Epilogue Risa #4 運命の分かれ道~セカンドステップ~
──3月中旬
「──さて……大分回復してきたから、次のステップに進もうか」
「──?! え? ど、どういう事? ま、まさか……このド田舎での生活は……俺の治療の為だったの?」
「当たり前でしょ! リハビリって言ったじゃん、私。自然に触れるのが精神系には一番有効だからね」
「……自然に触れるというより、自然と一体化していた様な……。え、えっと……精神系は太陽浴びて適度に身体動かして汗かいて土を弄るのが有効って知識は俺にもあるけど……それだったら地元で畑でも借りればよかった様な……」
「──?! い、いや……そ、それだと中途半端だから。や、やるからには徹底しないと……ね♪」
「その反応……ま、まさか……今気づいた……とか?」
「ち、ち、違うわよ! す、全て知っててここ選んだんだから!」
「ま……完全に社会から遮断される事でのストレス軽減も大きかったと思うから、ちょ~っと不便だったけど、確かにド田舎での生活は有効だったかもね」
「──! そ、そうよ! 私の狙いはまさしくソレだったんだから!」
「……色々ツッコミ入れたい気もするけど……ま、いいや。結果的に意外に楽しかったし、確かに凄い健康になった気するし。この度は本当に……ありがとうございました!」(90度のお辞儀、最敬礼の図)
「ちょ/// そんな改まってお礼しないでよ……て、照れるじゃん///」
「で……次のステップは何するの? 俺、何でもやるよ~」
「あ、その前に……ちょっと気になってた事があるんだけど、いいかな?」
「ん? 何?」
「たくみがやってたネット上でのFPのお仕事……あれ、どうなってるの? ここに来てからPCすら開いてないみたいだけど」
「ん? もうやらないつもりだけど? だってリサ言ってたじゃん。仕事も何もかも忘れて治療に専念せい! って」
「バ、バカじゃない? 成果も出てかなり順調だったんでしょ? 勿体ないじゃない!」
「い、いや……朧気に言った気がするけど、地位とか名誉とかお金とか、俺、興味ないから。リサが一緒にいてくれるなら、仕事なんて──」
「どうやって暮らしてく気だったのよ! まさかホントに私のヒモとしてずっと生きてくつもりだったの?」
「(ドキッ)い、いや……そ、そんな事、ないから。身体が良くなったら、テキトーに警備員とか肉体労働でもやればいいかな~って……」
「肉体労働を舐めるんじゃないわよ! 軽作業を半日でクビになるたくみに勤まる訳ないじゃない!」
「そ、そう? けど、俺ができる仕事なんて肉体労働くらいしかないし……別に何か資格持ってる訳でもないし……」
「今までの仕事、続ければいいじゃない! 場所はどこでも出来るんでしょ?」
「け、けど……リサ、嫌じゃないかな~って。……ほら、FPの元のアイデアは元フィアンセとか色々絡んでるから……頭を過るんじゃないかな~って──」
「伊織さんが絡んでからもう全く別物になってるから! 私は全く気にしないから続けなさいよ!」
「え……け、けど……1日20時間くらいはやらないと──」
「そんなにやらなくていいから! 1日8時間で週5日で十分だから!」
「え……そ、それじゃ、人並み以下しか稼げないよ? ……多分」
「……一応聞くけど、たくみが言う人並みって、年収いくらくらい?」
「え……年1500万くらいだよね。さっきの条件だと、せいぜい1000万ちょいいくかいかないかくらいしか──」
「4年前に伊織さんに言ってた事と同じ事言ってるんじゃないわよ! 全然学習してないじゃない! とにかく! その半分……1/3でも十分なくらいだから! それにしても、FPになってからもアホみたいに稼いでたみたいだけど、お金、どうしたのよ? まさか全部仕送りしちゃったの?」
「あ、いや……ぶっちゃけお金になる様になったのは2年前くらいからだから、実際はそこまで稼いでないって……仕送りもしてたし、冗談抜きに殆どお金残ってないよ……」
「……また一応聞くけど、たくみの殆どって……いくら?」
「え? ホント少ないよ? 1000万あるかないか──」
「ふざけるんじゃないわよ! 私の蓄えの倍以上あるじゃない! ……ハァァァァ、まずその狂った金銭感覚から教育しなくっちゃ……ホント、世話かかる……伊織さんもさぞかし大変だったろうな……」
「ご、ごめんなさい……ま、まぁ……今後はリサに任せるから……もう怒らないで、ね?」
「……ま、いいわよ。これから一般常識も含めて徹底的に叩き込んでいくから!」
「お、お願いします。で、俺のちょっと狂った金銭感覚を治すってのが次のステップで……良かったの?」
「あ! そうだった……あまりに衝撃的な話ですっかり忘れてたわ。……これからが……重要な話ね。次は……ちょっと大変だよ。最悪また壊れちゃうかもしれないけど……覚悟はいい?」
「そう言われると……ちょ、ちょっと怖いけど……やるよ。……何?」
「過去と……向き合わなくちゃ」
「──え?」
「元の原因を解決しない限り、寛解しないから。根本療法の基本だよ。それくらい、たくみだって……本当は分かってるでしょ?」
「…………」
「そろそろ……顔出しに行きなよ。……美幸さん、その妹さん達の元に」
「……そ、それは……」
「怖い?」
「……見ての通り、震えが止まらなくなるくらいには……」
「その過去を……清算しなくっちゃ。一生……治らないよ」
「で、でも……」
「きっと……大丈夫だから。……もし、酷い思いして心が折れても……私が付いてるから。……前に進まなきゃ……ね」
「…………」
「何があっても……私がまた……治してあげるから……ね?」
「わ……分かった」
「……頑張って」
「……はい」
これが……5年という長い月日を経て加藤が美子ちゃん達の元へ行く事になった真相である。もしこの時、リサが促してくれなければ、加藤の時計はあの時のまま止まったままであったであろう。心の傷は残ったままであったであろう。
この訪問により、加藤の運命は再び大きく動き出し、そして──全てを捨ててまで尽くしてくれたリサとの別れがやってくる事となる。
……今思えば、リサはその未来が……この時きっと見えていたのであろう。
望めば違う未来を描く事ができたのに……それを選ぶ事ができたのに……そうしてもきっと誰も責めなかったのに……
補足?
ま、見ての通りです。
元々はリサに関しては「営業物語」(現役時代)という視点では殆ど絡みがなかったので気合で省略する予定でした。よって、上記の様な出だしにしていました。が、真相は「壊れる前に一度顔を出しておこう」ではなく「リサに促されたから」でした。正直「たら」「れば」の想定は苦手ですが、自分1人だったら顔を出す事が出来なかった可能性が高いですかね・・・
で、ご存知の通り(?)、その再開後に大きく色々運命が動いていく事になるのですが、この「会いに行く」事をしなければ、今でもあの古民家でひっそりリサと共にスローライフを送っていたでしょうね。
ホント・・・この時が運命の分かれ道でした。。
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