たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記 第三部 第4話:解約

たくみの営業暴露日記
スポンサーリンク

第4話:解約

──Trururu…

とある日、加藤の携帯電話が鳴った。着信の名を見てみると、井上さんとなっていた。この方は1年くらい前に契約を頂いた方で、会社契約で退職金の積み立てものも含み、数本の契約を頂いていた所である。見た目はかなりリッチであり、人付き合いも多い様子で何人か紹介を頂いていた。

(何だろ? もしかして紹介の電話かな?)

丁度1週間程前に訪問したばかりであり、保険を考えている人を紹介してくれるとの事だったので、少々心を踊らせながら電話に出た。

「はい、加藤です」

「あ…加藤君? ちょっと頼みがあるんだけど…」

少々暗い声ながらも、頼みという事は紹介以外にないと思い、明るい声で「何でしょうか、何なりと仰って下さい」と応対する。が、次の一声で加藤はサーっと血の気がひく思いをする。

「ちょっと会社の状態がよくなくて、、一刻も早く解約してお金をいれたいんだけど……」

「は、はい…分かりました。一刻も早く書類を用意してお伺いします」

電話を切った後、井上さんの契約を打ち出してみた。丁度11ヶ月目であり、ギリギリ1年経過していなかった事を見て、思わず深いため息をつく。どういう事か? というと、契約13ヶ月未満の解約においては件数控除というペナルティが発生してしまうのである。

(うわ…件数では7.0件のマイナスになるの…か)

ちなみに通常の毎月のノルマは6件から7件である(当時の加藤の場合)。 感覚的には重大月の活動をして、ようやくマイナスがなくなる、という数字となるが為、かなり重い控除である。

(まぁ…事情が事情だからしょうがないか。今までお世話になっていたし)

と、気を取り直して、一気に解約申請をし、30分後に書類一式を揃えて井上さん家へ出向き全ての手続きを終え、解約の処理を行った。


夕方。
凄い剣幕で営業部長が加藤を呼び出した。

「はい、何でしょうか」

「おい! 何だ、この解約件数は! お前、これがどういう事か分かってるのか!」

「はい…ただ、事情が事情だったのでやむを得ないと判断して処理しました」

「はぁ? 事情?? 何お前勝手に判断してるんだ! こういうのはな、なるべく説得して解約防止とか最悪減額処理とか、色々手立てはあっただろが!!」

「いや…経営状況が悪化しているとの事で一刻を争うとの事だ──」

「アホ! そんなもん、デマカセかもしれないだろが! 他社に変えるだけかもしれないだろが。お願いして2ヶ月くらい継続して貰う事がなんで出来ないんだ!!」

「……」

継続率。
営業職員のみならず、営業所自体の継続率というのも存在する。

契約が沢山取れる事以外に、契約継続率、新入社員入社数、新入社員の継続勤務率、マル標率etc…

会社からみた模範となる営業所は、前述の基準が高い所を指す訳である。

(…この人、体裁の数字しか見ていない…のではないか…)

日数こそ多くはなかったものの、一応はトレーナーという立場にいた加藤には、営業所ノルマという存在は他の職員よりも詳しく把握出来ていた。だからこその疑問であった。

「とにかく! 今後解約手続きの際は、俺を通すように!! 勝手な解約は許さないぞ!」

(なんで…そこまでいちいち指図されなきゃいけないんだ? 解約等、お客さんの事情があるだろうから、自由にさせてあげればいいじゃないか…)

体裁を繕う営業部長体制に、ちょっと違和感を感じる加藤であった。

挿話

13ヶ月未満の解約は、控除の対象となります。よって、1年未満の解約は激しく防御するんですな。人によっては、自腹で払うから~という人すら。(当然ながら、自腹で立替え等は犯罪です)

基本的に、解約防止は自分は嫌いでした。早期解約するような保険を売った本人にも問題あるでしょうし、状況によってはホントしょうがない事情って案外ありますからねぇ。

ただ…こう思う人はかなり特殊なようでして。。 ちなみに1年未満の解約の場合だと、「そんな契約、取らなかった方がマシ」とすら言われます。えぇ、酷い言われようですね。。ま、これが現実ですわ。。

前の話 目次  次の話 

コメント

タイトルとURLをコピーしました