保険業界から一番クレームを受けた男

保険業界から一番クレームを受けた男 序章:色恋何でも屋 #4

序章:色恋なんでも屋保険業界から一番クレームを受けた男
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色恋何でも屋 #4

案件4:彼女と別れたい、浮気の証拠を挙げてくれ(手段は選ばず)──報酬:達成後100万

「……な、なんか……世の中荒んだ人が多いね……また似たような内容が……」

「ね? やっぱ来たでしょ? 賭けは私の勝ちだね。昼ご飯は……今日はサンマルクでいいや♪」

「……ま、こないだ蟹に比べればマシだけど……この数週間であすかにいくら奢っているんだろう……」

「ミッション達成すれば、そのくらい子供の小遣いだから♪ 頑張ろ! ね♡」

「ま、その通りだけどね……」

「さて、この案件だけど……前回と同じだね。 はい、これがターゲットの子、千晶ちゃんの写真ね」

「あ、この子なら大丈夫。タイプじゃないから、ホテルいっても何もしない自信あるよ」

「私もこの子相手なら絶対嫉妬しようがないから、大丈夫♪」

「じゃ、あすか、前回みたいに仲良くなってきて、紹介して」

「まっかせて! 報酬入ったら豪遊だね♪」

 これで4度目の依頼、今度こそミッション達成しなければ、財布がホント持たない! が、今までの経験から、今度こそいけると踏んだ2人。結果は果たして──?

──……

 あすかの仕事は相変わらず完璧であった。見事にターゲットの懐に潜り込み仲良くなり、俺が偶然を装い出会った際もあすかの見事なフォローの甲斐もあり、俺の第一印象はバッチリ。ホント、ここまではいつも完璧であり、もしもここまでで報酬が貰えるなら、2人ともかなりの大金を稼ぐ事が出来るであろう。

 今回も前回と同様、俺がここから動く事となる。好みのターゲットではないものの、今までの経験は伊達ではなく、見事にターゲットの心を掴んでいく俺。意外に俺は本当にホストでも食っていけるんじゃないか……そんな錯覚すら覚える程、怖いくらいに順調に事は進んでいる。例の如く、2日間の準備期間を経て、いよいよクライマックスの日へ……!

 千晶さんは彼しか男を知らないが為、かなり奥手ではある。が、内心は冒険したい自分を隠し切れない、といった感じだ。仕掛けは流々、確実に誘いに乗ってくるという確信を俺は持っていた。

 食事を終え、街を歩く2人。ちょっと内向的な千晶さんの肩を強引に抱く俺。驚きながらも顔を赤らめ、胸の鼓動を早くさせている様子が手に取る様に分かる。……俺もこんな時、あったなぁ……と苦笑しながら昔を思い出す。同時に、いつの間にかこういうトキメキをすっかり忘れてしまっている自分に気付き、何か悲しい気持ちになった。

 ふと、あすかはちゃんと着いてきているだろうか、気になって彼女にバレない様に後ろを振り返る。……ピッタリ20m後ろをキープしている、流石だ。あすかにこれからいくぞ! という意味を込めて、サムアップ合図を送る。それに対し、笑顔でピースサインを返すあすか。今回はあすかも余裕だ。

 やがて、ホテルが立ち並ぶ通りへ。意を決し、千晶さんを誘う俺。

「ちょっと、寄ってかない? 千晶さんの全て知りたいから」

「……優しく、ね♡」

よっしゃ! 100万ゲット! ──それを気付かれぬ様に平静を装う俺、恥ずかしそうに顔を赤らめながら下を向く千晶さん。

 早速、彼女に気付かれぬ様、あすかに合図を送る。

──作戦、成功。今から2件目にあるあのホテルに入る。頼むぞ!

後ろ手のみでの合図だったが、きっとあすかならこの意図を理解してカメラにその瞬間を収めるであろう。

 そして、目的地のホテルに到着、同じ過ちを犯さぬ様、あすかの方をさりげなく振り向く。それに気付いたあすかは、何かを達観した笑顔を一瞬見せ、サムアップの合図を返す。この表情を見た瞬間、あるシーンが頭に再生された。

──ホント、私の一日返してよね。延々とあ~んな可愛い子とのイチャイチャぶりを見せつけられて、さ。……凄いイライラして、悲しくって、辛くって……思わず邪魔しちゃった。……ごめん……ね

……そうだった。あすかはこういう子だったんだ──表では笑っていても、内心は辛いんだ……

 このままいけば、数十秒後、目標は達成される……報酬ゲットだ。あすかでも、千晶さん相手なら嫉妬しない筈だ。俺だって手を出す前に抜け出す理性というか自信はあるし。いけ! さっきのあすかの表情は忘れろ、気のせいだ、忘れ──ダダダダッ……

「ごめん! あすか、悲しい思いさせて!」

「──え?」

「俺の前では強がらなくていいから、甘えていいから、耐えなくていいから!」

「……やっぱりアキラさんと瞳さん、そういう仲だったんだ……ゴメンね、私邪魔ものだったね……サヨナラ! お幸せに!」

「「ぁ……」」

……すんでの所で、毎度の痛恨のミス! 結果……ミッション失敗!

