第12話:悪魔の使者、再び……
──11月中旬(日高ちゃんとデート前夜)
「……えっと、あすか、ちょっと相談があるんだけど」
「ん? 何?」
「俺……彼女、作っていい……かな?」
「ん? いいに決まってるじゃん。何で私に聞くの?」
「あ、いや……ホントにいいのかな~ってちょっと思ってね」
「良かったじゃん、彼女出来て。……それ、伊織さんでしょ?」
「──は? 違うって。何で伊織さんがここで出てくるの? 伊織さんとはそんな間柄じゃないから」
「あれ? てっきりそうだと思ったのに。じゃ、どんな子? 今度私に紹介してよ」
「あ、一応一緒に撮った写メあるけど、見る? ……この子」
「ど~れ。……たくみ君……現実見よ? こんなアイドルの子との合成写真で仮想恋愛してちゃダメだって」
「い、いや……俺もそこまでアホじゃないって。これ……リアルだから。あ、一応他にも写メもあるけど、見る?」
「……たくみ君、やっぱりそんな趣味あったの? アイドルのブログの写真で彼氏気取りって……病院行く?」
「いや、ホントだって! 嘘だと思うなら、明日デートするから、こっそりついて来て見てみなよ!」
「え~、明日たくみ君とデート? ……しょうがないな~。休日だけど早起きしてあげる」
「い、いや……あすかとデートする訳じゃないから。彼女候補の子、日高ちゃんとデートだから」
「……どうせその子、何かの都合で来れないってなって、私とデートする事になるんでしょ?」
「そんな事にならないって! ホントのホントだから!」
「よく考えたら朝からデートするの、初めてだね」
「……聞いてないし……」
──翌日
「おはようございます、たくみさん♪」
「あ、おはよ。……ん? たくみさん?」
「あ、そう呼ばれるの嫌でした?」
「い、いや/// な、何か照れるな~って」
「www 私の事もこれから下の名前で呼んで下さい」
「え……い、いいの?」
「はい♡」
「で、では早速……ゆ、百合……ちゃん……って、い、異様に照れるね///」
「www まるで付き合いたてのカップルみたいな会話してますね、私達」
「……えっと、俺らって……もう付き合ってる事に……なるのかな?」
「いいえ、違いますよ?」
「あ……そ、そりゃそうだよね。日高ちゃ……百合ちゃんみたいな子が俺なんかと釣り合う筈ないし、ね。こうやって一緒に出掛ける事が出来るだけで奇跡だよね、ホント。は、ははは……」
「……だって……まだ聞いてませんから」
「え? な、何を?」
「……たくみさんの気持ち、それに、交際申し込みの言葉」
「……///」
「私は……ずっと待ってるんですけどね。たくみさんが言って下さるのを」
「──! そ、それって……ホ、ホントに?」
「……今日のデートの終わりに……聞かせて下さい」
「は、はい!」
「じゃ、行きましょうか♪」
──21時、夜景が見える公園
「……今日もホント、楽しかったよ。ありがとね、百合ちゃん」
「いえ……私も楽しかったです。……キレイな夜景ですね」
「……百合ちゃんのが断然キレイだよ。夜景なんかより、百合ちゃんをずっと見ていたいよ、俺は……」
「……相変わらずですね」
「ゆ、百合ちゃん! お、俺と──」
「あれ~? たくみ君、偶然だね~、こんな所で会うなんて」
「──は? あ、あすか? な、何で?」
「ん? この子が昨晩言ってた今度の新しい彼女候補の子? へぇ~、そこそこ可愛いじゃん。……私程じゃないけど」
「え、えっと……あ、あなたは──」
「ん? 私はたくみ君のフィアンセだよ。彼ったら女遊びが激しくってね~。いっつも女の子、取っ替え引っ替えしてるの。最後には私の所に戻ってくるって分かってるから、私は気にしないけどね」
「──?! お、お前……な、何を……」
「あ、これからホテル? 別にいいけど、避妊だけはちゃんとしてね。あの子みたいになったら後で面倒だから」
「──! あ、あすか! な、何デタラメいってるの! ゆ、百合ちゃん、コイツの言う事は信じ──」
「(パシーン!)たくみさんの事……信じてたのに! ……サヨナラ!」ダダダッ……
「ゆ、百合ちゃ──」
「あ……行っちゃったね。ちょっと軽くからかっただけなのに」
「……」
「冗談の通じない子だね」
「……」
「たくみ君、また振られちゃったね。……ドンマイ♡」
「お、おま……な、何て事を……」
「これくらいの事で去ってく様じゃ、どのみち長持ちしないから」
「アホ! あんな事言われたら誰だってあーなるわ! うぅ、せっかくあんな可愛い彼女が出来たと思ったのに……」
