第2話:秘めたる才能……?
──2週間後
「加藤君……やるわね。あの畑口を手懐けるなんて……一体どんな魔法使ったのよ……」
「い、いや……初日に昼間からカラオケいって飲んで打ち解けて~というだけですが」
「……敢えて真昼間の仕事の時間中から堂々と飲酒までしてサボるという非日常を演出して上司としての器の大きさを見せつけて心を鷲掴みにした訳ね……ホントやるわね……恐ろしいセンスだわ……」
「い、いや……小橋さんの指示って聞いてたんですが……」
「普通に考えたら分かると思うけど、仕事後だよね、そういう事するのは。まさか真昼間からカラオケ行って飲みまでするなんて夢にも思わないわよ……その発想はホントなかったわ~、勉強になるわ~……」
「(今更畑口さんにそそのかされて~なんて……言えないなぁ……ま、いいか……)」
「あの子、扱いにくいでしょ? 自己主張も激しいし。何か困ってる事ない?」
「あ、い、いや……そんな事ないですよ。頭のキレもいいですし、お水の世界で鍛えた話法は俺には逆立ちしてもできないですし。他にも色々俺が学ぶ事のが多いくらいです。このままいけば凄い生保レディになれると思います」
「……敢えて下手に出て相手をいい気にさせてやる気を引き出す手法、それに敢えて畑口のお水臭さをメリットと考え、それを活かす方向で活路を見出す発想……天才的だわ……こんな逸材が今まで埋もれてたなんて……」
「い、いや……いい風に捉えすぎですって……俺なんて殆ど何もしてないですから……」
「……そして自らの功績に奢る事ないその謙虚さ……まさしくトレーナーの鏡だわ……わずか2ヶ月足らずでこの域に達するなんて……しかも畑口の面倒をみつつ、ちゃっかり去年並みの成績をとる離れ業まで……この私が冷や汗をかくなんてどれくらいぶりかしら……」
「(……退職の挨拶まわりで契約がたまたま立て続けに取れた……なんてとても言えないな……)」
「勝野君が前、俺はとんでもない化け物を育ててしまったって震えながら言ってたけど……今なら勝野君の気持ち、少し分かるわ。……それでも私はやらなくては……それがアフロディーテのご加護を色濃く授かっている私の宿命なのだから……!」
「(小橋さん……一体どんな宗教にハマってるんだろう……神話がごっちゃになっている様な……)」
「──という事だから、近々もう1人面倒みて貰うからね。その子は私の懐刀になり得るポテンシャルを秘めた人材だから。しっかり頼むわよ!」
「え? ちょ、ちょっと──」
……という何とも強引な流れで、更に1人の新人の面倒を任された加藤。小橋は知らなかった。この巡りあわせさえなければ、加藤が「破壊神」にならなかったかもしれない事を。そして加藤も知らなかった。今までの物語がほんの序章に過ぎず、これから本当の波乱万丈の日々が始まっていく事を。
運命の出会いは、すぐそこまで迫って来ていた。
英才教育……?
加藤の畑口への指導(?)は少々変則であった。実際に仕事に出向くのは週のうち2日のみ、残り3日はフリータイム中のカラオケ店に入り浸って討論を繰り返していた。……単に畑口に強引に連れ回されていただけ、とも言えるが……
──昼間のカラオケフリータイム中(2時間程熱唱&暴飲をして休憩中の会話)
「────ってな感じで俺は契約取ってきました。もう分かってると思いますが、俺はトークが上手い方でもないですし、異様に押しが弱いので、こんなスタイルになりました」
「それって……誰かから教わったの?」
「いや、俺が教わったのはアンケート取って、なじみ活動を定期的にしろという事だけなので。それを忠実にやっただけで、当たり前の事しか──」
「変態的だわ……地区を一つの巨大な職域に捉える発想、RPGのゲームに例えて日々のルーティンワークを苦痛なものじゃなくする発想、そして自らをタレント化してしまう発想……一体どんな性癖を持っていたらそんな考え方になるのか……」
「へ、変態的って……俺、至ってノーマルの筈ですが……」
「絶対違うね! たくみちゃんは人には言えない危ない性癖を持ってる筈よ! じゃなきゃ、こんな発想できる筈ないから!」
「え、えっと……何か凄い事言われてる気するんですが……な、何か落ち込みます……」
「何言ってるの? 褒めてるに決まってるじゃない! 歴史上の偉人は皆、大変態なんだから! 誇るべき事だよ、それ!」
「い、意味分かりません……」
「いい? 世の中の発展の源は全てエロパワーから産まれてるの。テレビやビデオの普及、携帯電話、そしてIT。テクノロジーの発展とエロは密接に関係しているからね」
「た、確かに……」
「世の中の発展は変態の妄想力にかかっているといっても過言じゃないからね。たくみちゃんは十分その資格を持ってるから」
「え、えっと……何となく褒められれるのは分かったんですが……い、一体何の話でしたっけ?」
