保険業界から一番クレームを受けた男

保険業界から一番クレームを受けた男 序章:色恋何でも屋 #6

序章:色恋なんでも屋保険業界から一番クレームを受けた男
スポンサーリンク

色恋何でも屋 #6

■案件6:片思いの子と付き合いたい(手段は選ばず)──報酬:達成後100万

「こ、これは……こ、恋のキューピット役……の依頼?」

「ほら、やっぱ来たでしょ? 賭けは私の勝ちだね。昼ご飯はフレンチね♪」

「うぅ……よくもまぁ次から次へと高級料理ばかり……あすかは悪女や……財布の中身が~」

「今回だって、たくみ君が言い出した事じゃん。私はもういいよって言ってるのに、勝ち逃げは許さない、ずるいぞ! って言って」

「ま、まぁそうだけどさ……まさか6連敗とは……」

「これくらい、依頼が成功すれば子供の小遣いレベルでしょ」

「……未だ依頼達成した事ないけどね……」

「さて、今回の依頼だけど──アキラはどう思う?」

「……合わせればいいのね。──今回は瞳の出番はないかも」

「──?! どういう事? アキラ」

「瞳、自分の特性を思い出してごらん。皆、瞳の魔性の魅力に男はメロメロになってたじゃない。依頼主と瞳があったら、どうシミュレーションしても瞳の虜になって依頼自体なくなる事、必至だから」

「流石ね、アキラ。完璧な読みだわ。確かに私にはそれだけの魅力があるわ。あぁ、何て罪な女なの、私は……」

「……続けるけど、要するにターゲットが依頼主に惚れればOKなんだよね。だったら、俺が悪役に徹すれば……ね(ニヤリ)」

「──! そっか! たくみ君がターゲットの女をナンパして、嫌がっている所を依頼主が颯爽と現れて助ければいいんだ! たくみ君、冴えてるじゃん!」

「(……漸く戻ったよ……)」

「じゃ、私は……助けた後にその子とさり気な~く仲良しになって、依頼主の男を裏でプッシュすれば──いける! 今回は絶対いける!」

「……だよね。今までみたいに失敗する要素、皆無だし。強いて言うなら、俺が汚れ役しなくちゃいけないのか……もうちょっといい役だったら良かったな~」

「贅沢言わないの! はい、これがターゲットの写真ね。ちゃんと覚えてね」

「……あれ? な~んか見た事ある様な……気のせいかな……」

「こういうタイプの顔の子は多いから、気のせいだよ。じゃ、早速、レッツゴー!」

 これで6度目の依頼、今度こそミッション達成しなければ、財布がホント持たない! が、今回は今までと違い、失敗する要素が皆無。きっと成功する筈だと目論む2人。結果は果たして──?

──……

 今までと違い、先陣を切るのは俺である。依頼主に聞いたターゲットの行動パターンより、バイトの帰り道に一人になったところを俺がナンパ、嫌がっている所を依頼主が助ける、というシナリオに決定した。

──大丈夫! たくみ君は普段通りに声かければいいだけだから。普通の子は、絶対嫌がるから、自信を持って!

 喜んでいいのか悲しんでいいのか分からないあすかのアドバイスを胸に、ターゲットが現れる瞬間をひたすら待つ俺。4つ隣のビルの片隅にいる依頼主に視線を向けると、こちらに気付き、ニヤリと笑ってサムアップで返してきた。やる気満々の様である。依頼主と逆側の位置にはあすか。視線を向けると、笑顔でファイトのポーズを返してきた。

──ブルブルブル……

 ズボンのポケットから振動が伝わる。それに気付き、ズボンから携帯を取り出す。どうやらあすかからのメッセージの様だ。どれどれ……

──自信を持って! たくみ君なら絶対いけるから! あなた程、第一印象が悪い人なんて世界中探しても数える程しかいないから! その才能を遺憾なく発揮して!

……悪びれる様子もなくこの様な事を言うあすか、相変わらずである。

 

──き、来た!

