色恋何でも屋 #3
■案件3:彼女と別れたい、浮気の証拠を挙げてくれ(手段は選ばず)──報酬:達成後100万
「……ま、まさかまた依頼が来るとは……」
「ね? やっぱ需要あるでしょ? 賭けは私の勝ちだね。昼ご飯は……かに道楽だね♪」
「……な、なんかあすかにいっつもクソ高い昼飯奢ってるだけの様な……うぅ、ちょっと財布の中身が寂しいよ~」
「ミッション達成すれば、そのくらい子供の小遣いだから♪ 頑張ろ! ね♡」
「ま、その通りだけどね……」
「さて、この案件だけど……1件目と同じ流れでOKだから、簡単でしょ? はい、これがターゲットの子、美咲ちゃんの写真ね」
「──! こ、これは///」
「あ……よく見たらちょっと伊織さんに似てるね。もしかして、気に入っちゃった?」
「ちょ、ちょっとね……えっとさ……例の流れで紹介してくれるまではいいけど、その後は俺に任せて貰っていいかな?」
「ん? 別にいいけど……目的達成出来るの?」
「た、多分ね。で……その後は煮るなり焼くなり、どうとでもしていいんだよね」
「ま、依頼が別れたいだけだから、その後はどうしようが問題ない筈だけど……ま、まさか──」
「い、いや~、まだ分かんないけど、流れでそのまま付き合うのもアリかな~ってね。いいでしょ?」
「──え? いや……その……」
「あすかだって言ってたじゃん、いい子がいたら彼女にするなり喰っちゃうなりすればいいって。よくよく考えたら彼女なんて暫くいなかったから、そろそろアリだよね。あすかも応援してくれるでしょ?」
「う、うん……」
「じゃ、あすか、こないだみたいに仲良くなってきて、紹介して」
「う、うん……分かった……行ってきます……」
これで3度目の依頼、今度こそミッション達成しなければ、財布が持たない! ターゲットが好みという事もあり乗り気な俺に対し、いまいち乗り気じゃないあすか。果たして結果は?
──……
いまいち乗り気でないあすかであったが、仕事は完璧であった。見事にターゲットの懐に潜り込み仲良くなり、俺が偶然を装い出会った際もあすかの見事なフォローの甲斐もあり、俺の第一印象はバッチリ。もしかしたらここでアプローチしても上手くいったかもしれないくらいだ。
前回と違い、今回はここから俺の腕の見せ所である。その日のうちにターゲットと連絡先を交換した俺は、連日で2度のデートと食事を重ね仲を深めていった。あすかに伊織さんというややこやしい女性の相手をしてきた俺にとって、普通の女性の相手は赤子の手をひねる程、簡単な作業である事をこの時、初めて知った。
そして、いよいよクライマックスの日へ。正直、2度のデート後に誘えば堕ちたであろうが、不確定要素も大きかったが為、あえてターゲットの日のみの尾行でOKという事をあすかに知らせていた。そう、あくまでも目的は決定的証拠の写真をカメラに収める事なのだから……!
美咲さんは見た目によらず、肉食系女子の雰囲気がプンプン漂っている。いや、よくよく考えたら伊織さんもその気があった様な……このタイプは皆そうなのであろうか?
食事を終え、街を歩く2人。美咲さんは大胆にも腕を組んで身体をピッタリ寄せてくる。……俺が誘わなくても、彼女からホテルへ入るくらいの勢いを感じる。
性格こそ伊織さんと全く違うとはいえ、外見は伊織さんそっくりの美咲さん。久しぶりに胸の鼓動が早くなり、ときめきの音が聞こえてくるのが分かる。
ふと、あすかはちゃんと着いてきているだろうか、気になって彼女にバレない様に後ろを振り返る。……ピッタリ20m後ろをキープしている、流石だ。あすかにこれからいくぞ! という意味を込めて、サムアップ合図を送る。それに対し、あっかんベーで返すあすか。傍から見れば、さぞかし滑稽に見えたであろう。
やがて、ホテルが立ち並ぶ通りへ。意を決し、美咲さんを誘う俺。
「ちょっと、寄ってかない? 美咲さんの全て知りたいから」
「……いいよ♡」
心の中でガッツポーズ! それを気付かれぬ様に平静を装う俺、ちょっと嬉しそうな美咲さん。
早速、彼女に気付かれぬ様、あすかに合図を送る。
──作戦、成功。今から2件目にあるあのホテルに入る。頼むぞ!
後ろ手のみでの合図だったが、きっとあすかならこの意図を理解してカメラにその瞬間を収めるであろう。
そして、目的地のホテルに到着、入ろうとした瞬間──
「たくみ君、何やってるの?」
「──え? あ、あすか?」
「もう! また浮気しようとして! 私はたくみ君の一体、何なのよ!」
「お、おま……何を……」
「私のたくみ君、取らないでよ! あなたなんか、たくみ君に合わないんだから!」
「……やっぱりアキラさんと瞳さん、そういう仲だったんだ……ゴメンね、私邪魔ものだったね……サヨナラ! お幸せに!」(ダダダッ……)
「「ぁ……」」
……すんでの所で、まさかのあすかの暴走! 結果……ミッション失敗!