──夜、反省会

「バカ! なんでいきなり私の所に来るのよ! 私なら大丈夫って言ったでしょ!」

「って……あすか、メチャクチャ辛そうな顔してたじゃん。……他の人は気づかないかもしれないけど、俺には分かるって……放っておける訳、ないじゃん」

「もう! そりゃ……嘘だって分かっていてもあんな女と仲良さそうにしているのを見るのは辛くて……思わず泣いちゃいそうだったけど、さ……あ、ありがとね、たくみ君。ホント、凄く嬉しかった♡」

「……ま、仕事は失敗に終わったけどね」

「……やっぱりバカー! 後少しで上手くいったのに!」

「いや、あすかだって────!」

「そういうたくみ君だって────!」

 今回も後1歩の所でミッション達成出来なかった2人。果たして2人が報酬を手にする日はくるのか? ……こないだろうな、こんなんじゃ……ま、それなりに楽しいからいっか! と割り切りつつある2人であった。

営業センスにコンサル力

「あすか、今日これから勉強しに行ってくるわ!」

「ん? どこに行くの?」

「いや~、たまたまメルマガの読者の人でプ〇デンシャルの全国レベルの人がいてさ~、これから会う事になったんだよ。雲の上の様な存在だけど、爪の垢を煎じて飲ませて貰おうかな~ってね」

「www そんな大したもんじゃないから。ま、期待しすぎないようにね~」

「な、何を……プ〇の営業マンってだけでも凄いのに、全国レベルだぜ? 凄いに決まってるじゃん!」

「www ま、この機会に現実を見るのも悪くないんじゃない? じゃ、明日感想聞かせてね~」

「…………」

 国内生保で生きてきた加藤にとって、外資系のコンサル力に営業力は滅茶苦茶優れているもの、という先入観を強く持っていた。これは加藤のみならず、国内生保で働いている多くの人が感じている事であろう。それを「ただの幻想だよ」と言い切る九重に対し、何て世間知らずなヤツなんだ、と思ったのは言うまでもない。が……実は世間知らずは九重ではなく──

 

──翌日

「──で、昨日どうだった? 何か為になる事あった?」

「……結論から言うと、お前の言う通りだったよ」

「www でしょ? あの人達、営業のえの字もできてないでしょ?」

「……クロージングとかトークばかり磨いて、アプローチの工夫が皆無だし……ある意味ビックリしたよ」

「ま、外資系は営業方法が確立してなくてみんな紹介オンリーでやってるからね。だからみんな、2-3年くらいしか持たないんだよね。そもそもそれで食べていけるなら、みんなマルチで大成するじゃんねw」

「お、お前……何でそんな事知ってるんだよ……」

「ん? クラブで働いてた時、ちょくちょく外資系の人来てたから。みんな最初は自信に満ち溢れてるけど、暫くしたら現実知ってみるみるうちに顔色悪くなるんだよねw」

「でもって、紹介オンリーでやってるならさぞかし紹介を貰う創意工夫とかしてるかと思ったら……勝野さんのが数倍マシなレベルだったし……」

「あの人はマルチでも大成できるレアな人だから。……たくみ君程じゃないけどね」

「いやいや、俺は大した事ない──」

「携帯屋とかカメラ屋と組んだり、喫茶店を拠点にしたり、創意工夫の鬼だったじゃない! 挙句の果てに地区全体を職域に見立てて自己のタレント化までして……とっくの昔に勝野さんを超えてたから!」

「……未だ自覚全くないけどね」

「それは置いといて、コンサルも意外に大した事なかったでしょ?」

「……知識も教科書レベルで、子供の教育費一つとってみても薄っぺらかったね。年間の教育費は〇万ですって……人それぞれ違うに決まってるじゃね~か、とか。何て言うか、リアリティがなかったね」

「そうそう、夢とかそういう言葉でごまかしてフワッてしてるんだよね~。全てが保険ありきの話というのも意味不明だし。現時点でも、たくみ君のが数倍マシなコンサルしてるからね」

