色恋何でも屋 #7
■案件7:片思いのあの人と付き合いたい(手段は選ばず)──報酬:達成後100万
「こ、これは……ま、また……こ、恋のキューピット役……の依頼?」
「ほら、やっぱ来たでしょ? 賭けは私の勝ちだね。昼ご飯はタイの宮廷料理ね♪」
「うぅ……一見安そうだけど、どうせ会計時に何度も見直す程の値段だろうな、これ……あすかの鬼!……財布の中身が~」
「別に無理しなくてい~よ。じゃ、今回は割り勘で行く?」
「い~や! 情けは無用! その代わり、次こそは……!」
「たくみ君、将来ギャンブルで破産しそう……」
「……さて、今回の依頼だけど……今までで一番難易度高いね」
「ん~、男の人を振り向かせる……私なら楽勝だけど、この子が、となると……ん~……ちょっと確実じゃないかもだけど、この手でいこうかな……」
「ほぉ、今回はどんなプランよ?」
「たくみ君が依頼主の女性にしつこく付きまとうキモいストーカー役やって、その子がターゲットの男に相談に乗って貰っているうちに仲良くなっていき……という流れ♡」
「え? お、俺……そんな汚れ役? なんか、こう……もうちょっといい役ないの? 例えば……その女性が俺に好意をもって楽しそうにしているのをその男に見せつけ、嫉妬心を煽るとか……」
「(ハァ──……)たくみ君、現実見よ? そんな事あると思う? 3年くらいかければ可能性はゼロじゃないかもだけど、その類稀なる第一印象の悪さを誇るたくみ君が短期決戦で好かれるなんていう離れ業、出来る訳ないじゃない!」
「やってみなきゃ分かんないじゃん! こないだの事、忘れたの?」
「じゃぁ、試しにナンパしてみせてよ! 万が一上手くいったら、たくみ君のシナリオ通りにしてあげるから!」
「あぁ、見事にナンパしてやるよ! 俺の底力、見せてやる!」
「無理だと思うけど! これ、写真! ちょうど今日2時間後に●●ビル前で待ち合わせして打ち合わせで会う予定だったから! 沙織ちゃんね!」
「分かった! 行ってくる! ちゃんと俺の雄姿、見とけよ!」
──フフフッ……計算通り! 絶対ムキになって動くと思ったわ。万が一の時は何とかおだててまたナンパさせてキモがってる彼女を私がさり気なく助けて、そこから汚れ役やって貰うつもりだったけど、杞憂だったわ! たくみ君、しっかりやってね♡
まんまとあすかに乗せられ、勢いでナンパするハメになった俺。7回目の依頼? そんな事はどうでもいい! あすかに一泡吹かせてやる! 結果は果たして──?
──……
昼下がりの午後、俺はとあるビル付近で佇んでいた。勢いでナンパしてやる! と言ってしまったものの、冷静に考えるとどう考えても上手くいかないのは火を見るよりも明らかであろう。
──ハ、ハメられた……! あすかのヤツ、俺がムキになる事を計画にいれていやがったな……!
ふと10mほど先から何やら視線を感じ、そちらに目を向けてみる──あすかである。視線が合うや否や、勝ち誇った笑顔でサムアップの合図。すかさず、首切りサインを返す俺。それに対し、一本背負いの真似をするあすか。ま、まさか……
──ブルブルブル……
携帯のメッセージだ。
──大丈夫、ちゃんと手加減するから、私を信じて。私に身を任せて自然体で、ね♪ ……手加減失敗したらゴメンね♡
どうやらあすかは本気らしい。どうにかして他の妙案を考えないと……俺は最悪今日死んでしまうかもしれない……ナンパしてキモがられ女性に一本背負いを喰らい打ちどころが悪くて死亡……如何にもマスコミが飛びつき、長年ネタにしそうな間抜けな死因だ……こんな形で歴史に名を残すのは……絶対避けなくてはいけない……!
何とかしなくては、と焦れば焦る程、頭が真っ白になって何も思いつかない。時間は刻一刻と進んでいく。しょうがない、最後の手段、あすかに泣いて土下座して許して貰うか! と意を決した瞬間──!
