色恋何でも屋 #5
■案件5:彼と別れたい、浮気の証拠を挙げてくれ(手段は選ばず)──報酬:達成後50万
「……依頼だけはたくさん来るね……未だ報酬ゼロだけど……」
「ほら、5件来たでしょ! 賭けは私の勝ちだね。昼ご飯は日本懐石ね♪」
「うぅ……まさかの蟹以上があったとは……あすかは魔性の女や……一体いくらあすかに貢いだ事になるんだ、この1ヶ月ちょっとで……」
「変な事言わないで! そもそも賭けを言い出したの、たくみ君じゃん!」
「ま、まぁ……そうだけどね……」
「こんなキレイな私と一緒に食事出来るだけでもラッキーでしょ! 本当だったら私なら1時間1万は取れるんだから!」
「……あすか、そんなデート商法まがいな事までやってたの?」
「やる筈ないでしょ! 例えば、の話よ! よくそういう誘い受けるのは確かだけどね♪」
「……流石は歩く親父キラー……」
「脱線はこの辺にして、今回は簡単だね♪ 3日もいらないかも」
「ま、まぁ……あすかの手腕は前に見てるから、確かにね……」
「私を信用して! 前みたいに絶対暴走しない事!」
「わ、分かったよ……そろそろ報酬ゲットしないと、ホント財布の中身キツイから……」
「ホント、大した事じゃないから。ただ、万が一の時は……たくみ君、慰めてね♡」
「……わ、分かった。無理のないように、ね……」
「は~い♪ じゃ、いきますか!」
今回の案件は余裕と高を括るあすか。軽やかにターゲットに近づいていくあすかを少し離れた場所で隠れてカメラ片手に見守る俺。……今度こそは耐えて賞金ゲットだ!
──……
今回の案件は余裕だよ、というあすかの言う通り、あっという間にターゲットの男に近づき、見事に仲良くなる事に成功するあすか。
ターゲットの男は当たり前の様にあすかに見惚れ、遠目に見ても鼻の下をのばし、あすかにどんどん夢中になっていく様子が見て取れる。2回目とはいえ、それが演技だと分かっていても、あすかが他の男と楽しそうにしている様をみるのは胸が張り裂ける思いだった。この感情は……間違いなく嫉妬であろう……
翌日会う約束をしたと嬉しそうに話すあすかに対し、複雑な思いを抱えながらも笑顔で返す俺。そして、クライマックスの日がやってきた。
■何ともこじゃれたバーで飲むあすかとターゲットの男。
──あっ、あすかの肩を抱きやがった……クソ! あすかももっと嫌がれよ! 何やってるんだよ!
そんな俺の心をまるで見透かしているかの様に、俺の方を軽くみて勝ち誇った様な笑顔でウインクするあすか。それに対し、中指を立て口の動きでアホ! という俺。仮に傍から見ている人がいたとしたら、その様子は非常に滑稽に見えたであろう。
2時間程経過、店を後にするあすかとターゲット、そして少し遅れて後を付いていく俺。2人を見失わない様、20m程度後をキープ。ここまでは完璧である。
やがて2人はホテル街へと歩を進めていった。いよいよ、である。相変わらず男は馴れ馴れしくあすかの肩を組んだままだ。腸が煮えくり返る思いで2人を凝視していると、男に気付かれぬ様あすかがチラチラこちらを見ている事に気が付いた。きっと、俺が付いてきているかを確認しているのであろう。
──大丈夫、俺はシャッターチャンスを必ずものにするから!
そういう意図と共にサムアップで合図を送る俺。それに対し、少し顔をゆがめながら指鉄炮の合図を送るあすか。要するに、今度はしっかりね! という事であろう。
2人はホテルまで10mという距離まで来ていた。このままいけば、数十秒後、目標は達成される……報酬ゲットだ。あすかなら、きっとうまく切り抜けられる筈だ。大丈夫! 俺は鬼になるから! あすか、上手くやれよ! その瞬間をとらえようとカメラを構えていると──ダダダダッ
「(ギュッ!)たくみ君!」
「──?!」
「辛い思いさせてごめんね! 私、もうどこにもいかないから!」(ギューッ!)
「──?!」(あまりに意味不明な展開にただただ茫然とする俺)
「…………」(茫然と立ち尽くすターゲットの男)
……すんでの所で、毎度の痛恨のミス! 結果……ミッション失敗!
──その後、反省会
「アホ! なんであそこで戻ってくるの! 俺なら大丈夫って言ったじゃん!」
「……たくみ君、食事の時から凄い辛そうな顔してたじゃん。分かるよ、それくらい。……私はたくみ君だけいればいいから……」
「もう! そりゃ……正直凄い嫉妬したよ……あすかがこんなにモテるなんて知らなかったし……胸が張り裂けそうだったよ……あ、ありがと、あすか。あんな男とホテルいかないで戻ってきてくれて……ホント嬉しかった」
「……ま、仕事は失敗に終わったけどね」
「……やっぱりバカー! 後少しで上手くいったのに!」
「そういうたくみ君だって────!」
「いや、あすかだって────!」
今回も後1歩の所でミッション達成出来なかった2人。毎度毎度似た様なパターンで失敗を繰り返すうち、実はこの仕事、向いていないんじゃないかと思い始めた2人であった。
保険診断、誕生秘話?
「うぅぅ……俺、やっぱりお前が言った通り、ダメ営業マンだったんだ……」
「ん? どうしたの?」
「いや、お前がターゲットを仕込んでいる最中に保険診断しませんか? っていうチラシ作って飛び込みしてみたはいいけど、3日回って成果ゼロだったんだよ……」
「www そんなの当たり前じゃない。どこのバックボーンもなしにしかも有料で保険診断なんて飛び込みでどうにかなる筈ないじゃない。そんな事、少し考えれば分かるでしょ?」
「い、いや……少しくらいは反応あるかな~とは思ってたんだけどね。ここまでFPが世間に浸透してないなんて……うぅぅ、想像以上に前途多難だ……」
「案外、メルマガに保険診断やりますよ~って告知したら意外に人来たりしてw」
「え~、俺、ロクに保険の事とか書いた記憶ないぜ? なんか保険会社の悪口ばっかり書いてる気するし」
「けど、たくみ君の人格が出てるじゃない。案外、たくみ君に診断して貰いたいって思ってる人、いるかもよ~」
「ま……告知するのは別に無料だし、シャレでメルマガで募集してみるか」
……限りなくシャレで募集した保険診断、今思えばこれが独立系FPへのはじめの一歩であった。
補足?
例の如く、色恋なんでも屋はおいといて……最初のFP活動は「有料保険診断の飛び込み営業」でした。ぶっちゃけ、やる前は「それなりに需要あるんじゃね?」なんて思っていたのですが、結果はボロボロ……全く手ごたえなくて中々にショックでした。
よく言われたのが「え? 何で保険診断するのにお金が必要なの?」「で、どこの保険会社なの?」という事。えぇ、第三者的視点から保険診断するよ~というFPという存在自体がびっくりするくらい認知されておらず……
「FPで食っていくなんて、やっぱり無理じゃん!」
な~んて思い、確かその時の事をメルマガで愚痴ってシャレで「保険診断やってみたい人、いる?」と一文書いたら、ドカドカっと依頼が……
と、これが保険診断誕生秘話でした。
……これがなければ、独立系FPではなくそこらの保険代理店になっていた可能性が非常に高かったでしょう。でもって、その後大きく跳ねる事もなく平凡な人生を送っていたのかな~と。ホント、ここから今までが可愛く思える程の波乱万丈の日々が待っているとは夢にも思わず……
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