「し、知らなかった……俺、既に外資のコンサル以上の事やってたんだ……」

「ま、私から言わせるとまだまだだけどね~。例えば、たくみ君のコンサルだと医療保険をちょくちょく提案してるけど、実際に医療保険が本当に必要な人なんてそうそういないから」

「──?!」

「死亡保険だって、リアルに考えていったらある程度妥協して生きる為に費やした方がいい人だって実際は多いだろうし」

「──?!」

「後、保険金だけが遺産じゃないじゃない。別に現金だって不動産収入だって立派な遺産でしょ? 保険はあくまでも金融商品の一つに過ぎないって事、まずは認識しなくちゃね」

「お、お前……凄いな。なんかお前のが独立系FPに近い様な……」

「何言ってるの? これくらい、保険業界に携わってちょっと勉強した人なら誰でも持ってる知識だから。ね? たくみ君がまだまだだって事、よく分かったでしょ?」

「そ、そうだったんだ……何となく俺、実は人より優れたコンサルとかやれてる気がしてたけど、そこらの人より劣ってたんだ……ちょっと落ち込むよ」

「ドンマイ♡ これから精進していかないとね」

 

 加藤が慢心せず、ひたすらまい進する事ができたのは、九重の「ダメ出し」のおかげであったといって過言ではないであろう。自分は人より出来ない方だ、普通の人はきっとこれくらいはやれるであろう──想像の中で膨らませていった理想像は、やがて加藤を保険業界を震え上がらせる破壊神へと変貌させていく事となる。

補足?

色恋なんでも屋の話はおいといて……外資系生保の現実を知ったのはこれくらいの時期だったでしょうか。それなりに有名なメルマガを運営していた事もあり、通常では出会えない様な人達と出会う機会に恵まれていました。その中で、某外資の人との面談は、ある意味衝撃でした。

「紹介オンリーで顧客開拓をしていく、新規飛び込み等一切しない」

……バカじゃないか、と。これで食べていける筈ないじゃん、と。

当然、中にはこの紹介オンリーでどうにかなる人もいるでしょう。が、はっきり言うと「そんな人、レア中のレア」ですからね。(それこそ、これでいける人ならばマルチでもやった方が稼げる様な……)

当たり前の話ですが、紹介オンリーでやっていく為には自身のカリスマ化が必須です。それと同時に、異様な程のコミュ力が必須です。そうですね、テキトーに何らかのサークルに入ってどこでも中心人物になれる人ならば、やっていけるかな?

……ここら、努力でどうにかなるものだと思います? どこぞかに書いた記憶ありますが、「どれだけ努力しようが、ダンディ坂野はさんまさんになれない」のが現実ですからね。

話が逸れました。

「何か明後日の方向で努力して、本質の努力を一切していない」

これが自分が抱いた感想でした。営業で成果を挙げるなら、足を動かすのは必須。頭を動かすなんぞは、ある程度実績が出てからで十分ですから。(基本もできてないのに、テクに走ったところでたかが知れているのはどの業種でも同じですよね?)

トーク力? クロージング力?
んなもんを鍛える暇があったら1件でもお客さんのところに足を運ぶ方が数倍マシ。そもそも、保険営業においてトーク力もクロージング力も殆ど不要ですから。

で、コンサル。
これに関しては「おぉ、流石プ〇デンシャル!」と感銘を受けるかと思いきや、正直「え? この程度だったの?」と思ったのが事実でした。

良くも悪くも相手を大きく見すぎる性質の自分は現役時代より「外資だったらきっとこうであろう」なんて妄想しては色々と試行錯誤していました。結果、気が付いたら「少なくとも外資系の人に萎縮しないレベルのコンサル力」が身についていたよ、と。

……ここまではまだ「まともなコンサル」で、当時はまだ保険屋さん達に人気ありました。(ま、普通に売る側として参考になるコンサルだったと思われるので)

が……ある段階より「売る前提のコンサル」ではなく「売らない前提のコンサル」へとシフトしていった結果、、、保険屋さん達、去っていきましたな~。(ま、当然っちゃ当然でしょうが)

と、また話が脱線している気がするので、気合でまとめに入ります。

「営業は新規開拓できてナンボ。それを一切やらない外資系は、国内生保にも劣る」

これが全てですかね。

……って、まとめにも何にもなってないですね、すいません。

あ、ちなみに物語は比較的史実に忠実に進んでいきますので、もう少し「これ、FPと全然関係ないだろ!」という話がもうしばらく続きます。今しばらくお付き合い下さいませ。

 

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