保険業界から一番クレームを受けた男

保険業界から一番クレームを受けた男 序章:色恋何でも屋 #2

序章:色恋なんでも屋保険業界から一番クレームを受けた男
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色恋何でも屋 #2

■案件2:彼と別れたい、浮気の証拠を挙げてくれ(手段は選ばず)──報酬:達成後50万

「……ま、まさかまた依頼が来るとは……」

「ね? 言った通りでしょ? 賭けは私の勝ちだね。昼ご飯はひつまぶしね♪」

「なんか前回と同じ様な内容だけど、今度は男女が逆か……」

「今回は簡単だね♪ 3日もいらないかも」

「え? 俺、あすかみたいに初対面の人と即仲良しになる特技なんてないよ?」

「今回はその必要ないよ~。たくみ君はカメラマンに徹するだけでいいから♪」

「え? ど、どういう事?」

「知ってるでしょ? 私が今までどれだけの男に言い寄られて、付き合ってきたか。やった事はないけど、ちょっと色目使って接すれば、簡単に私に言い寄ってくる筈だから♡」

「い、いや……多分あすかなら出来ちゃうんだろうけど……その、ホテルまでいっちゃう……の?」

「大丈夫! すんでの所で逃げてくるから。前にも言ったけど、私、柔道の黒帯だし。並の男じゃ私に勝てないから」

「い、いや……万が一だってある……んじゃない?」

「その時はその時だよ。たくみ君だって身体張るんだから、私だって、ね♪」

「ん、ん~……」

「大した事じゃないから。ただ、万が一の時は、たくみ君、慰めてね♡」

「……わ、分かった。無理のないように、ね……」

「は~い♪ じゃ、いきますか!」

 

 今回の案件は余裕と高を括るあすか。軽やかにターゲットに近づいていくあすかを少し離れた場所で隠れてカメラ片手に見守る俺。……一体、何をやっているのだろう……

──……

 今回の案件は余裕だよ、というあすかの言う通り、あすかはあっという間にターゲットの男に近づき、見事に仲良くなる事に成功。

 自分でキレイすぎるのは罪というだけの事はあり、あすかはひいき目なしに誰がみてもキレイなレベルである。そんな彼女に言い寄られて、断る男なんてこの世に存在するだろうか? ターゲットの男も例外ではなく、遠目に見ても鼻の下をのばし、あすかにどんどん夢中になっていく様子が見て取れる。仕事とはいえ、それが演技だと分かっていても、あすかが他の男と楽しそうにしている様をみるのは胸が張り裂ける思いだった。この感情をあすかに抱いたのは、我ながらビックリである。

 翌日会う約束をしたと嬉しそうに話すあすかに対し、複雑な思いを抱えながらも笑顔で返す俺。そして、クライマックスの日がやってきた。

 

■何ともこじゃれたバーで飲むあすかとターゲットの男

──あ、あすかの肩を抱きやがった……クソ! あすかももっと嫌がれよ! 何やってるんだよ!

 そんな俺の心をまるで見透かしているかの様に、俺の方を軽くみて勝ち誇った様な笑顔でウインクするあすか。それに対し、中指を立て口の動きでアホ! という俺。仮に傍から見ている人がいたとしたら、その様子は非常に滑稽に見えたであろう。

 2時間程経過、店を後にするあすかとターゲット、そして少し遅れて後を付いていく俺。2人を見失わない様、20m程度後をキープ。ここまでは完璧である。

 やがて2人はホテル街へと歩を進めていった。いよいよ、である。相変わらず男は馴れ馴れしくあすかの肩を組んだままだ。腸が煮えくり返る思いで2人を凝視していると、男に気付かれぬ様にあすかがチラチラこちらを見ている事に気が付いた。きっと俺が付いてきているかを確認しているのであろう。

──大丈夫、俺はシャッターチャンスを必ずものにするから!

そういう意図と共にサムアップで合図を送る俺。少し安心した様な表情を一瞬見せるあすか。この表情を見た瞬間、あるシーンが頭に再生される。

──そうだよ。強がってるだけで、ホントは寂しがり屋で臆病で弱い……んだから。

そうだった。あすかはこういう子だったんだ──表では強がっても、内心は不安でしょうがないんだ……

 

 2人はホテルまで10mという距離まで来ていた。相変わらず、あすかは例の表情を浮かべながらこちらをチラチラ見てくる。このままいけば、数十秒後、目標は達成される……報酬ゲットだ。あすかなら、きっとうまく切り抜けられる筈だ。大丈夫、鬼になれ、俺! 耐えろ、耐えるんだ──

「おい、お前、何やってるんだよ! 俺の女に何しようとしてるんだよ!」

「な、何だね? き、君! し、失礼だな! 彼女とは──」

「お前こそ、何なんだよ! 汚い手であすかに触るんじゃねーよ! 消えろ!」

「ひ、ひぃ……」(ダダダ……)

……すんでの所で、またしても痛恨のミス! 結果……ミッション失敗!

 

──その後、反省会

「バカ! なんであそこで出てくるのよ! 私なら大丈夫って言ったでしょ!」

「って……あすか、メチャクチャ不安そうな顔してたじゃん。……他の人は気づかないかもしれないけど、俺には分かるって……放っておける訳、ないじゃん」

「もう! そりゃ……あんな男、イヤでしかたなかったし、私を守ってくれたのは嬉しかったけど、さ……あ、ありがとね、たくみ君。ホントはちょっと怖かったから……ちょっとカッコよかった♡」

「……ま、仕事は失敗に終わったけどね」

「……やっぱりバカー! 後少しで上手くいったのに!」

「いや、あすかだって────!」

「そういうたくみ君だって────!」

 

 今回も後1歩の所でミッション達成出来なかった2人。果たして2人が報酬を手にする日はくるのか? ……というか、何をやっているのだろう、俺もあすかも……

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