第9話:オアシス
先日のマルチの会合以後、加藤は孤立していた。会社で一切会話をしない鬱憤を晴らすかの様に飛び込み先で話をするという日々は加藤の心を瞬く間に蝕んでいき、孤独に押しつぶされそうになっていた。心身とも疲れ果てていたある日……花屋で働く1人の絶世の美女が目に飛び込んできた。砂漠の中で見つけたオアシスに導かれる様に……気が付いた時には既に声掛けをしていた。
「こ、こんにちは。あ……この度こちらの地区の担当になった●×生命の加藤といいます。よろしくお願いします。あ……よ、よかったらアンケートにご協力お願いします」
「あ、はい。────これでいいですか?」
「あ、ありがとうございます! いや~、凄い助かりました。実はアンケート回収のノルマあるんですよ。……これで上司に怒られないで済みます」
「(クスッ)お役に立てて良かったです。……私、高校卒業したての新入社員なんですよ」
「──! という事は……18歳? ぅわ~、滅茶苦茶若いね。なんで日高さんみたいな人が……こんな花屋さんに?」
「私、お花が好きなんです♪ お花屋さんで働く事が小さい頃からの夢でしたから♬ ……ところで、私みたいな人がって、どういう事ですか?」
「あ……い、いや……これだけキレイだったら芸能界とか大企業の秘書とかなるんじゃないかな~って」
「(クスッ)お世辞がお上手なんですね♪」
「いや、お世辞でも何でもなく……日高さん程キレイな人、初めて見ましたから……こんな人、この世にいるんだな~って」
「(クスッ)ありがとうございます♪ ……もしかして、私を口説いているんですか?」
「あ……い、いや/// 思わず本音が口に……って、何を言っているんだ、俺……ご、ごめんなさい」
「(クスッ)いいですよ。そんなに私の事が気に入ったのでしたら、いつでも見に来て下さい♪ これも何かの縁ですから」
「い、いや……本気にしちゃいますよ? ホントに癒されに来ちゃいますよ? 週3回くらい」
「(クスッ)いいですよ。店番で暇していますので、癒されに来て下さい」
「……茶菓子持って毎日来ますよ? 日中入り浸っちゃいますよ?」
「(クスッ)是非♪ お茶を用意して待ってますから♬」
「うわ~、ラッキー。これを生き甲斐に、仕事頑張ろ!」
「wwwwww」
基本、店屋で働く店員に営業を行う事はご法度に近く、当然加藤もそれまで店員に声掛けはしてこなかった。少しでも精神状態が安定していたのなら、この声掛けはしなかったであろう。
アイドルや芸能人の中に混じっても抜きんでる程の絶世の美女、日高百合との出会いは、限りなくナンパに近い営業の声掛けであった。今思えば、彼女の対応は社交辞令だったかもしれない。が……良くも悪くも空気が読めない加藤は彼女の言葉を真に受け、かなりの頻度で彼女の元へ通う事となる。
挿話
はい、滅茶苦茶ですね笑
実はこれ、時期こそ違えど思いっきり実話だったりします。飛び込みの最中、思わずフラフラ~っとまるでナンパの様に声掛けをして~っと。
・・・自分の黒歴史その1です、はい。
なじみ活動と称して、自分のお気に入りの子の所に入り浸っておしゃべり・・・ぶっちゃけ、こんな事をちょくちょくやってました。
「いえ! サボってません! これも立派ななじみ活動です! 少し滞在時間が長い(実際は数時間)のは、色々情報を引き出しているからです! ほら、この人、この子の紹介なんですよ! ちゃんと成果出してますから!」
えぇ、強引にこんな風に言い切っていたものです。まぁ・・・こんな強引な言い訳を通す為に、気合で契約は人一倍とってましたけどね笑
「お気に入りの子とのなじみ活動の時間を多くとる為、人一倍仕事を頑張っていた」
暫くの間、冗談抜きにこれが自分の仕事のモチベーションでした、はい。
次回以後、さらにぶっ飛びます。
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