第9話 チーム異動
ある日、小橋さん(私の導入者)から彼女御用達の喫茶店に呼び出しがかかった。入社してから殆ど話しをすることはなかった。というのも彼女は『優績者』という事で会社でも一目置かれている人だったのである。
(『優績者』といわれる人は崇められるというしきたりが有る。まぁ宗教とかマルチとかの上の人を崇めるのと同じ感じ。もしかしたらうちの営業部だけかもしれないが)
入社して数カ月の自分が呼びだされるなんて、なんだろうとドキドキしながら待ち合わせの喫茶店に向かった。
「さっ、何でも好きなもの注文しなさい。あっそうだ、お昼まだでしょ? 一緒に食べましょ!」
「ありがとうございます」
「もう入社してどれくらいたったかしら? 設楽さんの事は陰ながら応援してるのよ」
「入社して半年ぐらいたちました。だいぶ仕事にも慣れましたし、川上リーダーとうまくやってます」
しばらくの間こんな世間話しをしていた。久しぶりに小橋さんと話し、内心嬉しかった。私の事気にかけてくれてたんだと思った。
いきなり彼女は話しを急展開させてきた。
「実はね、今日はとてもいい話があってきたのよ。来月から私育成リーダーに抜擢されるの。これで設楽さんと同じチームになれるわよ」
「えっ? そうなんですか。とてもうれしいんですけど、川上リーダーと離れるのも少し寂しいですね。今までいろいろお世話になったし……」
「あら、そんな事気にしないで。拠点長とはもう話しあいが終わってるから。この仕事をやるからには素晴らしいリーダーに育成されて、トップセールスレディになりなさい。私が全部教えてあげるから」
こうして小橋さんが導入した私を始め、前田・畑口さんなどが彼女に引き抜かれ、小橋チームが設立された。
ちなみに育成期間中にチームを移動する事は滅多にない。私は『選抜された』と思い、当時はこのことを誇りに思っていた。
この時は会社の事情、小橋さんの事情、etc… 様々な事情に何一つ気付くことは出来なかった。今思うと、この時が私の大きな分岐点だったかもしれない……
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