 いよいよ、である。2人の熱い視線と期待が離れていても伝わってくる。その思いを胸に秘め、いざ!尋常に勝負……!

 

「ね、ね~ちゃん、可愛いね~。ちょ、ちょっとお茶いかない?」

 我ながら完璧である。ナンパでこの台詞、しかも噛みまくり。嫌われ要素の宝石箱である。

「……」

 ターゲットの女はキョトンとした顔をして無言である。当然の結果であろう。

──か、勝った! お、俺はやったぞ! よし、さらに追い打ちだ……!

「いい店、知ってるんだよね。一緒にいかない? いいじゃん、いこ!」

「……」

 ターゲットの女は相変わらずキョトンとしている。当然であろう。こんな声掛けされて喜ぶ女の顔が見てみたいものだ。

──完璧だ! よし、ここだ! 来い……! 来い──

「……いいよ。丁度暇してたから。……いこ!」

「──は?」

「いい店ってどこ? 楽しみだな~」

「え、い、いや……」

「あれ? もしかして~、そこまで考えてなかったの?」

「は、はい……路上ナンパ自体初めてだったので……」

「www だよね~」

 何故か楽し気な雰囲気になってしまう2人の後ろに、空気を読まずに訪れる黒い影。そう、依頼主である。

──ダ。ダメだ! こ、ここで来ては! 今は引け……! 頼む、気付け、気付け、気付け────!

「お、おい! お前、何やってるんだ。彼女嫌がってるだろ!」

「あれ? 浩紀? どうしたの? ──あ、今からこの子と飲みにいくから、邪魔しないでね。じゃ~ね~」

「えっ……」

 茫然と立ち尽くす依頼者を残し、夜の街へと消えていく俺とターゲットの女。

……まさかのナンパ成功……第一の関門、まさかの突破ならず……!

 

──い、いけない! こ、こんな展開は想像してなかったわ……たくみ君の事だから、きっと全てを彼女にバラしてしまうわ。そうなったら、全てがおじゃん……! 私が行くまで、何とか耐えて……お願い……!

 俺の思わぬトラブルに気付き、慌てて尾行を開始するあすか。果たして彼女は間に合うのか──?

──……

──音楽バー

「──という事だったんです。すいません!」

「やっぱりね~。そんな事だろうと思ったわよ。浩紀、ホントウザい!」

──お、遅かった……ま、間に合わなかった……せめて後1分私が早く着いていれば……って、入店早々バラす事ないじゃない! 後でじっくり反省会しなくっちゃ! さて、取りあえずたくみ君を回収するか……

「ところで、何で俺なんかの誘いに乗ったんですか?」

「……好みだったから」

「──え?」

──え?

「君、織田裕二に似てるってよく言われるでしょ? 私、ファンなんだよね~。それでもって変に擦れてないときたら、誘いに乗らない方がどうかしてるわよ」

「──///」

──な~に顔赤くしてるのよ! このバカ! それにしてもこの女……何? はっ! こ、この胸騒ぎは……

「私は水野恵理。あなたの名前は?」

「か、加藤たくみです」

「たくみ、こんな出会いだけど、よろしくね」

「こ、こちらこそ、恵理さん」

「……依頼じゃなかったら、私に声かけなかった?」

「い、いえ……そ、そんな事は///」

「顔赤くしちゃって、たくみ、可愛い~」

「//////」

──ま、全く何でこんな事になってるのか分からない……私に分かるのは、な~に2人の世界に入ってるんだ、このバカ! という事だけ……

「年上の女は……イヤ?」

「い、いえ……そんな事ないです///」

「じゃ、私と付きあ──」

「はい! そこまで! たくみ君、帰るわよ!」

「えっ? ちょ、ちょっと────」

 