「けど、別に本気じゃなかったんでしょ?」
「それは……そうかもだけど、付き合ってたら本気になったかもしれないし!」
「あ、それはムリだよ。過去の私が何よりの証拠だから♪」
「け、けど! あんな可愛くていい子相手だったら──」
「幻聴で毎晩うなされている人が、無理に決まってるじゃん」
「うぅぅぅ……百合ちゃん、俺の心のオアシスだったのに……」
「私がいるからいいじゃん」
「ま、そうだけど……うぅぅぅ……まさかあのタイミングで偶然こんな場所にあすかが出てくるなんて……何てついてない……」
「……そんな偶然、ある筈ないじゃない。……ずっと見てたんだから……!」
「──は? ど、どういう事?」
「たくみ君、言ったじゃない。こっそりついて来て見ればいいって。その通りにしたまでだよ」
「え……ま、まさか……朝からずっと……?」
「ホント、私の一日返してよね。延々とあ~んな可愛い子とのイチャイチャぶりを見せつけられて、さ。……凄いイライラして、悲しくって、辛くって……思わず邪魔しちゃった。……ごめん……ね」
「ま……いいよ。俺こそ……ごめん。逆の立場だったら、俺も同じ事したかもしれないし。……やっぱ俺、彼女作らない方がいいかな?」
「あ、別に作ってもいいよ。ただ……また暴走しちゃったら……ごめんね」
「……いいよ。……こうやって嫉妬されるのも、悪くないね。ちょっと……かなり嬉しいかも」
「……バカ♡」
「さ~て、本来だったらまだデートしてる時間だけど……振られちゃったから、あすか、付き合ってよ」
「しょうがないな~、私が慰めてあげる♡」
「……あれ? デジャヴ? ちょっと前に全く同じ展開があった様な……台詞すら殆ど変わってないし」
「気のせいだよ。夢でも見たんじゃない?」
「……だよね。まさか2回もこんな事ある筈ないし。しかも殆ど前と同じパターンなんて、ね」
「♪」
「ぁああああ! 日高ちゃんとかなりいい所までいってたのに! もうダメか~! 失恋か~! かなり好きになりかけてたのに~!」
「www ホントは私に妨害されて嬉しいくせに~」
「──?! な、何、バカな事を……」
「だって、私に言うって事は、それを期待してたって事でしょ?」
「ち、違うって! そんな事、の、望む筈ないじゃん! これでも落ち込んでるから!」
「www そういう事にしておいてあげる♡」
こうして絶世の美女、日高百合との関係はあっけなく終焉を迎えた。九重の妨害さえなければ、当たり前の様に付き合って、彼女を本気で好きになって、そのままゴールインしていた……であろう。が──結果はコレである。
悪びれる様子もなく俺の右腕に無邪気にしがみついてくる九重に軽い怒りを覚えながらも、嫉妬を喜び、結末に満足している加藤がいた。
──百合ちゃんが神様の使者なら、コイツは悪魔の使者、か。そして、俺は……悪に魅入られ、破壊神になる……これがやっぱり俺の運命か。
九重がいる限り、彼女が出来る事は一生ないであろう、ましてや結婚なんて……が、それでもいいか、九重が傍で笑ってくれるなら……と感じた少し肌寒い11月の夜だった。
挿話?
日高百合──仮にこの子と付き合っていたら・・・普通に会社に残っていたでしょう。えぇ、物語に軽く書いた様に、この子との再会があったが為に退職時期が想定よりかな~り延びた・・・といっても過言じゃありません。「俺はいばらの道を歩むぜ!」と強く決心した後ですら・・・グラグラ揺らいで一旦は違う未来を描きましたから。自分にとって、それくらいの存在でした。タイミングがほんの少し違えば、きっとこの子と結婚して全く違う人生歩んでいたでしょう。
それなのに・・・ねぇ・・・
「これくらいの事で去ってく様じゃ、どのみち長持ちしないから」
一体九重のこの台詞を何回聞いただろうか・・・えぇ、ホント、ある意味「悪魔の使者」でしたよ・・・別にいいんですけどね・・・
ちなみに、本当は章はじめよりこの日高ちゃんを絡めて書こうと思っていましたが、文才がないが為、こんな風に分けて書く形を取りました。
「退社の決意をまるで阻止するかの様に、保険が異様に取れ出し、かつ出会い(?)があり、何度も決意が酷く揺らいだ」
これを書きたかったのですが、上手く伝わるかな?
次回は・・・「決意をやめる事をやめる」的話。正直、これが一番個人的に大きく・・・決定打だったかな?
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