たくみの営業暴露日記 Epilogue Asuka #5 あの頃のように……
──12月某日
「──って、こんな事もあったんだよね。笑えるよね」
「…………」
「あ、ごめん。ちょっと喋り過ぎちゃったね。疲れちゃうよね、聞き役ばっかりだと」
「…………」
「ふぅ……今日は雪も軽く降ってるくらいだから、ちょっと寒いね。石油ストーブつけてても微妙に冷えるし」
「…………」
「あすか……俺の前に座りな。後ろから抱きしめて暖めてあげるから」
「…………」
「あ~……こうやってると、あの頃を思い出すな~。覚えてる? 真昼間の街中の路上で恋愛ドラマのワンシーンみたいに抱きしめ合った事あったじゃん?」
「…………」
「今だから白状するけど、あの時凄いドキドキしてたんだよね。あすかを異性として思いっきり意識しちゃってさ……思わず禁を破っちゃおっかな~なんて……ね」
「…………」
「けど……あすかはフィアンセいたし、俺は男として見られていないと思ってたし……下手に手出して関係崩れるのはイヤだな~……って」
「…………」
「ホント、チキンだよね。あの時手を出していればって……どれだけ後悔したか分からんよ」
「…………」
「そういえば、いっつも俺に彼女ができそうになる寸でのところでお約束の様にあすかが現れて……妨害されまくったよな~。俺に彼女作ってもいいよ~遊んでもいいよ~とか言いながら、さ。……これはもう知ってるかもだけど……毎回期待してたよ、あすかに妨害される事を……」
「…………」
「あすか、伊織さん大好きだったよな~。いっつも伊織さんのアイコラ作って、物語にまで登場させたりして……俺と出かけるより伊織さんと出かける方が断然ウキウキしてたし……本気でその気があるんじゃいかと勘繰ったくらいだよ、ホント……」
「…………」
「だからか知らんけど、俺と伊織さんをいっつもくっつけようとしてさ……内心複雑だったっつ~に、ホント……ま……ぶっちゃけ、俺もまんざらでもなかったのは事実だけど、さ……やっぱり寂しかった……というのが本音かな……」
「…………」
「結婚式の日は強烈だったな~。式だけ済ませて2次会以降ブッチしてうちに来て……意味不明だったよ。しかもそこから旅行までいっちゃうし……ホント訳分からんかったよ。ただ……あの時はホント……涙が出るくらい嬉しかったよ……救われたよ……」
「…………」
「それから……色々やったよな~。占い師やったり恋愛応援ビジネスやったり……探偵みたいな事もやったっけ……全く銭にはならんかったけど……滅茶苦茶貧乏もしたけど……今思えばあの時が一番楽しかったかな~」
「…………」
「ただ……ちょ~っと辛かったかな~。当たり前の話だけど、夜、あすかいなかったし……基本土日や祝日は1人だったし……このまま一生、こういう関係のままいるのかな~、寂しい夜を過ごすのかな~って……まるで女みたいな事言ってるね、俺……。伊織さんに言わせると、俺はノーマルでいる事が奇跡らしいよ、普通だったら絶対おかまになってるんだって」
「…………」
「伊織さんが倒れた事を知って……俺が血相変えて会いにいって……それから色々上手くいくようになったから、お前は思いっきり誤解してたと思うけど……多分、会いに行かなくても結果は変わらんかったと思うよ……」
「…………」
「ま……今だから白状するけど、寂しさ紛らわす為にがむしゃらに動いてた……だけだったりして。使命とか大成する為にとか、そういうのじゃなくて……さ。ま、保険屋時代も似た様な動機で動いてたらたまたま成果がそれなりに出た~というだけ……だったりして。……幻滅した? これが本当の俺だよ。俺はスーパーマンでも何でもなく、今も昔も普通に憧れる……寂しい欠陥人間に過ぎないから」
「…………」
「ただ、さ……お前は俺がスーパーマンでいる事を望んでると思ってたからさ……そうなる為には、1人にならなくちゃいけないと思ってさ……嘘ついてまで……さ……」
「…………」
「いや……嘘って訳でもないか。伊織さんの為に死んでもいいって思ってたのは事実だし……何とか言って好きだったから……さ……。けど……長くないって事も知ってたからさ……お前の望みと伊織さんの望み、一緒に叶えられて一石二鳥じゃん……って……」
「…………」
「お前の希望した、誰にもできない様な面白い人生、見せる事できたと思ってたよ……俺はどうなっても構わないから、お前さえ幸せでいてくれたら……喜んでくれるのなら……って」
「…………」
「まさか……あすかが俺と同じだったなんて……夢にも思わなかったよ」
「…………」