「お兄さん、誰かと待ち合わせ?」
「──え? い、いや……」
「私、ドタキャン喰らって急に暇になったんだけど、良かったらお茶でもしない?」
「──え? あっ、え??」
「私とじゃ、イヤ?」
「え、い、いや……そ、そんな事は///」
「じゃ、行こ!」(グイッ!)
「えっ、ちょ、ちょっと────」
……まさかの逆ナン、連れ去られる俺……! 斜め上過ぎる展開に頭が付いていかず、ただポカーンとみているあすか。
──い、いけない! こ、このままではたくみ君が……! ただ、後10分で依頼主との待ち合わせ……! たくみ君を追えば、仕事がおじゃん……! 追わなければたくみ君は……! わ、私はどうすれば──
究極の選択を迫られたあすか。果たして彼女が選んだのは──?
──昼間からやってるショットバー
「──へぇ、いい名前ね。私の事は玲子って呼んで」
「よ、よろしくです、れ、玲子さん///」
「照れちゃって、たくみ、可愛い~w 食べたいちゃいくらい」
「//////」
──ま、間に合った~。それにしても、ま~た微妙にいい雰囲気になってるし! ホント、バッカじゃない! すぐにでもたくみ君を回収して100本組手やりたい気分だけど、もう少し様子をみるか……
「私、こう見えてもこうやって声掛けたの、たくみが初めてよ」
「──え?」
「私が一番驚いてる。ただ、今この人に声を掛けないと二度と会えないと思ったら、気が付いたら……ゴメンね? こんな年上の女性なんてイヤでしょ?」
「い、いや/// そ、そんな事ないです。お、俺もこんな風に声掛けられたの初めてで……ビックリしましたけど……俺、嫌だと思った人に付いていく事、絶対ないですから……」
──な、何、この女。ある意味天才的ともいえる第一印象の悪さを誇るたくみ君を……? い、一体何が起きてるの……? この胸騒ぎは……な、何?
「……思い切って声掛けてよかった♡ 勇気出してみるもんだね。……ちょっとたくみの肩、貸して貰っていい?」
「え? ど、どういう──」
「こういう事♡」(肩に頭乗せ)
「──///」
「……ちょっと酔っちゃったみたい。……いかない?」
「──え?///」
「……いこ♡」
「は、は──」
「はい! そこまで~! たくみ君、帰るわよ!」
「えっ? ちょ、ちょっと!────」
──反省会
「たくみ君のバカー! 何逆ナンされてるのよ! 完全に仕事忘れてるし!」
「い、いや……お、俺が一番驚いてるよ……頭真っ白になって思わずフラフラ~っと……」
「信じられない! しかもその後、何故かま~たいい雰囲気になってたし! あんな年増女のどこがいいのよ!」
「気、気のせいだって……テキトーに話合わせて抜け出すつもりだったから……」
「ホテル行こうとしてたじゃない!」
「いや、ちょっとあすかを困らせようかなって……いるの分かってたし。……嫉妬して貰いたかったのかな……だから、いつも通り回収してくれて……こんなに怒ってくれて……嬉しかったよ」
「たくみ君……バカ♡……嬉しい♡」
「……ま、仕事はいきなり失敗に終わったけどね」
「……やっぱりバカー!」
「そういうあすかだって────!」
「いや、たくみ君だって────!」
7度目の依頼、まさかの依頼主との打ち合わせをブッチする形になり、当然依頼キャンセル! 果たして報酬ゲット出来る日はやってくるのか? 今回の出来事がきっかけで、あすかととんでもない対決をするハメになるとはこの時は想像すらしていなかった。
vs.ベテラン国内生保レディ
「──それにしても、あのベテラン生保の人、中々に笑えるね。たくみ君を次元が低いとか、経験が浅いとか。たくみ君をリアルで知っている人なら恥ずかしくて絶対言えないよねw」
「ま、保険業界は長年生き残った人が神という世界だから。その視点でいったら、たかが4年の俺なんて、言葉通りまだ右も左も分からないひよっこに過ぎないからね」
「それにしても優績者と会ったり話をしたら感動するって……たくみ君の真実を見抜けない人が何言ってるんだろうねw」