──反省会

「たくみ君のバカー! 何ナンパ成功させてるのよ! しかも速攻でバラしてるし!」

「い、いや……お、俺が一番驚いてるよ……頭真っ白になって思わずバラしちゃったよ……」

「信じられない! しかもその後、何故かいい雰囲気になってたし! あんな年増女のどこがいいのよ!」

「気、気のせいだって……テキトーに話合わせて抜け出すつもりだったから……」

「私がいなかったらどうしてたのよ!」

「いるって信じてたから……あすかなら絶対俺の傍にいてくれるに違いないって。回収してくれるって……だから、もしもなんて考えてなかったよ」

「たくみ君……ありがと、こんな私をそんなに信用してくれて。……嬉しい♡」

「……ま、仕事はいきなり失敗に終わったけどね」

「……やっぱりバカー! そもそもね~、たくみ君が────!」

「そういうあすかだって────!」

……まさかのビギナーズラック発動で初動から失敗! 当然の事ながら、ミッション達成ならず! 今回の教訓……恋のキューピット役って意外に難しいのね、という事。そして、この仕事でオイシイ思いは絶対ムリだよね、という事。

 余談ではあるが、加藤が織田裕二に似ていると言われたのはこれが最初で最後であった事を付け加えておく。

代理店手数料

──とある日、九重が某外資系生保の代理店の資料を持って来た時の話

「──な、何だこれは……? 保険料の約6割が手数料……? しかも初級代理店でこの数字、ランクあがったら一体どれだけ貰えるんだ……?」

「ね? 代理店の事を知ると、色々バカらしくなるでしょ? 仮にたくみ君が最初から代理店やって保険売ってたら、今頃ビルの一つや二つくらいは持ててたかもね。少なく見積もっても3倍くらいは余裕で差があるし」

「…………」

「代理店だったら特に出社義務もないし、煩わしい人間関係もないし、お金も良いし、自由にやれるしでいいこと尽くめじゃん!」

「でもこれ……お客さんの為になるのかな……?」

「……え?」

「だって、手数料高すぎだと思わん? 俺、この手数料の話を聞いたら保険加入、躊躇しちゃうぜ? 実は保険料の半分以上は販売Feeです~、なんて」

「あ、い、いや……」

「国内生保だと販売Fee低いけど、別に安くないし……あ、それは単に保険屋に還元するかしないかの差に過ぎない訳か。だから、保険会社はアホみたいに自社ビル持ってるんだ」

「ちょ、ちょっと……?」

「そうか……そういう事か……何で外資が日本にこぞって参入してくると思ったら、付加保険料をクソ高くして当たり前の様に売れるからなんだ……保険加入率9割という国民性も相まって、べらぼうにオイシイ訳か……という事は……日本は海外と比べて保険料が割高であるという仮定が成り立つ……?」

「な、何を……?」

「ありがと、あすか! 何となく今後の方向性のヒントになりそうだよ。──さ~て、海外の保険について調査していくか!」

「…………」

 

──応用力(発想力)の化物

加藤の秘めたる才能が──一気に開花しようとしていた。

 

 余談ではあるが、保険代理店の手数料を聞き、加藤の様に思う人は一体どれだけいるであろう? きっと多くの人は「オイシイ」と感じるだけであろう。その結果──日本の保険料は世界と比べて2-3倍高いという現実は、未だに変わらぬままである。

補足?

色恋なんでも屋は例の如くおいといて──代理店の手数料を知った時、何か生保業界はアコギなんじゃないか、なんて思ってしまいました。いくら何でも手数料高すぎね?と。(こういうところが、モロ商売人として失格だと自分でも思います。ホント、今も昔も変わらんです……)

当然、世の商売で利益率が高いものが多く存在するという事は知っています。が、実は保険料の半分以上が純保険料ではなく販売Feeです、という事をお客さんに堂々と伝えられるか?と。

そこから発展、何故に日本市場に乗り込んでくる外資系生保が多いのか、という視点になり……そして「海外生保は安い──いや、日本だけがクソ高い」という真実にたどり着く事に。

……この時は流石に九重もドン引きしていましたね。何で代理店の手数料の話からそんな風になるんだ!と……

今思えば、この時くらいから畑口の英才教育(?)の成果が出始めていたのでしょうね。(畑口が言うには、私は一切関係ないとの事でしたが)

コメント

タイトルとURLをコピーしました