たくみの営業暴露日記

たくみの営業暴露日記~最後の210日~第9話:ロビンソン

たくみの営業暴露日記

「誰も触~れ~ない~、二人だけ~の国~、君の手を~離さ~ぬよ~うに~♪」

「イエーイ! たくみちゃん、いいね~!」

時は10月末──加藤はいつものカラオケ店に畑口と2人で来ていて、スピッツのロビンソンをカラオケで熱唱していた。

普段の様にお酒を浴びる様に飲み、そして狂ったように歌いまくる……何一つ変わらないふりをしていた加藤の変化にいち早く畑口は反応した。

──ロビンソン熱唱後

「たくみちゃん……悪い事言わないから、やめときな……」

「──え? な、何がですか?」

「気持ちは分からないでもないけど……絶対望んでないから、彼女」

「い、いや……気のせい──」

「運命の人、楓ときてロビンソンと来たら、ピンと来るわよ……」

「よ、よく分かりましたね……流石、月光の囁きを愛読書にしているだけありますね、伊織さん……」

「たくみちゃんも、あの作品をただの変態エロ漫画と捉えず、裏に潜む本質を理解したのね……そこからスピッツを学ぶとは……流石、稀代の変態……」

「そりゃ、伊織さんから散々英才教育受けてますからね。……さて、久しぶりに勝負しませんか? 今の俺なら……伊織さんに一泡吹かせられる筈ですから」

「ハッ……懲りずにまたこの私に賭けを挑むとは……いい度胸してるわね。いいわ! 返り討ちにしてあげるわ! で……勝負の内容は、何?」

「伊織さんの怒りの感情を引きずり出す……というのはどうですか?」

「ハッ……何を言い出すかと思いきや……できるものならやっ──」

「伊織さん、もしラルクのhydeさんが実はゲイでマッキーとデキてるという噂、俺のメルマガに流したらどうなりますかね?」

「ふざけるんじゃないわよ! もしホントにそんな噂流して彼が失墜したら、地の底までたくみちゃんを追いかけて嬲り殺すからね!」

「フッ……伊織さん、本気で怒るとそういう風になるんですね。怒った顔も中々キュートでしたよ」

「クッ……神を冒涜する汚れたBLネタを持ってくるなんて……まさかここまで成長しているとは……流石、キラーキング……」

「素朴にマッキーがネコでアンアン言って──」

「ぶっ殺すわよ!」

「……なるほど、人の記憶に残りたい場合、あえてこういう手もあるんだ……激しい憎悪という感情で強く意識させた後、ストックホルム症候群の応用で大半の人はどうにかできそうですね。……滅茶苦茶リスキーでしょうけど……やっぱりやる価値は大いにありますね」

「た、たくみちゃん? どうしたの? 何か危ない事、考えてる?」

「……まだ朧気ですが……これで独立系FPへの道筋が大まかに完成しました」

「今の危ない話から、どうしてそうなるのよ……」

「簡単に、昨晩思い描いた構想を話しますと────」

──15分後──

「──という感じです。個人的には案外いい線いける気しますが、伊織さん、どう思います?」

「……たくみちゃん、悪い事言わないから、やめときな? 最悪、社会的に潰されちゃうよ? 生きていけなくなっちゃうよ? 世の中、たくみちゃんが思う以上に残酷だから」

「……想定済です。大きすぎて潰したくても潰せない存在になるまでに消されたら……ま、俺はそれまでの存在って事で甘んじて最悪を受け止めて自ら消えますよ。ただ……そこまでの存在になったら……その後はどうとでもなりますよね?」

「確かにそうだけど! リスク大きすぎるじゃん! 何よ、最悪を受け止めるって。それじゃ、まるでホントに命懸けるみたいじゃない!」

「元からそのつもりですよ……何のバックボーンもない無名の男が成り上がろうとしてる訳ですから。これくらいのリスクはしょうがないですよ」

「そもそも、その過程の中に強力な味方が現れる事が前提になってるけど、現れなかったら終わりじゃん!」

「伊織さん、言ってくれたじゃないですか。俺は……一生人に助けられて生きていく宿命にあるって。なら……きっと現れますよ。こんな狭い街ですら……俺を助けてくれる人にたくさん出会えた訳ですから」