「っと、そうだ……あまりの変態っぷりに思わず話が飛んじゃったわ。……今の手法、文章に書き下ろしてまとめたら、絶対売れるよ!」
「い、いや~、それはないでしょ。みんな似た様な事やってるんじゃ──」
「喫茶店を拠点にするとか、可愛い子を利用してのブランディング戦略とか、誰も思いつかないから! マネできるかどうかはおいといて、思わずたくみちゃんに襲い掛かりたくなるくらい私は興奮したから!」
「あ、ありがとうございます……でいいのかな?」
「それにしても変態の自覚がなくてこれとは……私がさらに性癖を植え付けて磨き上げていったらたくみちゃんはどうなってしまうんだろう……これは興味深いわ……」
「…………」
「よし! 決めた! 今後私が責任をもってたくみちゃんに英才教育を施すから! 私が必ずたくみちゃんの隠れた才能を引き出して見せるから! 期待してて!」
「い、いや……いいですよ……俺、変態になりたくないですよ……」
「けど、前に一人で生きてく力が欲しいって言ってたじゃない。あれは口だけだったの?」
「い、いや……本気ですよ」
「だったら変態レベルを上げるのが一番の近道じゃない! というか、たくみちゃんにはその道しかないから! 大丈夫、私がたくみちゃんを誰にも負けない変態にしてあげるから! 大船に乗ったつもりでついてきて!」
「わ、分かりました……」
「そうと決まったら、今日もとことん飲むわよ! ほら、たくみちゃん、一気! 一気!」
(俺はホントに真昼間から何やってるんだろう……)
畑口伊織は……一言でいうと頭のネジが数本抜けている変人だった。そして、彼女が宣言した通り──加藤は訳の分からない「英才教育」を受ける事となり、その結果……隠されていた才能が本当に開花する事となる。
家
「(カタカタカタ……)クソ! またミスった! 後少しでクリアなのに……」
「たくみ君、努力家だね~。大分タイピングも速くなったじゃない。で、今度はどんなソフト──な、何やってるのよ……」
「ん? 何か畑口さんが俺に貸してくれたヤツ。聞き慣れない単語や片仮名多くて今までと勝手が違って難しいよ……あすか、ちょっと変わって見本見せてよ」
「嫌よ! この変態! これ、どう見てもエロゲーじゃない! 触手に幼女って……どれだけマニアックなのよ!」
「いや、意外に熱いストーリーで作りこんであるよ、このタイピングゲーム」
「知らないわよ! それに、何で名前が私になってるのよ!」
「い、いや……畑口さんにキャラの名をあすかに設定したら没頭度もあがって燃えるからって言われて……」
「あまり聞きたくないけど……クリアしたらどうなるのよ、これ……」
「知らないよ……まだクリアした事ないから……」
「ちょっと貸してよ……お前のヴァギナを……ホント、何なのよ、これ……あ、クリアした……」
──自主規制のドギツイ映像と卑猥な音声の嵐──
「な、何か酷いね、これ……あすか、壊れちゃったよ……」
「畑口さん……こんな趣味があったなんて……それにしても、何でこんなソフトをたくみ君に……」
「何か俺の新しい性癖を目覚めさせて眠れる才能を開花させるとか訳分からん事言ってたけど……」
「……変な人に目をつけられちゃったね……悪い人じゃなさそうだけど……ほどほどにね……」
「……うん……」
※加藤が新たな性癖に目覚める事はありませんでした……あまりにも難易度が高すぎて……
挿話?
ま、リアルです。
九重もかなりのサボり魔でしたが、畑口はさらに上をいくサボり魔でした。よく成績が取れないとボヤいていましたが、週1の職域活動だけで後は何もしてませんでしたので、当たり前だろうが! と。……こんなんで、月2-3本くらい契約取っていたりしてたので、営業センスはずば抜けていたといえるでしょう。まともに普通に週5で働けば凄い実績残せるやん、と何度言った事か……
ま……基本的に自分もサボり魔なので、人の事言えないですけどね。。。
ただ、サボりといってもちゃんと仕事の話もしたりして、これはこれで立派な指導だったかな? と今振り返ると。……どちらかというと自分が指導を受けていた気もしますが……(不思議な研修(?)に関しては次回あたりにでも……)
余談ですが、この時の経験より、未だに趣味はカラオケです笑
あ、書き忘れてました。文中にあるノウハウ本の内容は以下にさり気なく公開しています。
HPのみでPDFの電子書籍として販売したところ、個人としては異質というくらい売れましたね、ホントに。これがきっかけで、何故かしら営業講演の依頼が来たり、物語連載の依頼が来たり・・・(第2部までが某雑誌で2年程連載していた内容そのものです)
一時期(数年くらい)は、電子書籍の売上と講演が収入の大半を占めるという訳分からん状態になってましたな。
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