──夜、反省会
「アホ! なんであそこで出てくるんだよ!」
「い、いや……頭では分かってたつもりなんだけど……気が付いたら勝手に身体が動いちゃって……たくみ君が他の女と一緒になるのは……辛くって……」
「もう! そりゃ……俺もあすかに後ろめたさもあったし……前回の件であすかの気持ちもよく分かるから……あ、ありがとね、あすか。意外に嫉妬されるって嬉しいもんだね……」
「……ま、仕事は失敗に終わったけどね」
「……やっぱりアホー! 後少しで上手くいったのに!」
「いや、たくみ君だって────!」
「そういうあすかだって────!」
今回は後1歩の所でミッション達成出来なかった2人。果たして2人が報酬を手にする日はくるのか? ……こないだろうな、こんなんじゃ……こんなアホみたいな事を繰り返しつつ、さらに深い絆で結ばれていく2人であった。
鬼電
──4月下旬頃
「──?! な、何だこの不在着信……3日で138件……? 前の会社から……? 何で……?」
「ん? 知らないの? 今、会社で凄い大騒ぎになってるって事」
「……え?」
「何か支社長だけじゃなく、本社のお偉いさんまで何人も来てるみたいだよ」
「へ、へぇ……そんな大事件があの営業所で起きたんだ。……小橋さん、とうとう保険金詐欺か何かやらかして捕まった?」
「www あの人ならホントにやりそうだけど、そうじゃないわよ。そんな事になってる原因は、たくみ君だから」
「──?!」
「今、営業所──いや、支社全体でたくみ君の大捜索が行われているみたいだよ。是が非でも引き戻したいって」
「──?! い、意味分からん……俺なんてそこら中にいるダメ営業マンの1人に過ぎない──」
「全国レベルの超優績者が何言ってるのよ! そんな人がいきなり辞めたとなれば大騒ぎになるに決まってるでしょ!」
「い、いや……お前が俺の事、散々ダメ営業マンって言ってきたじゃん……」
「ジョークに決まってるでしょ! そもそも、この私が本当にできない人間と一緒にいる筈ないじゃない! それくらい分かりなさいよ!」
「……お前ってそういうヤツだったな……すっかり忘れてたよ……」
「……今なら、きっとビックリするくらいの好条件で戻れるよ? トレーナー飛び越えて支部長の席だって用意して貰えるかもしれないよ? ……いいの?」
「www それじゃ、お前を楽しませる未来にならないじゃん」
「茶化さないで! 私は本気でたくみ君の事を思って──」
「そんなんじゃ、この業界を一新して金融リテラシーの高い集団に生まれ変わらせられないから」
「──?! な、何を……言ってるの?」
「1人でも多くの困っている人を救う為にはどうしたらいいかって話だよ」
「そ、それだったら会社に残って内部から変えていけばいいじゃん。たくみ君だったら20代で営業部長だって……もしかしたら30代でそれ以上だって夢じゃないじゃない!」
「www 小橋さんにも似た様な事、言われたよ。けど、それじゃ時間かかり過ぎるし、そもそも業界を変えられないから」
「…………」
「俺は……欠陥人間だからさ……人の上に立つ資格も幸せになる資格もないから。……これから化け物になって……俺にしかできない方法で1人でも多くの人を救わなきゃ。そして多くの罪を背負って、壊れながら逝かなきゃ」
「一体何をしようとしてるの? 多くの罪を背負うって……ま、まさか──」
「保険業界を……俺が一度ぶっ壊して再構築しようかな~ってね」
「……!」
「ま……ぶっちゃけ、その入り口にすら辿り着けるか分からんけどね。せめて、一石くらいは投じれたらな~とは思ってるよ」
「相変わらず……バカだね。……けど、たくみ君らしいね」
「って、やっぱ戻ろっかな~。俺の年で営業部長なんて、エリート中のエリートじゃん。きっと女も選り取り見取りで遊び放題だろうな~。そういう人生も──」
「そんな事、絶対できないクセに……」
「い、いや……俺だって人並みの男だから、ちょ、ちょっとくらいはそういう野望もあるって……」
「はいはい、そういう事にしておいてあげる」
「……ま、きっとサクセスストーリーは見せれないと思うけど、それなりに楽しませられる筈だからさ。……期待しててよ」
「……うん」
補足?
色恋なんでも屋の内容は一旦おいといて……自分の退職が大問題になったのは実際に辞めてから1ヶ月弱くらいが経過した時でした。
- 地元の某有名企業の保険をドカンと残していた。(過去書いた様に、営業所の年責の〇%に達するレベルの大きさ)
- 退職に至るまで成績はむしろ絶好調。
- プラスオンで某企業の出入り許可及びキーマン保険の契約の話が舞い込んでいた。
この話、物語では1年目にしていますが、リアルでは「辞める間際」でした。まぁ、それぞれ1つの理由だけでも大騒ぎなのに、3つ程重なったよ~と。
今なら会社の大騒ぎっぷりがよ~く理解できますが、当時は「は? 何で?」でした。毎日の鬼電、それが九重を始め、自分に関連すると思われる人物にも同様に……
えぇ、この時の鬼電のおかげで、軽く「電話恐怖症」になったくらいです。
で、物語では如何にもカッコいい事言ってますが、リアルでは「実は住処に来たら話を聞く気満々だった」というのが正解だったりして。
「自分を必要としているなら、自分の住処くらい容易に見つけられるだろが!」
何言ってるんだ、コイツ……と思うかもですが、仮に大森が転勤せずに営業所にいたのならば、数日で自分に辿り着けたでしょう。更には、勝野に至ってもかつての様に本業(保険屋)をやっていたならば、同じく数日で自分に辿り着けたでしょう。
「自分の仕事をしていた地区内の店や喫茶店で軽く聞き取りでもすれば、あっという間に自分に辿り着けれた」
自分の営業手法なんぞ、飽きる程色んな人に話していましたから。
「いやいや、そんな訳分からん意地なんかはってないで、普通に話聞けばよかったやん!」と今なら思えてしまいますが……当時、微妙に病んでましたので笑(本当に必要な人材なら見つけられるだろ? 見つけられないなら、その程度にしか思ってないだけじゃん、とか……メンヘラ入ってましたね)
この訳分からない思考、分かる人どれくらいいますかね?
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