「1人で耐えられる筈ないじゃない! いくらたくみちゃんがドMでも……最後まで持たないよ……壊れちゃうよ……」

「……伊織さんがこれだけ本気で心配してくれるって事は……そこそこ現実味があるからって事ですね。少なくとも潰されそうになるくらいには……なれる訳だ」

「壊れたら意味ないじゃない! そんな事しても、彼女、喜ばないよ? 望んでないよ? たくみちゃんが幸せになる事──」

「妹達が許しませんよ……俺が幸せに、なんて。せめて……あの子達の望み、叶えてあげないと。誰よりも辛い思いして、苦しんで、壊れながら逝かないと」

「…………」

「あの子達や美幸が味わった絶望、苦悩、喪失感……全部俺も味わわなきゃ……」

「……そっか、たくみちゃん、ロージャになりたいんだ……罰を受けたいんだね」

「──?!」

「だったら……協力するよ。その代わり、もう限界だと思ったら……その子達の所に行きな。きっと……そこでたくみちゃんの旅が終わるから」

「い、意味分かりません……」

「分からなくてもいいから……それだけは絶対する事! 約束だよ!」

「わ、分かりました……」

「間に合うと……いいね」

「……俺もまだまだですね。さっきから伊織さんの言ってる意味、全然理解できません……」

「勉強不足だよ。ドストエフスキーの後期五大長編作品や旧約聖書や新約聖書くらいは読破しないと」

万巻の書を読み千里の道をゆく……ですね」

「文籍腹に満つと雖も一嚢銭に如かず、だけどね」

「両脚の書廚はダメだよ、と」

「知は力なりだからね」

「……君と共に一夜話せば十年の書を読むに勝る、です」

「安西先生の気持ち……初めて理解したわ」

「──え?」

「……私に出藍の誉れ、味わわせてね。不貞の弟子になったら……承知しないから」

「……はい」

挿話?

恐らく今回に関しては多くの人が???になっているでしょう。

覚えている会話をそのまま書いたら、こんなになっちゃいました。

補足します。

ロビンソン……言わずと知れたスピッツの最大のヒット曲ですね。曲調より何となくロマンティックな歌として捉えている人が多い気がしますが、詞を読み込むと「後追い自殺の歌」だったりするんですな。で、畑口は悪いことは言わないから~と。(スピッツはこういう歌が多い。楓とか代表的でしょうかね)

ロージャ……ドストエフスキーの「罪と罰」の主人公の事です。罪を犯して紆余曲折あって自殺しようとしたけど、改心して自首したよ~という話。これになぞらえて、発言しているのですな。

後は、各種偉人の格言が会話になっているよ、と。

「暗に後追い自殺を決意しているよ~というのを、罰に置き換えてやめさせようとした」

一言で書くと、こんな感じですかね。実際、この時の言葉は妙に心に残っていて、4年後に繋がりました。ちなみに、この話を知っているのは、畑口のみ・・・ですね。

「間に合う」云々の話は……いずれ書くかな?(ただ、かなり後になるでしょう。この章、そして退職後の軌跡の後・・・外伝挿話の後の話になるので。

 

今回で分かると思いますが、畑口は異様に博学でした。訳の分からん知識から異様に難しい文学書まで・・・

「夜の街で生きていくなら、これくらいは当然だから。だって、どんな人でも話を合わせる必要があるからね。ゴシップ誌から経済紙まで把握するのはこの世界では普通だから。流石にドストエフスキーで語り合ったのはたくみちゃんだけだけど」

さらりと言う彼女・・・凄いな、と。恐らく未だに当時の畑口の域には達していないと思います、自分。

この頃くらいからですかね、畑口に影響されて週1のネットカフェ通いをし出す様になったのは。毎週発売される雑誌という雑誌を片っ端から読み込んでましたね。(ファッション誌やら少女漫画まで、何でも・・・この時の影響で、未だに趣味の一つでネカフェで漫画を読み込む~というのがあります)

一体何が為になったのか、いまいちよく分からんですが、異質な発想に磨きがかかった・・・のは確か、なのかな?

 

この時の計画書的なもの、残っていればそのまま掲載したかったのですが、記録は残っておらず・・・

これ、見たら多くの人が「化け物」「キチガイ」と言ったでしょう笑

その中身については・・・ま、畑口の言葉より察して下さいませ。

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