「俺が一番望んだのは……あすかの幸せで……あすかが望んだのは俺の幸せ……じゃ、どうすればいいか……こんな簡単な問題の答えに……こんなになるまで気付かなかったなんて……ホント俺もお前もバカだよな……」
「…………」
「5年くらい前だっけ? あ~、あの頃に戻ってやり直したいな~。そしたら、今頃……────ッ」
「…………」
「せめて3年前に戻れたら……────ッ」
「…………」
「何で……こんな事になっちゃったんだろ……────ッ」
「…………」
「あすか……戻って来てよ。笑顔……見せてよ。声……聴かせてよ。俺の事……また……たくみ君って呼んでよ」
「……────ッ」
「──?! あすか? 俺の事……分かる?」
「────ッ」
「ご、ごめん……傷つけちゃったね。あすかは今のままでも全然いいから。どんなになってもあすかはあすかだし、あすかの傍にいられるだけで俺は十分幸せだから」
「────ッ」
「一生このままでもいいから。ずっと面倒見るから。もう後ろ向きな事も言わないから……ね」
「────ッ」
「俺はずっと一緒だから。絶対離れないから」
「────ッ」
「あすか、愛してる。これからもずっと……一生この気持ちは変わらないから。もう間違わないから」
「────ッ」
最期の会話
その日の夜、不思議な夢を見た。まるで現実の様な……異様にリアルな会話は今でも頭にこびりついている。
──たくみ君、久しぶり。大分、老けたね。
──そりゃ、ね。もう31歳だし。分類的にはもうおっさんだからね。あすかだってもう29歳じゃん。四捨五入したら俺と同じ三十路じゃん。
──www 元気だった?
──ん~……あまり元気じゃなかったかも。色々あったからね。
──伊織さんの事……ごめんね。
──いや、あすかのせいじゃないよ。伊織さんの運命だっただけだから。俺こそごめん、あすかに伊織さんの事、教えなくて……
──ううん、私に気を遣ってくれたんだよね。気付けなかった私がバカなだけだから。
──あすかも……大変だったみたいだね。まさか完全に心が壊れてるとは……最初びっくりしたよ。
──私……弱いから。
──いや、あすかは強いよ。だって、今年1月まではまともだったんでしょ? 俺なんか……もっと前からぶっ壊れてたもん。今生きてるのが不思議なくらいだよ。
──www リサさんに治して貰ったの?
──お? 良く知ってるね。9カ月くらい一緒に暮らして結婚寸前までいったけど、結局振られたよ。……あの斎藤さんと一緒になるんだって。
──あ……またやったんだ。
──あ……い、いや……た、たまたまだから。リサにとっての運命の人は斎藤さんだったってだけで……
──ごめんね……私のせいで。
──しょうがないよ、1人しか選べないんだから。あすかは放っておけないからね。
──私、いっつもたくみ君の邪魔したり迷惑かけてるね。
──ま、それが俺の運命なんだろうね……別にいいよ。
──ありがとね、こんな私と一緒にいてくれて。
──水臭いな~。何、今更言ってるのさ。俺がそうしたいからしてるだけだって。
──ずっと言葉、届いてたから。たくみ君、感じてたから。
──あ、無駄じゃなかったんだ、良かった~。案外大変だったんだぜ? 1人でしゃべり続けるのって。傍から見たら俺、変人そのものだったし。
──私、間違ってたのかな……
──ま、俺もあすかも間違ってたかもね。結果的に凄い遠回りしちゃったし、色んな人、巻き込んじゃったし。けど、これから間違わなければいいだけだから、問題ないよ。
──そうだよね。……これから間違えなければいいんだよね。
──まだ人生、半分以上残ってる筈だから、これから十分挽回できるって。
──そうだよね。……もう間違えちゃダメだよね。……たくみ君、ごめんね……バイバイ、元気でね(チュッ)
──……え? あす……か?
目が覚めた時、隣にいる筈のあすかの姿は──忽然と消えていた。
微かに残る唇の感触が……あすかが俺にくれた最期のプレゼントとなった。
翌朝……九重は──
補足?
今回はさらに輪をかけてどよよーんとした内容ですね。
九重の直の内容はここまでなので、これでエピローグを終えてもいいのですが、、もう少し続けます。
悲劇には変わらんですが、ちょ~っとだけ(?)「はぇ~」という内容になるかな?
最後の補足にぐわ~っと色々書きます。
九重のエピローグは後3回で終わり。ただ、その続きの最後のエピローグと共にセットの様な内容ですので、できれば最後のエピローグまで読んでみて下さい。特に最後のエピローグのラストは、誰もが驚くでしょう。(最後のエピローグは全4話(もしかしたら数話付け加えるかもですが、おまけに近い内容です))
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