第5話:モデルパターン
とある休日、加藤は車屋に来ていた。
営業をしに来た…のではなく、かなり長年乗った車を買い替える為である。 基本的に特に車に対するこだわりのない加藤は、予算を伝えそれに見合う車であるという営業マンの勧めるがまま、即決で中古車を購入した。
各種手続きをしている合間、ふと生命保険のパンフを見つけた。
(そうか、今じゃ車屋にも保険のパンフが置いてある時代なんだなぁ)
暇つぶしがてら、車屋においてあった保険のパンフを読んでいた。暫くして、車屋の営業の人が戻って来て話し掛けて来る。
「あ、加藤さん。保険って入ってます? 良かったら保険入ってくれません?」
「は??」
思わず間の抜けた受け答えをしてしまった。まさか車屋に来て保険を勧められるとは夢にも思わなかったので。
「いや、俺、保険会社の人間なんですよ、話してなかったでしたっけ?」
「あ!! す、すいません。ところで加藤さん、保険詳しいです?」
「は?? そりゃ、保険会社に勤めてますので…」
「じゃぁ、良かったら今入っている保険がいいかどうか見て貰えません?」
「あ、いいですけど…」
全く予想していなかった展開に戸惑いながら、職業病のように各種説明資料を持参していた加藤はノンストップで1時間程、各種保険の説明をした。この際は、車屋自体が保険を扱っていた事もあったので、全く保険に入って貰える等とは考えていなかった。が、予想外の答えが。
「ははぁ、なる程。こんな形の保険も出来るんですね。じゃぁ、終身のこの形でお願いしようと思いますが、いいですか?」
「え? い、いいですけど、保険扱ってるんじゃないんです?」
「いや、あれは損保会社との付き合いで置いてあるだけで、別にどこで入ろうがいいんですよ。ここまで詳しく保険の話聞いた事なかったので、加藤さんに入りますよ」
「あ、ありがとうございます」
…思わぬ棚からぼた餅である。全く予想していなかった契約だったが為、加藤はかなり上機嫌であった。
翌日、無事契約を終え、意気揚々と営業所に戻る。 例のごとく、夕方の報告という事で、営業部長の呼び出しが。
普段は憂鬱な呼び出しも、契約があがっていたが為、少々得意げにすらなりながら、営業部長の前に座る。
珍しく誉められる筈、と思っていたが、彼の口から出た言葉は全く想定外のものであった。
「加藤…お前、今日契約あがったんだってな」
「はい」
「…何で終身になったんだ!」
「え? お客さんが望んだからですが」
「保険に入る気になってるんなら、なんで定期付終身を提示しないんだ!」
「は?」
「定期付終身のが成績もグンといいし、死亡保障も大きくなるだろが! 今後気を付けて契約取って来い!!」
「……」
横田営業部長のいた拠点は全て全国レベルとなっている。 その数字だけみれば、非常に素晴らしいものではあるが、実際の中身はどうだったのだろうか? 知らなくてもいい現実を見てしまった気がした。
(会社が勧める定期付終身以外は、クソの保険なのか…この人にとっては…)
徐々に、徐々に加藤の中でやり場のない不満感が募っていった。
挿話
はい、、こんな営業部長でした。2万出せる人なら、定期付き終身ならこれだけの保障に入れるだろ、何故にそれを提示せんのか…と。全く持って、コンサルとは程遠い考えの人でしたね。ここらへんからでしょうか、自分が「大きな声ではいえない生保会社の裏事情」のメルマガを発行しようと思ったのは。
「会社の優等生は、会社のススメル(儲かる)商品をたくさん売って来る事」
未だにこの体制は変わっていない…でしょうね、きっと。。
コメント