Epilogue Risa #8 かげろうのように
告解
──6月中旬 教会
「え、えっと……てっきり結婚式の会場の打ち合わせに来たと思ったら、普通に礼拝しに来たの?」
「ん? そだよ。結婚はお互い体調戻ってからって言ったじゃん。もう少し後だよ、それは」
「え、えっと……俺、礼拝に来たの初めてなんだけど……な、何するの?」
「最初に歌を歌って、お祈りして、そして牧師さんのメッセージ聞くの。で、最後にまた歌って祈って終わり。簡単でしょ?」
「い、いや……教会で歌う歌なんて、俺知らないよ……」
「大丈夫、ちゃんと歌詞入りの楽譜も配布されるから。私に合わせればいいから、ね」
「えっと……リサって、カトリックだったの?」
「信者って訳じゃないけど、ちょくちょく、ね」
「え、えっと……何で?」
「癒されるから♪ あ……私、終わった後に告解部屋にいくから、ちょっと待っててね」
「えっと……何それ?」
「分かりやすくいうと、懺悔部屋かな? 神様に自らの罪を告白して赦して貰うの」
「え、えっと……な、何か罪犯したの?」
「……ちょっとね♪」
「よ、よく分からんけど──」
「シッ! もう始まるから!」
意味も分からず教会で礼拝を経験する事となった。隣で目を瞑り静かに祈りを捧げるリサは一体何を祈っているのであろう? リサの犯した罪とは一体何の事なのだろう? この様な事ばかりを考えていたらいつの間にか礼拝が終わっていた……という記憶が残っている。そして、告解部屋から出てきて微笑むリサが心なしか非常に寂しそうに見えて──それで瞬時に悟ってしまった記憶が。
──このままだとリサは……これでいいのか? 今ならまだ……けど……
晴れる事を忘れた梅雨空の中、加藤は光る未来をひたすら探していた。が──
ミロのヴィーナス
──6月30日の夕暮れ時
「たくみ……ちょっとこっち来て」
「ん? 何? ──って、ど、ど、どうしたの、裸で……///」
「目を逸らさないでちゃんと見て。……キレイでしょ?」
「……滅茶苦茶ね」
「スタイルも完璧でしょ?」
「……ミロのヴィーナスみたいだよ、冗談抜きに」
「でしょ? 毎日身体の手入れ、欠かさずやってきたから」
「…………」
「今がきっと私の一番キレイな時だから……目に焼き付けておいて」
「分かった……明るい場所でみたのは初めてだけど……ホントキレイだよ……」
「胸、触ってみて。今まで何十回……何百回も私の胸に顔埋めてたよね。どう? キレイでしょ?」
「//////」
「腰回り、触ってみて。ウエスト細いでしょ? 贅肉なくてくびれもあってキレイでしょ?」
「//////」
「お尻も、触ってみて。張りがあってちょっと大きなお尻、よく顔埋めてたよね。キレイでしょ?」
「//////」
「脚も、触ってみて。今まで数えきれない程、膝枕してあげたよね。太腿で顔を挟まれたりしてたよね。キレイでしょ?」
「//////」
「二の腕も、触ってみて。程よく筋肉もあって細すぎる事もなく、キレイでしょ?」
「//////」
「私の身体の全て、好きでしょ?」
「……はい」
「夕日が沈むまで、瞬き忘れるくらい……ずっと見てて。今の私を……たくみの中でずっと焼き付けて」
「……は……い」
夕暮れ時の淡い日差しとリサの裸体はこの世のものとは思えない程美しかった。加藤は瞬きする間も惜しんで、この光景を脳裏に焼き付けようとしていた。そして、祈っていた。夕日がいつまでも沈まない様に、蜃気楼の様に消えてしまわない様に、このまま何事もなく今日が終わります様に……ありきたりの明日が再び訪れます様に……
そんな加藤の願いは何一つ叶えられる事なく……幸せな時間はかげろうの様に消え去ろうとしていた。
そして──遂にその時はやって来てしまった。
補足?
何か略しすぎな気もしますが、意外にもリアルはこんな感じでしたので。
──結婚を約束してわずか3週間で……
ホント、あっという間にいつの間にか、という感覚でした。ま、ちょ~っとした「裏」はありますけどね。それに関してはエピローグ最終回あたりで。
ちなみに、「うわ、何この作り話」と思われるであろう、リサのストリップの話は紛れもない事実です。台詞もほぼ一字一句そのまま・・・強く記憶に残っているできごとの一つですね。
後2-3回で終わります。
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