第3話:ワンマン
「え~、今から今日の活動報告をして貰う。名を呼ばれたら俺の所に来るように」
横田新営業部長が来て1ヶ月、毎日のように4時帰社の後の活動報告が行われていた。
毎朝、毎夕と「今日の活動予定は?」「結果は?」「見込みは?」という状況報告にウンザリしている人も決して少なくはない。
加藤も例外なく、かなりウンザリしていた。
「加藤、ちょっと…」
指で合図と共に加藤が呼ばれる。かなり憂鬱な足取りで営業部長の元へ行く。
「さて…今日の成果は?」
「今日は取れてません」
「見込みは?」
「いや、分かりません」
「…今日何してた?」
「飛び込みと馴染みです」
「活動手帳見せてみぃ! …これじゃどこに行ったか分からんだろ!」
「いえ、地区ノートの地図に印つけてやってるんです」
「(そのノートを見て)で、どれが見込みだ?」
「いや…全て見込みになるかもしれないですし、ならないかもしれないです。そんな事分かりません…」
「なんじゃそれ? お前、設計書の枚数が少ないなぁ。設計書バラまけや」
「いや…いきなり設計書なんて持っていけません」
「アホ! 設計書持っていかないと見込みがあるかどうか分からないだろ!」
「…何度も言ってるように、俺は話があった所にしか設計書は持っていっていないので──」
「アホ!! それじゃいつまでたっても成果挙がらないだろが!」
「…今までそれで成果挙げてましたが──」
「そんなのマグレだ! いいか、俺の言う通りにしろ! 今は俺が上司だ!」
と、こんな調子である。
営業部長の営業手法はというと、アンケート取って設計書を配って、反応があった所をオトす、という非常にシンプル(?)な方針である。
一方加藤は、というと…アンケートを取るまでは同じではあるが、そこから執拗な馴染み活動、馴染み活動の際に保険の話やら紹介が出てそこから保険を取っていく、という手法である。
一見、加藤の営業活動はかなり非効率的とも思われるが、それで現に今まで人一倍の成績を挙げてきており、今まで誰もその活動手法に対してケチをつける人は存在しなかった。(マネしようとしても、恐らくは非常に難しいであろうが)
営業部長の方針は、というと、「1人の天才よりも、10人の凡才を作る」という手法といえる。
確かに今まで成績不振で営業方法の指示を望むものにとっては好ましい指導なのかもしれないが、自己の営業スタイルが確立している加藤にとってみれば、足枷・ストレス以外の何ものでもなかった。
(成果挙がればいいんじゃないのか、なぁ。どうやって契約取ろうが、同じ契約には変わりないのに…)
活動時間の制限、動きに対しての逐一の文句。 知らない間に加藤の中でのリズムが徐々に狂いはじめていた。
現に1ヶ月の成果は、ノルマぎりぎりの数字しか挙げられなかったのである。 (営業で動き回っていて、久しくなかった数字)
一方、勝野は? というと…さらに調子を崩していた。当然であろう。自分以上に特殊な動きをしていた勝野にとってみれば、全く違う営業をせい! と言っているようなものなので。散々たる結果がそれを大きく示していた。
勝野が加藤の横でボソリと呟いた。
「あ~あ、なんか息苦しいよなぁ。…辞めちまおうかな。。」
冗談とも本気とも取れる勝野の呟きに対し、加藤は苦笑いで返すのが精一杯であった。
挿話
はい、、こんな営業部長でした。人によっては「いい営業部長だ」と言ってましたが、、自分にとっては、ねぇ。。仮に最初の営業部長がこの人だったら、、1年持たなかったかも。。
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