第26話:残酷な運命~死が2人を分かつ時~
悲劇の幕開けは……突然の一本の電話から始まった。
──3月19日(結婚式前日) 14時頃
Prururu……
「はい、加藤です。…………どちらさん? あれ? もしも~し、聞こえますか~」
「…………美子です。分かり……ますか?」
「──?! み、美子ちゃん? 珍しいね、俺に電話してくるなんて。どうした?」
「……(グスッ)」
「──! 泣いてるの? どうした、何があった?」
「ぅわぁぁぁぁん……」
「ちょ、ちょっと落ち着いて、ね。取りあえず、俺、行った方がいいね? 何処にいる?」
「(グス)……お姉ちゃんが、お姉ちゃんが──ッ」
「え? 美幸が……どうしたって?」
「さっき……死んじゃ……──ッ」
「──は? ……何……言って……死?」
「ぅわぁぁぁぁん……(ブチッ)」
──ツー、ツー、ツー……
ここからの事は加藤の記憶から殆ど消えている。どの様にして美幸のいる病院を知ったか、どうやってそこまで行ったか、向かう時の心境はどうだったのか……
──病室
美子ちゃんと幸子ちゃんが美幸に抱きつきながら号泣している光景が目に映る。近くに寄ってみる。静かに眠る美幸が目に入る。
(なんだ、寝ているだけじゃないか……)
これが最初に思った事、ホッとすらしたのを覚えている。再び美子ちゃん達が目に入ってくる、相変わらず号泣している。穏やかな寝顔の美幸とのギャップが気持ち悪かった。
(ダメだって、こんなに気持ちよさそうに寝てるのに、邪魔しちゃ!)
美子ちゃんの横に立ち、改めて美幸を見てみる。異様に穏やかに熟睡している様だった。そっと手を握ってみる、頬を撫でてみる、頭を撫でてみる。起きる気配は一向にない。
「……美幸?」
声を掛けてみる、相変わらず無反応だ。その後、何か話しかけた事は覚えているが、内容は記憶にない。
気が付いたら病室には俺と美幸の2人だけになっていた事は覚えている。ただ、一体この時、どの様な表情でどんな言動をしていたのか……記憶から消えている。
暫くして医師が入ってきて、死亡時刻と死因を話しているらしい事はおぼろげに覚えている。心筋梗塞で倒れて病院に運ばれた時にはもう……という事らしい。ここまで聞いても、美幸の死を実感出来なかった……事は覚えている。
その後、美幸の姉が青ざめた顔で病室に入ってきた。大声で美幸の名前を呼び、泣き崩れる姿が目に入ってくる。その光景をテレビの画面越しに観るかの様に見ていた事は、覚えている。
やがて葬儀屋がズカズカと入ってきて、無慈悲にも葬儀についてのプレゼンを始めだす。姉が泣きながらも気丈に話を進めている様子は覚えている。
通夜──棺に入った美幸との最期の一時、ここまで記憶は一気に飛ぶ。長い間、冷たくなった美幸の手を握りながら話しかけていた事を覚えている。内容は覚えていないが、当時の事を思い出すと未だに涙が止まらなくなる事より、非常に悲しい記憶という事は確かなのであろう。
日付は変わり、3月20日。
小さな家族葬を行った筈であるが、全く記憶にない。
場面は一気に火葬前の棺の前まで飛ぶ。今日渡す筈だった結婚指輪を棺に入れた事は覚えている。恐らく何かを話し、号泣していたかもしれないが、それは定かではない。恐ろしく悲しかったという事だけが記憶されている。
──美幸が……死んだ。
この現実をはっきりと認識したのは、全てが終わった後の姉との話し合い・美子ちゃん達との別れの時であった。
罵詈雑言
──火葬後、美幸の姉との会話
「……生前は本当にお世話になりました。美幸も最期は幸せだったと思います。ありがとう……ございました」
「……本当だったら、今日……あの教会で結婚式する予定だったんです。で、明日……婚姻届け出して……国内ですけど、新婚旅行も行く予定だった……んです。何で今日……タキシードじゃなく喪服着てるんですかね。ちょっと……意味不明です」
「ホント……何で……────ッ」
「……美子ちゃん達……俺が──」
「美子達は……うちに来て貰います。幸い……手当もありますし……全て加藤さんのおかげです……こんな時にお金の話をしなくて済むのは」
「…………」
「あなたの事は……美幸からよく聞いていました。運命の人だって、私と同じ症状だって、仲間が出来たって……嬉しそうに話してましたので」
「俺の……せいで……やっぱり蓄積されて……すいません……」