「いや、見抜かれない様に細心の注意払ってやってたからこれでいいんだよ。あくまでもどこにでもいるうだつが上がらない営業マンという設定じゃなきゃ、共感得られないし。優績者達に気に入られたところで、それは少数派にしかならないからね」
「けど……大多数の優績者じゃない人達が集まったところで、あまり意味ないんじゃ……」
「……奴隷は皇帝を刺す、だからね」
「……たくみ君、漫画の読み過ぎだよ。確かに優績者の人達は既得権益の為に変化は望まないだろうけど、大多数の生保レディにも生活があるから動かないってw」
「──?! い、いや……過去の革命だって民衆が動いて歴史が動いたじゃん!」
「www その市民を動かしたのは、反勢力のお偉いさんでしょ? 市民だけじゃ何もできないからw」
「そ、そんなのやってみなくちゃ分かんないじゃん! 反勢力のお偉いさんが俺につくかもしれないし!」
「www もしそんな事になったら、たくみ君の願い事、一生何でも聞いてあげるわよ」
「あ……絶対無理だとバカにして……クソ! 絶対後悔させてやる!」
「wwwwww」
業界を一新させると志だけは高いものの、何一つその力も術も持っていなかった加藤、傍らで笑う九重──思い返してみればこの頃が一番幸せだったかもしれない。
──叶わない夢に憧れる平凡で静かな人生
皮肉な事に、この穏やかな日々は……長く続く事はなかった。
補足?
色恋なんでも屋については次回か次々回でダダっと書くとして……今回は「設定」の話を少々。
たくみの暴露日記の付け足しあたりから色々黒歴史等を暴露していると同時に、実績についても暴露している事にお気づきの方、どれくらいいるでしょう?
今でこそ「あぁ、たくみさんだからね、それくらいはやってたでしょ」という感じで限りなくスルーしている読者の方、きっと多いでしょうが……当時のメルマガ及びHP初期をご存知の人(流石に当時を知る人は限りなく少数だと思いますが)は黒歴史以上の衝撃を受けているかも、ですね。
「は? 何がせいぜい地区レベルに過ぎないごく普通の営業マンだよ! 化物レベルの超優績者じゃないかよ!」
数字だけみれば、こんなツッコミもきっとあるでしょうが、冗談抜きに自己評価は「できない方」と思っていましたので。(自分に会った事のある人なら、納得するでしょう。えぇ、かつてのメルマガや初期HPの自分ですら盛ってね?とすら感じた人が大半だったでしょう)
よって、設定……というより、素の自分に近い、というのが正解ですね。
「は? 意味分からん。それでもアホみたいに数字あげてたんでしょ? それを前面に出した方が有利だったんじゃない?」
こう思われる方、きっと多くいるかと思います。が……仮にメルマガ及びHPが「元営業部長の」とか「元トレーナーの」という設定だったらどうなっていたと思います?
自分だったら「ハッ……所詮エリートの戯言が。外野の苦労は外野にしか分かんね~んだよ!」と見向きもしなかったでしょう。えぇ、これの応用、優績者という肩書なら「ハッ……所詮~」と同じく見向きもしないな、と。
「ぅわ……わざとできないフリして、性格悪!」
な~んて九重あたりによく言われましたが、リアルに自分は「できない事の方が多い」ですからね。基本、どこの職場にいっても自分は「落ちこぼれる」自信があります。
……といいつつ、ちょくちょく「この出来損ないのクズが……!」みたいなご意見を頂戴していたのですが、ちょ~っと腹立ってゴニョゴニョ反論していたのも事実ですけどね笑
強いて自分が他の人より数倍優れている事をあげるなら……
「自分のできない事・苦手な事を明確に把握している」
「できない人の気持ちが人一倍理解できる」
という事でしょうかね。
と、、、何か設定の話から脱線している気がするのでこの辺で。
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