、ね。幸せになるのが怖い・・・という気持ちって分かる人、どれくらいいますかね?
・・・な~んて書いておきながら、日高ちゃんに軽くほだされてしまいましたけどね・・・
ちなみに、無双の話とか視線が痛い話は・・・ちょっとうまく書けなかったのでボツとしました。(何か微妙にギャグになってしまったので・・・)
いずれボツネタで掲載するかもしれないですが・・・
- 無双話・・・バイクでのランデブーの話(実話)
- 視線の話・・街を歩いていたら皆が必ず凝視して~という話(実話)
こんな話。「私のフォアは無敵よ」とか「風は最大の友達であり、敵よ」とか・・・ぶっ飛び過ぎるので・・・
※フォア=CB400Fの事らしい
もう少し(1-2回?)「何だこれ?」が続くかと思いますが、以後戻ります。(というか、この章はシリアスな部分が殆どないような・・・)
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