「いいえ……元々こういう運命だったんです。あなたのおかげで……あの子は穏やかに幸せに最期を過ごせた……筈です。自分を……責めないで下さいね」
「……これ、遣って下さい。俺が持っていても……意味ないものですから」
「──! これは受け取れません! ここまでして貰う訳には」
「これは元々美幸が……稼いだ様なものですから。それに美幸がいなければ……俺はとうの昔に……そのお礼……です。どうか……美子ちゃん達の為に……元々その為に遣うモノ……でしたから……今後も出来る限り……送りますから」
「で、でも──」
「俺の症状は──美幸より……進行していますから」
「──!」
「お世話に……なりました!」
──美子ちゃん達との会話
「……人殺し! あなたのせいで……お姉ちゃんを返せ!」
「……美子ちゃん、ごめん」
「(…………)」
「……豪君も、ごめん」
「何であなたが生きてるのよ! お姉ちゃんが死ななくちゃいけないのよ! 死神!」
「……幸子ちゃん、ごめん」
「お姉ちゃんを返せ──!」
「……ごめん……」
「ぅわぁぁぁぁん──……」
「……ごめん……」
どれだけの罵声・恨み言を浴びたであろう……その一つ一つが酷く心に突き刺さり、今までの幸せの日々が黒く塗りつぶされていく。
──俺の……せいだ。俺が……美幸を……全てを……壊してしまった……どうしたら……許してくれるかな……俺が不幸になれば……苦しめば……死んでしまえば……満足してくれるかな……ごめん……美幸、美子ちゃん、幸子ちゃん、豪君……
頭がついていかない。現実を直視出来ない。美幸に会いたい。顔が見たい。声が聞きたい。触れ合いたい。どこにいるの? もういない? 1人で逝かないでよ……おいてかないでよ……嫌だ……辛い……苦しい……怖い……痛い……悲しい……寂しい……嫌だ……もう嫌だ……壊れたい……壊れてよ……! ぁぁぁぁぁああああああ!
──今のままいったら、壊れちゃうよ~。私もお医者さんにそう言われたし♪
──感情が分からないだけで、どんどん蓄積されているんだって。で、限界まで溜まると精神が壊れちゃうみたい。後、身体に症状現れたりして、最悪死んじゃうんだって♪
──私レベルになると、難しいみたい。なるべくストレスを減らすのがいいみたいだけど、何がストレスかって分からないし♪
──ね、どんな風に壊れるか、ワクワクしない? いきなりなのかな~、徐々になのかな~♪
──ジェットコースターやホラー映画と同じだって。どうせなら楽しまないと、ね♪
──楽しみが共有できるって、いいよね。
──そ♪ だから、一緒に壊れよ♬ ね♡
……美幸が言っていた事は、全て……真実だった。
こうして最高の記念日になる筈だった3月20日は……これ以上ない最悪の形で過ぎていった。
挿話
はい、これが自分の最大の黒歴史(?)です。
これ、実はかな~り改編入れています。リアルでは2年目の夏から初冬にかけての話ですし、人物の絡みもかなり違っていますし。(当時は勝野とも離れてませんし、職場での孤独化もなかったです)
田中との結婚の話を知っていたのは……喫茶店絡みの人以外では当時1人だけでしたかね。そもそも付き合っている事を知っていた人も数える程しかいなかった筈です。(営業物語と関係ない人物なので、恐らく出さない予定。出すと余計ややこやしくなる)
当然、この悲劇も誰も知らずに……と。確か、単に別れた、振られた、とか伝えていましたかね。
「こんな悲劇が起きても、街は何もないかの様に冷酷に回っていく」
当たり前の話ですが、現実は厳しかったです。
物語で触れていく事になると思いますが、ここから極度のスランプに陥ります。……というか、この心境でまともに仕事なんぞできる筈ないです……よね? ん? 普通の人はできるものなのか? 自分が弱いだけなの……か?
ま、普通の人はどうだか分からんですが、少なくとも当時の自分には「無理」でしたね。
さて……どこまで書こうかな……
外伝ラストは既に決めていますが、ここからは白紙状態です。(本編は既に完結していますけどね。……少し書き足す必要がありますがね、これを書いたが為)
次回、恐らく外伝最終回。
こうご期待を。
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