#19 鬼にでも悪魔にでも……
※以下の「空も飛べるはず」と一部ダブります。
──9月10日 結婚式後 ~お茶の間~
「お兄ちゃん、今日はありがとね」
「いや、俺も呼んでくれてありがとね。正直場違い感半端なかったけど」
「そんな事ないから! お兄ちゃんは私達の家族なんだから!」
「ありがとね、未だにそんな事言ってくれて。ただ……もう俺はここに来る事はないよ」
「え? どういう……事?」
「改めて、結婚おめでとう、美子ちゃん。……旦那さん、いい人そうじゃん。妊娠して責任取る! なんていう男なんて中々いないし、全てを知ってて結婚してくれたんでしょ?」
「う、うん……」
「だったら……旦那さんだけ見てなくちゃ。俺がいたら、旦那さんもきっと面白くないと思うし」
「…………」
「幸子ちゃんは……もうちょっと先かな? けど、いずれいい出会いに恵まれる筈だから。俺がいたら……ね」
「で、でも!」
「これから大変だよ? 赤ちゃん産まれて家族増えて……きっと自分達の事で精一杯になっちゃうって」
「…………」
「今まで……こんな俺を家族の一員にしてくれて……ありがとうございました!」
「お兄ちゃん……これからどうするの?」
「ま……暫くはあすかと旅行しながら生きていくよ。アイツ、1人で寂しがってると思うから」
「……その後は?」
「……ま、いいじゃん」
「ダメだからね、死んじゃ。辛くてどうしようもなくなったら……帰ってきていいから。その時は……また一緒に住もうよ。私は離婚しても構わないから……約束ね?」
「……ありがとね。俺は……大丈夫だから」
「ホントにダメだからね!」
「…………」
──その後(美子&幸子)
「お兄さん、やっぱり出ていったね。お姉ちゃんの言った通りに」
「……そだね」
「これで……お兄さんとお別れか。お兄さん……ちゃんと生きていけるかな。私達いなくて大丈夫かな。……心配だな」
「大丈夫! ちょっとしたらきっと戻ってくるから。ただ、びっくりするくらいやつれて帰ってくる筈だから、その後が大変だよ~」
「えっと……どういう事? さっきのお兄さんの話から、どう考えてもここに戻ってくるとは思えないんだけど……ほら、一度言い出したら聞かない典型的タイプじゃん、お兄さん」
「それは建前だから。本音は私と一緒にいたくてしょうがないって思ってるから♡」
「……全く意味分かんないんだけど。えっと、お姉ちゃんと一緒にいたくてしょうがないって……仮にそれがホントだとして、ダメじゃん。お姉ちゃん、結婚しちゃうし……手遅れじゃん」
「ホント、遅いよね~。普通だったら時すでに遅し、だよね~」
「……普通だったらって……お姉ちゃんは普通じゃないの?」
「……えへ♡」
「えっと……お兄さんが戻って来たら、お姉ちゃんも戻ってくるって事? 前に言ってた通り、離婚しちゃう気なの?」
「ん? 離婚はしないよ?」
「……まさかの不倫?」
「不倫もしないよ~。お兄ちゃんに失礼じゃん」
「……じゃ、どうする気?」
「簡単だよ~、結婚自体やめるって事。そしたら、何も問題ないでしょ?」
「け、結婚やめるって……さっき式挙げたばっかじゃん。世界一の家庭を築いていくってみんなの前で宣誓してたじゃん……今更、無理だよ……」
「式を挙げたからって結婚しなくちゃいけない決まりなんてないじゃん。マリッジブルーになって別れたカップルなんて星の数程いるんだし、珍しい事じゃないよ」
「えっと……結婚しない事は分かったけど、もしかして新居に引っ越しもしないの?」
「当たり前じゃん! 結婚しないんだから。さっき伝えた所だよ。……さ~て、これから数日、謝罪まわりで忙しくなるぞ~」
「お姉ちゃん……友達なくしちゃうよ? バチ当たっちゃうよ? いくら何でも酷いよ……」
「しょうがないよ~、お兄ちゃんの為だから。前にも言ったでしょ? お兄ちゃんの為だったら、私は鬼にでも悪魔にでもなるって」
「そこまでして……お兄さん、ホントに戻ってくるの? 根拠は?」
「ん~……ボロボロになったお兄ちゃんが帰ってくるイメージが見えたから、かな? 助けて下さい、一緒に住まわせて下さいって。私が渡したなんでも券……あるし」
「え、えっと……私には全くイメージできないんだけど……もし帰ってこなかったら──」
「その時はお兄ちゃんの首根っこ掴んで連れて帰ってくるまでだよ。どこにいたって、絶対見つけ出してやるんだから!」
「…………」
「お兄ちゃんが帰って来たら……一杯おいしいもの作ってあげるんだから。……一杯抱きしめてあげるんだから。……一杯……────ッ」
「…………」
「幸子……私って、バカかな……?」
「うん……凄いバカだよ。けど……私はそんなバカなお姉ちゃん、好きだよ」
「私、間違ってるかな?」
「うん……滅茶苦茶ね。けど……どれだけ間違えてても、私はお姉ちゃんの味方だよ」
「お姉ちゃん、天国で呆れてるかな?」
「ううん、きっとよくやったって褒めてると思うよ」
「お兄ちゃん……ホントに帰ってくるかな? また一緒に暮らせるかな?」
「きっとね。お兄さん、シスコンだもん。禁断症状でてすぐ戻ってくるよ」
「私……お兄ちゃんとホントに一緒になれるのかな?」
「きっと……ね。来年の今頃には同じ教会でお兄さんと式挙げてるよ」
「……幸子、お兄ちゃんと一緒になった暁には、可愛い妹役は幸子に譲ってあげる。何てったって、幸子はお兄ちゃんの正真正銘の妹になるんだから」
「……え? い、いいよ……別に譲ってくれなくても……」
「遠慮しないで! だって、お兄ちゃん、重度のシスコンになってるから、妹が必要じゃん。……大役だからね!」
「……そしたら、シスコンのお兄さん、お姉ちゃんの事、見向きもしないで私にハマりまくっちゃうよ? ずっと私と一緒に寝る事になるけど、それでいいの?」
「──?! そ、それは……ど、どうしよう、幸子……私、路頭に迷っちゃうじゃん……生きる希望なくなっちゃうじゃん……」
「……お姉ちゃんがお嫁さんと妹役、1人2役やればいいだけじゃん。そんな事できるの、お姉ちゃんしかいないし、多分」
「──! そっか! 幸子、頭いい~! よ~し、希望が湧いてきた! 早速今日から色々計画練らなきゃ♪」
「(ホント……疲れた……)」
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